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告られ彼女の守り方 ~偽装から始まる、距離感ゼロの恋物語~  作者: 鶴時舞
6章 夏休み後半

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第90話 文化祭の出し物が決まりました

 日曜の余韻をまだ引きずったまま、月曜の朝が来た。

 羽依と並んで歩く通学路。昨日ちょっと踏み込んだスキンシップをしてしまったせいか、通学路を歩く二人の間には、ほんのり照れくさい空気が漂っていた。お互い、なんとなく口数が少ない。


 羽依の視線には微かな熱があって、その表情が妙に色っぽく映った。朝からなんて顔をしてるんだろう。まあ俺もかもしれない。だって顔がとにかくあっつい!


「蒼真、なんか真っ赤だよ。熱あるんじゃない?」


「ふぇ? そんなことないんじゃないかな。多分昨日の余韻かもね」


 そう言うと羽依は顔を真っ赤にして伏せた。


「なんか思い出すと恥ずかしくなっちゃうね……。でも、あのぐらいまでがうちらには丁度いいんだろうね」


「丁度いいならまた触っても良いの?」


「ん~、そのうち。ね」


 羽依は恥ずかしそうに視線を逸らした。


「そっかあ、でもあの感触はすごかったな……。痛くなかった?」


「――痛くした自覚はあるの?」


 羽依がジトッとした目で見つめてくる。正直言えば夢中になりすぎて、強くしすぎたかもしれなかった。


「強すぎたかなとは思うかな。加減もよくわからないし。どうだった?」


 俺の問に答えようとするものの、途端に恥ずかしそうに下を向く、そしておもむろに手に持っていたバッグをグルンと回して背中にドカッと当ててきた。


「あいたあああ!!」


「ばか! そんなの聞くもんじゃないでしょ!」


 怒った羽依はスタスタと俺を置いて歩いていった。

 デリカシー無さすぎたか。ホントダメダメだなあ……。


 教室に入るとまっさきに真桜と目が合った。心配そうに駆け寄る真桜。


「おはよう蒼真。その、土曜日はごめんなさい。体大丈夫? って、なんか涙目だけどどうしたの?」


「おはよう、羽依にクリティカルヒット食らった。いたたた……」


「おはよう真桜! 蒼真が悪いの!」


「はいはい、ここじゃ迷惑だから……って、なんか毎日似たようなこと言ってるわね。……貴方達揉め事起こしすぎ」


「「ごめんなさい……」」



「そんな二人の赤裸々なおのろけ話を朝っぱらから聞かされるとは思わなかったわ……」


 呆れた眼差しを俺達に向ける真桜。羽依も馬鹿正直に昨日の話を全部言う事ないだろうに……。


「あう、ごめん。――でもさ、蒼真ってすごい……とも思うの。男の人って……その、耐えられるものなの?」


「……朝からすごい会話に持ってくね。結論から言えば耐えられる」


 俺の鉄の意志をなめちゃいかん。羽依が帰ってからがむしろ本番だからな。


「そういうものなの? 私はもっと本能に正直になるのかと思ったわ。未だにピュアな二人って何だかすごいわね……」


 真桜まで食いついてくる。ああ、これ玩具にされるパターンだ。


「多分私だけじゃ駄目なのかも知れない。今度真桜と二人がかりで襲ってみようか。蒼真の野生が目覚めるまで悪戯作戦!」


「……それ私になんのメリットがあるの?」


「えー、興味ないの? 荒ぶる蒼真とか見たくない?」


 思案顔の真桜。おいおい、ストッパー役が仕事放棄か?


「……んー、興味なくはないわね。いつも済ました顔をしている蒼真が本能に目覚めるところか。うん、楽しそうね……」


 ニヤニヤしながら俺の顔を見つめる真桜と羽依。


「じゃあ夜にでも作戦会議しようね!」


「そうね、道具とかもあったほうが良いのかしら。考慮しておかなきゃね」


 きっとクラスのみんなは俺たちのことを真面目に勉強してると思ってるんだろうな。あまりにおバカな会話を繰り広げている学年1位と2位で申し訳ないったらありゃしない。

 だれか助けてー。



 LHRの時間になった。先週ある程度決まった文化祭の出し物を決めるため、智ちゃんが教壇の前に立つ。


「じゃあ文化祭の出し物決めるよ~。やりたいもの挙手~」


 相変わらずの間延びした語り口調が妙に癖になる智ちゃんの司会。


 さあ約束通り俺も挙手をしないとな。


「はい蒼真、よろしく~」


「喫茶店が良いかなって思うんだ。簡単なコスプレをする感じでどうかな」


 周りからは賛同の声が多かった。思った通り好印象かな。智ちゃんが黒板にコスプレ喫茶と書いた。


「ありがと~。他にあるかな~」


 数名が挙手をした。内容は“チャイナ飲茶” “たこ焼き屋” “回転寿司” “焼き肉きんぐ”等など。

 ツッコミどころも多かったが、チャイナ飲茶店はとっても魅力だ。でも、羽依のチャイナ服姿はあまり見せたくないなあ……。


 採決の結果、俺の意見が選ばれることになった。チャイナ飲茶と票が割れたので、みんなの惜しむ気持ちが垣間見えた。


「雪代さんのチャイナ服姿見たかった……」「うぅ、結城さんのチャイナ服……」


 欲望渦巻く男子たちの怨念が漂っているようだった。つうか口に出しすぎだろ。個人名を出すな。あと俺を睨むな。


「みんなありがと~。じゃあ後はコスプレ喫茶の内容を決めていこうね~」


 当初の予定通り焼き菓子を事前準備する段取りとした。家庭科部の相楽さん筆頭に準備をお願いすることになった。


 コスプレも自前で出来るものは用意してもらうとして、家庭科部でお裁縫もしてもらうことになりそうだ。

 相楽さんだけではもちろんキャパオーバーなので、有志を募って準備をしておくことにした。


 ティーカップなどは使わず、紙コップを準備する。衛生面なども十分に配慮しなくていけない。


 事細かに決まった内容を智ちゃんが纏め上げ、真桜に手渡した。


「結城さんよろしくね。多分問題ないと思うんだ」


「ええ、大丈夫よ。広岡くんありがとう。お疲れ様」


 真桜の優しい微笑みに、なぜかタジタジになる智ちゃん。きっと真桜の優しい面を知らなかったんだろうな。


 学校ではクールに見られがちな彼女。特に羽依を守るために必要以上にそうしていた部分もあった。

 俺や羽依、あと隼とも最近は仲良く話しているが、基本、壁を作りがちな彼女だ。勿体ないなって思う。

 文化祭では彼女の違った面をみんな知ることになるだろうな。きっとみんな虜になる。


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