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告られ彼女の守り方 ~偽装から始まる、距離感ゼロの恋物語~  作者: 鶴時舞
6章 夏休み後半

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第83話 九条先輩と繋がった日

 昼休み、食事を終えた俺は自販機へ飲み物を買いに来た。


「蒼真くん」


 この声は……。

 思わずビクッとして振り向くと、穏やかに微笑んでいる九条先輩がいた。スラッとしたスタイルに黒いセミロング。一瞬で心を掴む三白眼の鋭い視線。夏祭りの時の浴衣姿も綺麗だとは思ったが、この学校の制服姿もとても良く似合っている。


 ああ、やっぱりこの学校の生徒なんだよな、と改めて思った。

 妙に現実味がないような、そんな感覚に陥る。

 ……我ながら、少しビビりすぎだよな。


「先輩、こんにちは……」


「ふふ、前髪切ったのね。セットも上手に決まってる。うん、すごく格好いい」


 優しく微笑む九条先輩。単純にそれだけ聞くと、気さくな良い先輩のようにも思えてしまう。


「ありがとうございます。自分じゃなかなか難しくて……」


 ――この話の方向はしくじったか。


「自分じゃ難しくて、誰かにしてもらったの?…… 雪代さんとか?」


 まずいまずいまずい! 背筋が冷水ぶっかけられたようにぞくっとした。血の気が一気に引くのを感じる。

 羽依に向いている矛先を俺に向けるんだ!


「いえ! 練習したんですよ、ワックス一本無駄にして。俺不器用だから、あははは」


「ふふ、そうなんだ。そんなに必死になってあの子に興味を向けないようにしてるのね。本当に可愛い。蒼真くん」


 俺に近づき髪をそっと撫でる。髪型が崩れない程度に優しく。


「私とLINE交換しない? 色々話したいこともあるし」


 先輩からLINE交換しようと言われて、断る術を俺は知らなかった。いざとなればブロックすれば良いのかな。でも、既読つかないと敵視されても困る。ああ、詰んだ……。


 観念して俺はQRコードを表示する。九条先輩と繋がってしまった。


「あはは! やった! 蒼真くんと繋がっちゃった!」


 スマホを口に当て、無邪気に喜んでる九条先輩。その喜び方には邪気を感じることはなく、純粋に繋がったことを喜んでいるようだった。

 わからないなあ……。俺は無駄に怯えていたんだろうか。


 予鈴がなった。


「じゃあ教室戻ります。先輩またです」


「またね、蒼真くん」


 艶やかな笑顔で手を振る九条先輩。それだけ見れば、とても魅力的な先輩だった。うーん、読めない……。



 目まぐるしい新学期初日も、ようやく放課後になった。


「蒼真~ちょっと良い?」


 智ちゃんからお呼びがかかった。

 智ちゃんには同じクラスのとても可愛い彼女が居る。相楽千紗さがらちさ。身長180センチと女子としては高めで、おっとりした性格の家庭科部の子だ。二人はとても仲良しで、幼馴染とのことだ。いつもくっついている。そして今も隣には彼女がいた。


「どしたの智ちゃん?」


「蒼真と雪代さんはレストランでバイトしてるでしょ。飲食やるのにアドバイスほしいなって思ってさ~」


「ああ、だったら羽依も呼んで少し話そうか」


 羽依に声をかけたら快く頷いてくれた。

 俺、羽依、智ちゃんと相楽さんの4人で多目的スペースへ行き、簡単な会議を始めることにした。


「二人の意見としてさ、現実的にできそうな飲食店ってなんだと思う?」


「ん~難しい料理はやっぱりNGだよね~。食中毒出したら駄目だからさ。料理よりも焼き菓子を事前に作るほうが良いかな~」


 レストランの娘らしく、まずは衛生観念からの発言。実に的を射てると思う。


「ふむふむ。だよね~。ちーはどう思う?」


 相楽さんは智ちゃんから「ちー」と呼ばれている。とっても可愛らしい呼び方だなって思う。俺だったら「うー」かな。なんだか唸ってるようだな……。


「羽依ちゃんの言う通りだよ~。私も調理は難しいかなって思うんだ~」


「だとしたら事前に焼き菓子を作る、もしくは生でもOKなものを提供する。フランクフルトとかなら大丈夫そうかな?ホットドッグとか」


「要冷蔵は難しいかもね~。常温で置いておけるものが良いと思う」


「そっか、そうだね。確実に傷まないものだと、手堅いものはやっぱり焼き菓子だね。」


 俺たちの意見にうんうんと頷き、一生懸命メモをとる智ちゃん。真面目で責任感がとても強かった。


「ちなみに二人とも飲食で手を上げてたよね。やりたいものは決まってるのかな?」


「私は喫茶店がいいなって思ってたんだ。簡単なコスプレとか。猫耳程度なら有りじゃないかな~」


「良いね! めっちゃ有り! 俺も喫茶店ならやりやすいかなとは思ってたんだ。焼き菓子を事前に用意するのは手伝えるからさ」


「羽依ちゃんの猫耳すっごい可愛いと思うよ~」


「私もちーちゃんの猫耳みたい!」


「私なんて大きいから似合わないよ~」


 頭を垂れてシュンとする相楽さん。


「「「そんなことないよ!」」」


 まさか3人声が綺麗に揃い、みんなツボったように笑い転げる。相楽さんも前向きに「付けてみようかな」って言ってくれたのがとても嬉しかった。是非見たいです!


「ありがとうね二人とも。方向性がちょっと見えてきたかもね。みんなの意見もあるだろうし、次のLHRでは蒼真から提案してね」


「おっけー! やれることは何でもやるよ」


 智ちゃんがちょっと悪そうにニヤッとした。あれ、なんかまた余計なこと言ったかな。


「蒼真、何でもやるって言ったね。みんな聞いてたね。言質とったからね! ここぞって時に使わせてもらうよ」


 クックックッと智ちゃんが悪そうに笑ってる。

 でも智ちゃんになら別にいいかなって思える程度には信頼があった。

 熱心に文化祭のことを考えているこのカップルには、いくらでも協力してあげたいって思えた。

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