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告られ彼女の守り方 ~偽装から始まる、距離感ゼロの恋物語~  作者: 鶴時舞
6章 夏休み後半

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第94話 蒼真の女難の相

 昼休みに自販機にパックジュースを買いに来た。お目当ては俺が最近ハマってる『豆乳檸檬抹茶』だ。ちなみに全く美味くない。喉にへばりつくような癖になるテイスト。余韻がずっと残るフレーバー臭。ふふ、玄人にしか分からないだろうな。


 ――そういや9月も半ば。来週、俺が出てる雑誌が発売だったかな。気になって、ついそわそわしてしまう。


「だーれだ!」


「……。飯野さん、かな……」


「せいかーい!」


「……そういうのって普通は後ろから目隠しするんじゃないすか」


 シュタタタッと俺のもとにやってきて獲物を捕らえる肉食獣のように正面からハグしてきた飯野さん。顔も近い。なんだか食われそう。

 周囲に誰もいなかったのが幸いだ……。


「美味しそうなの飲んでるね! どれどれ」


「あ、ちょっと!」


 俺の豆乳檸檬抹茶を奪い取り飲みだす。めちゃくちゃだなこの人。


「うわっ、なにこれまっず! 返す!」


「んぐっ!」


 俺の口にストローを突っ込んでくる飯野さん。なんだこの全く嬉しくない間接キス。余韻も何も無い。


「君の教室に行こうと思ったところだよ! はい、これあげる!」


「おおお! これは俺が載ってるやつですかっ!」


 夏休みに撮影した広告が掲載された女性向けのファッション誌だ。今さっき気にしてたところだったからびっくりだ。フラゲできたのか。


「志帆から奪ってきた!」


「えええ!? 奪ったってそんな、大丈夫なんですか?」


「蒼真くんに渡すって話してあるから問題ないよ! それより見てよ! このイケメンっぷり!」


 確かにあの日の俺は、ほんの一時だけイケメンになれた気がした。今では髪も伸びてきて、全くあの時のようなセットは出来ないけども……。

 逸る気持ちが抑えられない。


 近くのベンチに座り飯野さんと二人で雑誌を覗き込む。つうか顔がめっちゃ近い! 学校用の薄い化粧だけど、やっぱり隠しきれない肉食感。ムスク系の大人っぽい香りにドキドキしてしまう。


「ほらこれ、この広告。志帆はやっぱ綺麗だね! 蒼真くんもかなりイケメンに撮れてるよ!」


「……これ、俺に見えます?」


「全然見えない!」


 あっはっはー! と、大笑いする飯野さん。正直カメラマンの腕の良さと画像補正が効きすぎて、俺のようで全く俺に見えない。

 モデルの名前もイニシャルしか載せてないからきっと俺ってわからないぞ。


 秋物の衣装を着た二人がイチョウ並木を歩いているようなシーンだけど、こんな場所行ってないし、なんだかすごいんだな……。別世界の俺の写真って感じしかしない。


「あー! いた! 美樹ちゃんずるい! 先に蒼真くんに見せるなんて。一緒に見ようって言ったのにー!」


 背後から生徒会長の御影先輩が現れた。その端正な顔立ちとスラッとしたモデル体型。そんな特別綺麗な先輩の怒り顔は、やっぱり可愛かった。


 飯野さんは悪びれること無く、しれっとした表情を浮かべる。


「志帆がトイレ長いからだよ。休み時間終わっちゃうじゃない!」


「便秘なんだからしょうがないじゃないー!」


「ば、ばかっ志帆! 人が言わないであげてたのに!」


 あーあー。聞いてないです。そんな顔をとりあえずしておいた。

 やっぱり御影先輩はポンコツだなあ……。


「蒼真くん、すっごいかっこよく撮れてたね! 私の彼氏役だって。きゃー! 恥ずかしいね!」


 いつの間にか名前呼びになってる御影先輩。俺の背後に立ってギュッと肩を掴んで一緒に雑誌を覗き込む。背中に遠慮なく当たる感触に心臓が跳ね上がる。すぐ隣には飯野さんの顔が、背後には御影先輩がくっついてる。何だこの状況は……。


「先輩たち、お願いですから少し離れてください……」


 この状況に耐えきれず、思わず泣きを入れてしまった。

 御影先輩はきょとんとしてる。飯野さんはニヤニヤしっぱなしだ。この人絶対わざとだ。


「蒼真くん、お姉さんたちに翻弄される気分はどうかな? そうだ!ねえ、今度3人でカラオケ行かない?」


「あ、カラオケ良いねー! 私歌いたい歌あるんだー! 」


「あー、いや、そうじゃなくて。まあいっか。今度行こうよ! ね!」


「すみません、俺彼女いるんで遠慮させてください!」


 丁寧に断ってから雑誌を戴きつつ、その場を後にした。

 飯野さんは「ふふ、君は断れないよ!」とか意味深な言葉を冗談ぽく言ってたけど、本気じゃないよな……。


 上級生とのコミュニケーションは難しいなあ。



 教室に戻ってから、羽依、隼、真桜で雑誌を開いた。


「先に姉さんから見せてもらったけど、カメラマンの腕がやばすぎたな! 蒼真の芋臭さがすっかり抜けてる」


 隼はニヤニヤしながら言ってるけど、普段芋臭く見えてるんだな。ちくしょう、都会っ子め。


「燕さんは俺ってわからないとは言ってたけど、実際わからないよなあ。プロの技術ってすげーよな」


 俺の言葉を聞いた羽依は、なんか震えてる。どうしたんだろうか。悪寒?


「これで蒼真が分からないって? そんなはずないじゃん! 誰がどう見たって蒼真だよー! 蒼真の格好良さがバレちゃうじゃん!」


 机に突っ伏した羽依を真桜がよしよしと慰める。


「大丈夫よ羽依。分かる人にしか分からないわよ。でも、確かによく撮れてるわね。こんなに上手に撮ってもらえるなら、モデルもやってみても良いかなって思ってしまうわね」


「真桜がやるなら私もやろうかなー……」


「おお、姉さん言ってたぞ。 『あの二人がいたら天下取れる』って。もし二人がその気なら、モデル事務所を開業しちゃうかもな」


 燕さんなら何やってもうまく行きそうだな。

 それに、この二人を抱えてたら間違いなく成功しそうだ。

 でも正直複雑だなあ……。







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