第82話 変化
朝の勉強を終え、教室に戻る。
HRまではまだ時間があり、皆席につかずに思い思いに過ごしている。久しぶりに見るクラスメイト達は俺と同じように、随分と変化してるようにもみえた。 肌が焼けたり髪色が変わっていたりと様々だ。
募る話も色々とあるようで、ガヤガヤととても賑やかだった。みんな笑顔なのを見ると、それぞれ色々な経験があったりとか充実した夏休みを送れていたように感じた。
席につくと、ニヤニヤしている隼が俺の方に振り向いた。
「いよう蒼真! モデルデビューおめでと~!」
「ばかっ! 声でかいよ! ――あまり広めないでくれ。それよりよくも黙ってたな!」
「悪い悪い。だってホントのこと言ったら引き受けないだろ? 姉さんのためだ。一肌脱いでくれ」
「もう脱いだよ! 全裸だよ! ――まあ自転車は手に入ったし、隼にも世話になったからな。……ありがと、な」
俺の素直な感謝の言葉に、隼はなんとも言えない苦い表情を浮かべる。
「ツンデレみたいでキメーよバカ! それよりもっと面白い話題があるんだよ。お前、羽依ちゃんに振られたらしいぞ」
「へ? 今日も一緒に登校してたし朝勉強も一緒にしてたぞ?」
隣で自分の名前が出てきょとんとしてる羽依。
「あはは! 二人とも画像見てみろよ!」
俺と羽依は、隼のスマホの画像を見る。
「ぶっ! 何だよこれ!」
「私、寝取られちゃったんだ……。羽依ちゃんショック……」
スマホには羽依と俺が写っているが、画像に「藤崎蒼真、イケメンに雪代さんを寝取られる!」って文字が入ってる。
「寝取られるってなんだよ。ただの登校中の2ショットじゃないか。それに俺が寝取ってるって意味わかんねえよ」
「写真撮ってわざわざ加工したやつ、お前だって分からなかったんだろうな。マジうけるー!」
膝を叩いて大笑いしている隼。いや、それにしてもホント意味わかんない。
「ちょっと髪型変わったぐらいで人違いするか? いくらなんでも分かるだろう」
俺たちの騒ぎを聞きつけ、真桜がくすくす笑いながらやってきた。
「ふふ、蒼真は随分変わったわよ。前髪切って人相変わったし、日焼けして、華奢な体にも随分と筋肉がついたし、見違えたわね。人違いしてもおかしくないわ」
面白そうに俺の変化を指摘する真桜。確かに俺も少しは変わったとは思ったけど、元々の俺の存在感が希薄だったんだろうとも思う。
「やっぱり髪の毛セットしちゃったの失敗したかな~。蒼真が注目されちゃう」
楽しそうにしながらも、ちょっと困ったように言ってくる羽依。妙な危機感なんて持つ必要ないんだけどな。
「でも隠し撮りなんて酷いよな。前もそんなのあったよなあ」
羽依と俺が偽装で付き合い始めた時にも隠し撮りされていた。きっと俺よりも、羽依を撮りたがるんだろうな。嫌な時代だ。
「隼、写真の出元は分かるかしら。一応釘を刺せるならそうしておいたほうが良いわね」
隼は、ふむと考える。
「部活のグループで回ってきたから、辿れば分かるかもな。蒼真って名前を知ってて顔を見間違えるか……。同学年ではないのかな? よし、それとなく調べてみるか」
HRが始まる。
担任の佐々木先生が教室に入り、生徒たちは全員着席した。
「おはようみんな! 夏休み明けて全員元気に出席できて本当によかった。色々な経験もしてきたんだろう。みんな少し大人びた顔つきになった気がするよ」
相変わらず優しい雰囲気の佐々木先生。
中学の時は美咲さんに酷い目に合っていたと思うと、ちょっと見る目も変わってくるなあ。
「二学期は直ぐに文化祭の準備もあるからな。今日は役員決めをしたいと思う。それが終わったら出し物も決めるか。まずは文化祭実行委員、立候補者はいるか?」
文化祭実行委員はかなり大変な仕事だと聞いている。進捗管理、広報、学校内外の調整、安全衛生管理、会計管理トラブル解決等、幅広く仕事があるって話だ。進んでやりたがる人は、何らかの目的があってだろう。
真桜が挙手した。これを足がかりに生徒会選に望むのは実に道理に合う話だと思う。すでに有名な彼女だけど、更に実績を積むことで、1年生の中での地位を確立するのだろう。
「結城の他には居ないか。では、お願いしようか。結城ならきっと素晴らしい文化祭にしてくれるだろう。引き受けてくれてありがとう」
「はい、精一杯頑張りますのでよろしくお願いします」
涼やかな真桜の声に皆拍手が沸いた。誰から見ても適任だと思えたからだ。
まずは一歩踏み出したってところか。
「では次にクラスでの出し物を決めよう。展示、飲食、演劇、その他ってところか。まずはジャンルから決めよう。ここからはクラス委員長の広岡に進めてもらおう。よろしくな」
広岡智也――うちのクラスの委員長だ。成績優秀で、爽やかにみんなをまとめるタイプ。
身長は150センチほどとやや小柄で、中性的な雰囲気をまとっている。
自身の個性を活かしたショートボブの髪型に、童顔の見た目も相まって、とても可愛らしい印象だ。
穏やかな性格も手伝って、みんなからは“智ちゃん”と呼ばれ、クラスの愛されキャラとして親しまれている。
智ちゃんは教壇の前に立ち、黒板に「文化祭出し物の案」と綺麗な文字で書いた。
「では出し物を決めたいと思います。展示、飲食、演劇のジャンルからまず決めようか」
周囲から、特に女子から「さんせー」「智ちゃん決めちゃってー」とか「かわいー!」とか無責任且つ関係ない言葉が飛び交う。
まあそれも智ちゃんとしては想定内なようだ。
「はいはい、静かにね~。じゃあジャンルを挙手で決めるよ~。まず演劇~」
この学校の1クラスは30人ほどで、今手を上げているのは6人ほどだった。
「6人と。次は展示~」
10人ぐらいかな。わりと分かれるな。俺としては飲食が良いなと思っている。自分の特技が活かせたら良いな。
「じゃあ飲食。その他の人は手を上げないでね~個別にきいてくよ~」
間延びした可愛らしい声で智ちゃんが進める。手を上げたのは俺と羽依を含めて14人。その他はなかったようだ。
「じゃあ飲食で決定ね~。続いて飲食店の出し物とテーマだね。いくつか候補をだしてもらって最終的に投票で決めよう。でも時間もないし、どの程度の飲食が出来るかまだわからないので、続きは次のLHRでどうでしょう先生」
佐々木先生もうんうんと頷いた。
「いや、相変わらず見事に纏めるな。ありがとう広岡」
照れた仕草で自分の席に戻る。愛されキャラで、とても可愛い彼女もいる智ちゃんは、クラスのマスコット的存在だった。
さて、どんな飲食店がいいかな。
メイド喫茶なんてラノベみたいで楽しそうだ。夢が膨らむなあ。
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