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告られ彼女の守り方 ~偽装から始まる、距離感ゼロの恋物語~  作者: 鶴時舞
6章 夏休み後半

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第78話 夏の終わり、道場訪問

「ほんとやりたい放題ね……」


「んっ……、この世で一番贅沢な抱き枕だよね、これは……」


 ――朝、意識が朦朧としてる頃。


 二人の声で脳が一気に覚醒する。


 現状把握。

 羽依と真桜を纏めて抱きしめている。俺と真桜が正面でくっついていて羽依と真桜が背中合わせにくっついている。

 二人を纏めて抱きしめて、俺の手は羽依の豊かな双丘と太腿を抱きしめていた。

 一体どうしたらこういう体勢になるんだろうか。

 真桜と目が合う。その距離数センチ。

 彼女の美しい顔が寝ぼけ眼いっぱいに広がっている。


 なんかもう自分がわかんない。


 二人を解放し、ベッドの上に正座する。


「ごめんなさい」


 覚醒しきってない頭でとにかく頭を垂れる。最上級の謝罪である『土下座』の姿勢だ。


「もう慣れたね。次はどんなことするのかな~って思っちゃう」


「一緒に寝ようって言ったのは私よ。今更……、気にしないわよ……」


 俺の周りの女性たちはみんな寛容だった。良いのかなあ……。



 今日は理事長が真桜と俺を迎えに来る。羽依も道場へ一緒に来るのは美咲さんにも伝えてある。土曜日は仕入れの日なので、美咲さんが大変になるのは申し訳ないけれど、彼女は快く了解してくれた。


「ついでに羽依も護身術教えてもらってきな。私が教えてもいいけど破門された身だからね」


 あっはっはと笑う美咲さん。破門されてたのかあ……。それって大丈夫なのか?


 羽依も体を動かすことを想定して、可愛いピンク色のジャージ姿に着替えた。元々運動神経の良い彼女だ。いざっていうときに役立ちそうな技は、覚えておいたほうが良いのかもしれない。


 美咲さんは先に仕入れのために出発し、ほどなくして理事長が迎えに来た。


「理事長先生、よろしくお願いします!」


 明るく元気に羽依が挨拶すると、理事長は目を細めて挨拶を返した。


「羽依さん。いつも真桜と仲良くしてくれてありがとうね。さあジイジの車に乗っていこうね」


 羽依に対して妙に優しいお爺ちゃんになってる。俺と真桜は思わず顔を見合わせた。


「理事長先生、さっき聞いたんですけど、お母さんって破門になったんですか?」


 羽依が悲しそうな表情で尋ねるが、それを聞いた理事長が可笑しそうに笑った。


「ああ、かれこれ何十回と破門になってるな。婆さんと会った数だけ破門って言われてるよ。ようは彼女たちのコミュニケーションだ」


 可笑しそうに笑いながら理事長が真相を明かす。まあ、絶縁状態なら、あんなに仲良さげに言い合ったりはしないよな。


 羽依もその話を聞いてぱっと明るくなった。美咲さんがそう言ったのは、きっと真桜のお婆さんと最後に会えなかった思いから出た言葉だと思うと、何となく腑に落ちた。


 徒歩なら40分かかる道のりも、車ならほんの数分だった。道場の前に到着すると、理事長は「また来る」と言ってそのまま車で去っていった。


 中に通され、俺たちは居間で一息つく。


「うわ~、雰囲気あるね。こういうお部屋って初めて来たかも」


 羽依がキョロキョロと落ち着かない様子で室内を見回す。和室の居間は確かに今では見る機会が少ないのかも知れない。田舎に行けばそれなりにはあるんだけども、ここは都内だから、都会っ子には珍しいんだろう。


「お待たせ、簡単なものでごめんね」


 ほどなくして、真桜が大量のお惣菜とそうめんを抱えて現れた。

 簡単なものと言うわりには、なかなか贅沢な内容と品数だった。

 そうめん、かぼちゃの煮物、だし巻きたまご、酢の物、ささみのチーズ焼き。相変わらずボリューム満点だ。


「すごいね真桜、こんな短時間でこんなにおかず作れるなんて!」


「ふふ、いくつかは作り置きだからね。さあ食べましょう」


 真桜の作るだし巻きたまごは出汁の香りがほどよく、卵の焼き加減も絶妙のふわふわ感でめっちゃ美味い! 俺の大好物だった。


「美味しいね~! 毎週蒼真は食べてるんでしょ。良いな~!」


「俺も贅沢だと思ってるよ。稽古だってお金払ってないし、ほんとどうやって借りを返せば良いんだろう」


 俺の言葉に真桜はくすっと笑う。


「蒼真には十分色々貰ってるわよ。私も毎週楽しみにしてるし、その点から言えば私は羽依に借りを返さないとね」


「私は家の都合だから良いの。蒼真は最近モテ期きてるみたいだから真桜に預かっててもらったほうが安心だな~」


「俺モテ期きてるかあ? 知り合いは増えたけど……。モテてるってわけじゃないと思うけどなあ」


 羽依と真桜は顔を見合わせる。二人して口裏合わせたように生暖かい目で俺を見る。何だその目は。


「無自覚やれやれ主人公とか、今どき嫌われるよ蒼真」


「まあ良いんじゃないの。モテてないわよ。蒼真」


 タッグを組んだ二人には何を言っても勝てないので話題を変えよう。


「真桜、そこにある大量のDVDって道場のやつ?」


「ええ、道場の記録よ。お祖父様の趣味で、やたらと編集に凝ってた時期があったの。あ、そうだ! 美咲さんと佐々木先生のもあるかも。探してみるね!」


「えー! なにそれめっちゃ見たい!」


「お母さんの道着姿も見られるんだね! 楽しみ~。お母さんの旧姓は田中だよ」


 しばらく真桜がごそごそと探してみると、目的の品があったようだ。タイトルには田中vs佐々木と書かれていた。


「やった~! 田中だったらお母さんかもね。佐々木先生と練習試合かな?」


「古武術には一般的な試合ではなく演武って形式になるの。ただ、結城神影流の門下生同士でより実戦に近い形でやってたみたいね。私も美咲さんの演武には興味あるわ」


 DVDを再生すると、やたら凝ったテロップとBGMが流れ始めた。『美咲vs健太!因縁の勝負!』って……なにこれ。



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