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告られ彼女の守り方 ~偽装から始まる、距離感ゼロの恋物語~  作者: 鶴時舞
6章 夏休み後半

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第91話 文化祭の打ち合わせ

「蒼真、離れたくないけど、……仕方ないよね」


「うん、こればかりは仕方ないさ。ここでお別れだ」


 お互いに手を取り合って別れを惜しむ。――時間が来た。


「蒼真、みんなに迷惑かけないでね。それじゃあ、さようなら……」


「羽依……。うん、さようなら」


 いつまでも振り返って手を振る羽依に耐えきれず、背を向ける。


 また会おう。さようなら、羽依――


「――藤崎くん、そろそろ良いかな」


 いつも穏やかな相楽さんが眉毛をひくひくさせている。

 むう、俺たちの別れを茶番だと感じたのなら心外だ。


 文化祭の準備の打ち合わせということで、放課後居残りをすることになった。

 これからそういう事も増えていくだろう。

 美咲さんは「学校行事が優先だよ!」なんて言ってくれたが、お店の忙しさを知る俺たちとしては、どちらかがバイトに専念し、一人が居残るという事に決めた。


 相楽さんは家庭科部員ということで、調理と衣装班の班長を受けてくれた。

 彼女の指揮のもと、焼き菓子やコスプレ衣装の準備を進めることとなる。

 メンバーは6人。だけど俺と羽依は交代制だから、実際には5人で動くことになる。

 もっとも羽依と俺も文化祭当日は給仕に回る事が決まっているので、仕事量は、やや多めとなる。


「なんでもするんだもんね~蒼真」


 そう言ってニヤニヤしていた智ちゃんに嵌められた格好だが、致し方ない。こうなったら最高のコスプレウェイターになってやろう。


 今日は打ち合わせの初回ということで、焼き菓子の内容を詰めていくことになった。


「焼き菓子に関してだけど、自作は難しそうね~。間に合わないと思う」


 あらま、前提から崩れちゃった。やっぱり厳しかったのかな?


「え、それなら家のオーブンで事前に焼けばよくない?」


 調理班のメンバー、小笠原さんが口を挟んだ。俺も同じようにお店のオーブンなら大量生産できるかな……と思ってたから、ちょっと意外だった。


「それがダメなのよ~。おうちで作ることが禁止なんだって~」


「衛生面でってことなのかな? それなら仕方ないかあ」


 相楽さんがうんうんと頷いている。やはり学生の模擬店って制約多いんだな。


「そこで、地元の洋菓子店の協力をお願いするってのはどうかな。いくつかの小さいクッキーとかを個包装にしてもらって、うちらでシール作って貼るの」


「いいんじゃないかな! 作るのは楽になっちゃうからその分コスプレ衣装で頑張ろうか!」


 小笠原さんを筆頭に、みんな納得している様子だ。俺としても良い話だとは思うけど。


「その地元の洋菓子店には伝手とかあるのかな?」


 俺の意見に相楽さんがにっこりと応える。


「あるんだよ~。うちの親戚が近所で洋菓子店やってるんだよ~。ちょっと大きくてさ、お菓子工場持ってるから融通聞くと思うんだ」


「じゃあそこにお願いしたほうが良さそうだね。内容と値段はどうしようか」


「じゃじゃーん、サンプルあるんだよ~。お茶にしようよ!」


 おおー! と、どよめきが走る。相楽さんは演出上手だな。

 おっとりしているように見えて、やり手なところはお姉さん譲りかな。


 みんなに配られた焼菓子セットはクッキー2個とパウンドケーキ1個フィナンシェ1個の組み合わせ。ボリュームは十分だ。

 洋菓子店のパッケージには「洋菓子店シュシュ」と記載されている。


「結構豪華だね。これで仕入れ値と売値はいかほどに?」


「仕入れ値200円で売値は300円。利益率33%ってところだね~」


 早速みんな食べ始めた。口々に美味しい!という声が上がってる。俺もパクリと食べてみたが、うん、これは美味しい。文句なしだ。少なくともこれより美味しいものを提供する自信はなかった。


「仕入れ値200円は身内価格っぽいね。大丈夫なの?」


「地元の学校に協力するんだもの、このぐらい全然大丈夫だよ~」


 そう言ってくすくす笑う相楽さん。わりとしっかりしてるんだなと感心した。これは智ちゃん尻に敷かれちゃうな。


「藤崎くん、お姉ちゃんと仲良くしてくれたんだってね。ありがとうね」


 相楽さんがそっと笑顔で言ってくれる。ふわっとした優しい雰囲気はやはりお姉さんとよく似ているなって思った。


「相楽さんのお姉さんすごかったよ。あの店って忙しいのにあっという間に順応してた。一流のホテルマンって格好良いね!」


「 ええ~そうだったんだ~。お姉ちゃんの格好いいところ見たかったな~。ランチタイムだけなんだよね。なかなか見に行けないなあ」


 残念そうにしている相楽さんの様子は幼さを少し感じさせた。

 思った以上に表情がコロコロ変わって可愛らしいな。


 まったりとしたティータイムを終え、焼き菓子の方向性が決まったところでお開きとなった。

 文化祭、いい感じに盛り上がりそうだ。

 そんな予感が、みんなの笑顔から伝わってきた。次はコスプレ衣装の打ち合わせになるだろう。


 下校しようと下駄箱に向かった。時刻は17時半を過ぎた辺り。空は赤色から藍色に移り変わっていく。早く帰ってバイトに行こう。


「藤崎くん。今帰りなのね」


 その声に振り返ると、九条先輩だった。

 久しぶりの対面に少し緊張が走った。













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