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告られ彼女の守り方 ~偽装から始まる、距離感ゼロの恋物語~  作者: 鶴時舞
6章 夏休み後半

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第84話 キッチン雪代は人手不足です

 智ちゃんたちと分かれ、俺たちは帰宅の途につく。辺りはほんのり赤みがさしている。影が少し長くなり、秋の訪れを感じさせた。

 

 文化祭の出し物の続きを語りながら、のんびりと帰り道を歩く。


「あの二人、一生懸命だね~。やっぱり文化祭はクラス委員長としてのメインイベントなんだろうね」


「そうだねえ。あんな感じに来ると、俺も協力したいなって思うよ」


「だから『何でもする』って言っちゃうんだよね。迂闊だよねえ蒼真は」


 羽依がけらけらと笑う。まあそんな悪い事には使わないよな。多分。


「広岡くんとちーちゃんって、仲良いよね~。夏休みで何かあったりしたのかな!」


「何も無いってことはないだろうね。うちらだって色々遊びに行ったし」


 羽依はチッチッチっと指を横にふる。たまに芝居がかったことするよなあ。表情も豊かだし、いつでも愉快な子だった。


「そうじゃなくてさあ! こう、なんていうの? 男女的な進展とかさ!」


「あ~どうだろうね? でも確かに距離感近くなったかも。羽依はどう思う?」


「うん~わかんない! でもあのおっとりとしたちーちゃんが二人きりだと攻めに入るとかさ! なんか興奮しちゃう……」


 羽依はのぼせそうな表情でうっとりしてる。すごい妄想してそうだ。


「向こうも俺たちと同じこと想像してたりしてね。『あの雪代さんが攻めで蒼真が受けとか』なんて言ってたりとかね」


「え~やだ! 私は攻めないよ! 蒼真が攻めるの!」


「じゃあ明日二人に言おうか。いつも俺から攻めて、羽依は受けだって。色々想像されそうだね」


「うー! 蒼真はたまに意地悪だ……」


 因果応報だなあって思った。


 文化祭ももちろん大事だけど、それより気になるのはやっぱりお店のことだった。


「それよりさ、お店のほうが心配なんだよね。お昼二人居なくなって美咲さん一人でしょ。大丈夫かなあ」


「私もホントそれが気になってるの。お母さん平気平気っていうんだけどさ! あの忙しさだよ? それに、せっかくお昼のお客さん増えたのに、回転悪くなったら客足逃げちゃうよね~」


「バイト入ってくれる人がいたら良いんだけどね。あの忙しさじゃ難しいだろうねえ……」


 簡単にどうにかなるような話ではないのが辛いところだ。


 今日は少し遅くなったので、アパートに寄らずにそのままバイトに入ることにした。

 着替えはすでに何着か持ってきてある。雪代家にそのまま住んでも大丈夫な程度には下着類も持ってきてあった。


「もうすっかり我が家の一員だよね~」


 満足そうな羽依の表情。熱い眼差しを俺に向けてくる。ちなみにここは雪代家の俺の部屋で、ただいま着替え中。


「そうだね。でも着替えるから出ていって欲しいな」


 ぶーっとしながら先にお店に向かう羽依。たまにセクハラおじさんみたいになるよなあ……。


 ――ティロリン


 LINEが来た。誰からだろうか。

 

 うおっ……早速九条先輩からだ……。


 画面を開くと、可愛い黒猫が昼寝している写真だった。


 なぜ猫の写真を俺に送ったんだろう。単純に可愛いからかな?

 とりあえず「可愛い猫ですね」と返事を送っておいた。

 それから返事は無かった。

 謎だ……。



 今夜のまかないは羽依が担当だ。何作るんだろう。楽しみだな~。


「今日のまかないは焼きそばだよ~!」


 シンプルだけど具だくさんな焼きそばだ。

 豚バラ、人参、ピーマン、玉ねぎ、もやしと栄養価満点。ソースの焼ける香ばしい香りが食欲を刺激する。

たっぷり青のりをかけて完成だ。


「美味いね~! 具だくさんなのって好きだなあ。火力もあるからワンランク上の焼きそばって感じだね。麺が少しカリッとしてるのがすごく良い!」


「蒼真は分かっちゃうね! 麺をしばらく置いてカリッとさせると香ばしさアップ! 美味しいよね~」


「ふふん、羽依も包丁使えるようになってから料理の腕前が大分上達したね。蒼真のおかげだねえ」


 美咲さんは顔をほころばせ喜んでる。可愛い娘の作る焼きそばはさぞかし美味いんだろうな。


 夜のバイトが始まった。

 今日も大勢のお客さんがご来店。いやあ~めっちゃ忙しい。

 昼に一人でこれをこなす美咲さん。一体どんな風に働いているんだろうか。


 汗だくでフライパンを回す美咲さん。その姿は俺の崇拝する気持ちも相まってとても神々しく感じる。ホント綺麗で格好いいなあ。


 今日も閉店まで大忙しで終わった。

 片付けと掃除をしながら美咲さんにお昼のことを聞いてみよう。


「美咲さん、今日のお昼は大変じゃなかったですか?」


 美咲さんはげっそりした表情で頷いていた。


「やっぱ正直しんどいよ。二人のありがたさを痛感したね。もう一度バイト考えてみようかねえ」


「お母さんがそういう風に言うの珍しいね。それだけ大変なんだよね~」


「二人じゃなくてもいいからお昼に一人だけ、それも能力がある程度高くないとうちは難しいだろうからね。良い人はいないかね」


「求人ってのは駄目なんですか?」


「職安は駄目だね。女性だけの募集は出来ないしねえ。ただでさえうちは美人揃いだ。下心ある男なんて来たら目も当てられない、断って逆恨みされても嫌だろう」


 過去に散々な目に合ってきているだけに深刻な話だった。


「なるほど、思った以上に難しいですねそれは……」


 男性恐怖症を克服しつつある羽依に悪影響があってもいけないしな。その点から言えば、俺はきっと理想的なバイト要員だったのかもしれない。

 何かいい方法はないだろうか。

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