第81話 二学期スタート~あとがきに登場人物紹介
今日から新学期だ。羽依が朝早めに俺の部屋にやってきた。髪のセットを手伝ってくれるらしい。
「誰かにやってもらうほうがしっかり決まるんだよね~。こうして、クイックイッと。できた~」
鏡を見ると、もう見れないと思っていたイケメン感のある髪型の自分がいた。
「すごいすごい! プロの美容師みたいだね! でも、以前『私の前以外でこの髪型禁止!』って言ってなかったっけ?」
「今日だけだよ。せっかくの新学期、変化を見せられたら気分良いんじゃないかなって思ってね。優しい羽依ちゃんに感謝のキスをしても良いんだよ?」
そんなのお安い御用だった。羽依を抱き寄せ、触れるだけの口付けを交わす。羽依は嬉しそうに俺を見つめた。
「あ~もっとイチャイチャしたいけど学校だあ~。帰ったら続きをしようね!」
「おっけー! じゃあ行こう!」
早朝、交通量が増えてくる時間帯。忙しなく車が行き交う中、てくてく歩道を歩いて行く。まだまだ残暑が厳しく、朝からジメッとした不快感がまとわりつく。
そんな中でも羽依は明るく元気だった。明るい髪色にトレードマークのサイドテール。夏服のシャツに豊かな膨らみがリボンに隠れつつも主張する。短めなチェックのスカートに健康的な美脚。いつ見ても美しい容貌。俺の彼女は今日も可憐だった。
学校に近づくにつれ登校中の生徒が増えてくる。やけにチラチラと見られてる気がするなあ。
角を曲がるところで二人組の女子と目が合った。一人は明るいブラウンで縦ロールが特徴の生徒会長、御影志帆さん。と、もう一人は金髪でショートカット。メガネをかけているけど、見覚えがあるような?
「藤崎くん、おはよう~」
「あ、蒼真くんおはよう! 隣の子が噂の彼女だね。ホント可愛い!」
「おはようございます、御影先輩に……あれ、飯野さん!?」
FALLOVAの店員の飯野さん。ナチュラルメイクでメガネを掛けていたので全然分からなかった。
「あはは、わからなかったよね~! お店では変身してるからね。夏休みの間だけバイトしてたんだよ」
「羽依、生徒会長の御影志帆さんとFALLOVAの店員の飯野さんだよ」
「――雪代羽依です、蒼真がお世話になりました……」
羽依は初対面の人と接するのは苦手なようで、引っ込み思案に挨拶をした。
「雪代さん、格好いい彼氏でうらやましいな。美男美女でお似合いだね!」
可憐な微笑みで、御影先輩がうちらの事をうらやましいと言ってくれる。くすぐったくて仕方なかった。
「御影先輩と飯野さん。お二人は友達だったんですか」
「幼馴染なんだ。バイトの紹介は私がしたの。美樹ちゃんは将来服飾業界に進みたいんだよね」
「そうそう、志帆がFALLOVAの専属モデルだから、そのつてでね。そのおかげで蒼真くんとも深く仲良くなれたんだものね」
ぺろっと舌をだす飯野さん。変な言い回しは止めて欲しかった。
「美樹ちゃんは肉食っぽいけど、まだ未経験なんだよ~」
「志帆! 余計な事言わないでよ!」
実に意外だったけど、ちょっと安心もした。よかった、肉食っぽいのは見た目だけだったようだ。
「おじゃましちゃったね! またね藤崎くん!」
軽やかに歩いていく背中を、羽依と並んで見送った。
さて、後ろで超絶不機嫌になっている彼女様をどう宥めるか……。
「……蒼真、なんか随分と距離感近くなかった?」
羽依が軽くジャブを放つ。どうする俺。
「そんな事ないよ。燕さんの広告の時に知り合った人たちだよ。飯野さんは学生だなんて思ってなかったし」
「ふーん。深く仲良くなったんだけどね」
「あれは飯野さんの冗談ってわかるよね?」
納得いかないようで、学校に着くまでずっと不機嫌そうにしていた。
「おはよう二人とも。あら、羽依、何かあったの?」
教室に入ると真桜が一足先に教室に居た。
「おはよう真桜! ねえ聞いてよ、蒼真やっぱりモテ期だよ~」
「はいはい、ここじゃ迷惑だから向こう行きましょ」
教室は自主学習する生徒がすでに結構居た。みんな勉強熱心だ。
俺たちは邪魔にならないように多目的スペースに移動した。
「……そう、羽依の気持ちはよく分かる。でも、あえて言うなら、それは我儘なのよ。蒼真はこれからもっと色んな人と関わっていくわ。それは止めちゃだめ」
正面切っての正論を説く真桜。その言葉に羽依はしょんぼりしていた。
「だけど――不安になる気持ちまでは誰も否定できない。私だって同じ立場だったら、羽依と同じように不安にかられるかもしれない。でも分かるの。蒼真は絶対に貴方を裏切らないわ」
「うん、そうだね。わかってる。私って結構重いんだよね……。ごめんね蒼真」
真桜の言葉は、羽依の心にまっすぐ突き刺さったようだった。
素直に謝れる羽依がとても愛おしかった。学校でなければきっと抱きしめてたと思う。今はそれが出来ないことが歯がゆかった。
羽依が暗黒面に落ちそうになっても、真桜がそばにいればきっと笑顔に戻れる。そんな気がした。
「俺もなるべく誤解されるような言動は控えるね。ごめんね羽依」
見つめ合う俺と羽依。二人の気持ちが完全に通じ合ったように感じた。
気がつくと、隣でいたたまれない様子の真桜。
「――コホン。さあ、勉強を始めましょうね。私もこれから忙しくなるわ。時間は有限よ」
「あう、ごめんね真桜。そういやこれから先、二学期のスケジュールってどうなるのかな?」
俺の言葉に、真桜はスマホを取りだしカレンダーを見る。
「9月上旬から文化祭の準備が始まるわね。その後9月末に文化祭本番になるわ。10月上旬は中間テスト、その後から生徒会選挙告示からの選挙活動開始って流れね。11月初旬には新会長が決定されるわ」
「そっか、ありがとう。二学期も忙しくなりそうだね」
「そうだね~。文化祭かあ、うちのクラスは何やるんだろうね。楽しみだな~」
新学期の初登校は、まずまず順調な滑り出しかな。
夏休みに知り合った人たちと、早速学校で会ったのにはびっくりした。これから先も付き合っていくことになりそうだな。
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あとがき
二学期開始時点での登場人物紹介です。
若干のネタバレがあるので、始めから読んでみたいという方はブラウザバックをお願いします。
藤崎蒼真――神凪学院1年生。物語の主人公。羽依とは偽装で恋人のフリをしていたが、正式に恋人に。現在はアパートに一人暮らしで、進級のタイミングで雪代家に居候の予定。性格は真面目で努力家。趣味は料理。超ヘタレが普通のヘタレに進化。両親が育児放棄状態で、そのことに深く傷ついていたが、羽依の優しさと美咲さんの母性にかなり救われた様子。
雪代羽依――神凪学院1年生。物語のヒロイン。蒼真とは恋人同士。男性恐怖症だったが、やや改善の兆しあり。校内一と言われる美貌と学年二位という頭脳明晰さで注目される。悪意のあるデマも相まって、告白される事が多かったが、蒼真からの偽装恋人という提案を受け入れ沈静化する。過去に友人に裏切られた経験から、やや引っ込み思案になってしまっていたが、基本自由人。わりと周囲の人(特に蒼真)を引っ掻き回す。
結城真桜――神凪学院1年生。羽依と蒼真の親友で、蒼真とは同じ中学で生徒会長だった。美しい容姿と羽依との仲の良さから『尊みの塊』などと言われる。質実剛健、成績優秀、中学二年生で剣道日本一になっている。結城神影流と言う古武術の師範でもある。クールな雰囲気とは裏腹に、わりと感受性豊かで涙もろい。羽依と蒼真の事が大好き。
雪代美咲――『キッチン雪代』のオーナーで羽依の母親。元ヤンだけど、今はとても優しいお母さん。蒼真の事を息子同然に大切にしている。
高峰隼――神凪学院1年生。蒼真の前の席で親友。サッカー部のエースで成績優秀。身長が185センチとかなり高めで性格も良くイケメン。蒼真曰く、天が何物も与えてるチートキャラ。姉が好き。
高峰燕――東大3年生でファッションブランド『FALLOVA』の代表兼デザイナー。チートな弟を上回る、知性・美貌・行動力を備えたパーフェクトヒューマン。弟を溺愛している。
御影志帆――神凪学院3年生で生徒会長。現役モデルでFALLOVAの専属モデルも務める。燕曰く勉強とルックスにステータス全振りした可愛いポンコツ。
九条遥――神凪学院2年生で蒼真と真桜の中学の先輩。中学校時代は生徒会長を務める反面、悪い噂も絶えなかった。蒼真が孤立する要因を作ったが、何故か蒼真に執着している様子。次期生徒会長選に立候補予定。
飯野美樹――神凪学院3年生。御影志帆とは幼馴染。FALLOVAに夏休みの間だけバイトをしていた。なんちゃって肉食系女子。




