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告られ彼女の守り方 ~偽装から始まる、距離感ゼロの恋物語~  作者: 鶴時舞
6章 夏休み後半

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第69話 うまい話には裏があったようです

 楽しかった夏休みも残り少なくなってきた平日の朝。隼からLINEが入ってきた。


 隼「今日暇か? 姉さんが会いたいんだってさ」

 俺「昼からバイトなんだよな。用はなんだろう?」

 隼「自転車欲しがってたろ。姉さんが使ってた自転車があるんだけど、新しいの買ったからあげるって。俺は自分のあるからな」


 え、神か? これはもう、行くしかないだろ。バイトは申し訳ないけどお昼を休ませてもらおうかな。


 俺「バイト休めるか確認してみる。」

 隼「りょ」


 羽依にこのLINEの内容を転送する。すぐ返事が来た。

 可愛いネコのスタンプでGOと返ってきた。

 バイトを休むことを美咲さんに伝えてねと返事をしておいた。


 俺「バイト休める。どこ行けば良い?」

 隼「姉さんの会社。帰りによった場所覚えてるか?」

 俺「OK、いつでも行ける」

 隼「姉さん居るから行ってくれ。後は姉さんとLINEしてくれ」


 俺はめちゃめちゃキュートな猫のありがとうスタンプを返したら、気持ち悪い猫スタンプが返ってきた。こんちくしょうめ。でもありがたいから許す。愛してるよ隼。


 燕さんに先日のお礼と今から向かうというメッセージを送っておいた。燕さんからは可愛いスタンプで待ってるよ。と返事が来た。


 さあ支度して向かおう。お洒落な繁華街にあるオフィスだからな。羽依がコーディネイトしてくれた一張羅で向かうとしよう。


 電車で都内でも屈指の繁華街へ向かう。人の多さに辟易するけど、自転車のためだ。我慢我慢。


 スクランブル交差点を渡る人の群れに混じって行くが、未だにこの混雑には慣れず、頭がくらくらする。

 田舎のが性に合ってるのかな、なんて考えたりしながら歩いていると、ふと視線に気がついた。


「おにいさん! その服めっちゃ可愛いね。よかったら一緒にプリ撮らない? ご飯奢るからさ!」


 なんか綺麗なお姉さんに声かけられた。え、まじ? 逆ナンってやつ? ――今日は大事な用があるし、俺には可愛い彼女も居る。キャッチの可能性もあるだろうからな。


「ごめんなさい、お姉さん。ちょっと今日は用があるんで失礼します」


「えー、じゃあLINEの交換でも。だめ? つれないなあ。またね!」


 わりとあっさり開放してくれた。悪い人じゃなかったのかな。でも、都内だから油断できないよな。怖い怖い。


 しばらく歩いた先に燕さんのオフィスが見えた。雑居ビルの中にある店舗兼オフィスだ。お洒落すぎて、ちょっと入るのをためらう。


 意を決して店の中へ足を踏み入れると、「いらっしゃいませ~」という明るい声が響いた。思わず見惚れるほど綺麗なお姉さんばかりだ。全員モデルなんじゃないかと思うくらい。


「今日は彼女にプレゼント? ゆっくり見ていってね~」


 その中でも一際特徴的なお姉さんが声をかけてきた。何て言うかオーラがすごい。ちょっと獰猛な肉食獣のような、油断したらバクっといかれそうなそんな雰囲気。金髪にショートボブで特徴的な切れ長の目が印象的だ。ブティックの店員らしい濃いめの化粧で彼女の美しさを一層際立たせていた。


「あ、えっと。燕さんいらっしゃいますか?」


「あ~! 話は聞いてるよ。可愛い子がくるって君のことだったんだね。うん、かわいい! お姉さんとLINE交換しよっか!」


「だめよ~飯野ちゃん。その子には可愛い彼女がいるんだから!」


 奥から燕さんがやってきた。数週間ぶりに会う彼女はやっぱ一際美人だなって思う。旅行の時よりも美人度が増してるのはきっとオンの状態だからだろうか。


「社長~、めちゃカワじゃないですか~! 味見ぐらいしてもいいよね」


 飯野さんは俺をねぶるように眺める。肉食感が半端なかった。


「怒るよ。それに今からもっと素敵になるんだからね。——蒼真、モデルをお願いしたいんだ。今から撮影いいかな? 」


「へ? モデルですか?……俺なんかが?」


「あれ、隼には言っておいたんだけど聞いてなかった? それにしても、相変わらず自己肯定低いよねえ。良いもの持ってるのに。自転車あげるからさ、ギブアンドテイクだよ!」


 そう言われると断りづらい……いい話には裏があったかあ。

 隼のニヤニヤした顔が目に浮かぶようだ。あんちくしょうめ。


「ばっちり変身して撮るから蒼真だとわからないと思うよ。多分!」


 実に悩ましいけど、燕さんの頼みは断りたくない。それに変身ってなんだか分からないけど燕さんの事だ、悪いようにはしないって思う。多分。


「燕さんからのお願いなら是非やらせてください。変身ってのも興味あるし」


「やった! 蒼真、後悔はさせないよ。じゃあまずは美容室行こう! 出かけてくるから留守番よろ~」


 そんなわけで美容室にやってきた。たぶんテレビとかで見るカリスマ美容師がいる系の店だなこれは。気軽に入れる空気じゃない。一人で来るには場違いすぎる。


「燕ちゃん、まってたわよ~。この子が例の子?」


「ヒデキさんお願いしますね~。どうです? なかなかでしょ!」


「うん、すっごくいい。今日のコーデもとってもお洒落。ただ、髪は床屋さんでカットしてるみたいね。じゃあ今からとびっきりのイケメンにしてあげる。あがるわ~!」


 きっとカリスマ美容師なんだろうな。ヒデキさんって呼ばれた人は、一見ベリーショートの女性に見えたけど、どうやら男性らしい。自信に満ち溢れた物腰が只者ではない事を証明しているようだった。


「よ、よろしくお願いします」


 ヒデキさんはノリノリでカットを始めた。


「素材が良いんだから、前髪で隠しちゃ勿体ないわよ! アップバングショートが良さそうね。君、名前は何ていうの?」


「藤崎蒼真です」


「蒼真! いい名前ね! 彼女は居るの?」


「あ、はい。俺には勿体ないぐらいの彼女が。今日の服装も彼女のコーデなんです」


「お洒落が分かってる彼女なのね! そんな彼女なら蒼真の変化をみたらびっくりしちゃうわよ! すっごく喜んで夜は大変になっちゃうかも♡」


「あはは……」


 美容師さんトークは正直しんどい……。でもとっても良い感じの人だな。ぐいぐい来るけど、雰囲気が柔らかくて嫌な感じがしなかった。


「ワックスつけるわね。後頭部に揉み込んでから指先にワックスを付けて、前髪をくいっくいっって捻るようにね。自分でも出来るように練習しておいてね。はい、完成~」


 ——美容師さんって偉大だと思った。鏡の前には想像を遥かに超える自分が居た。


「すごっ……こんなに変わるなんて……。びっくりですよ!」


「んふ、気に入ってくれたようね。燕ちゃん、終わったわよ~」


「ありがとうヒデキさん~。どれどれ、蒼真はイケメンになったかなって……。ヒデキさん、やりすぎ!」


「素材の良さを引き出すのがプロの仕事。でしょ? 我ながら良い仕事ができたわ。蒼真、普段は床屋さんでも良いけどね。たまにはうちに来なさい。安くしとくからね」


 そう言ってウィンクして手を握ってくるヒデキさん。俺の事、気に入ってくれたみたいだ。なかなか手を離してくれないぞ。


 再びお店に戻ると店員さんたちが詰め寄ってくる。


「やっぱヒデキさんの仕事やばいですね!」

「蒼真くん、お姉さんと2ショット撮ろうよ」

「社長! お持ち帰りしてもいいですかっ!」


「駄目に決まってるでしょ。飯野ちゃんはガチっぽいから蒼真から半径1キロ以内近づいたら駄目よ」


「ひどっ!そりゃないですよ社長~」


「今回の撮影はあくまでメインのモデルの彼氏役なんだけどね。素人っぽい子ってコンセプトだったんだけど、ちょっと玄人味が出ちゃったかな。まあ全然ありだよね! じゃあ早速スタジオ行くよ!」


 自転車もらうだけのつもりだったのに、まさかモデルまでやることになるなんて……。展開の速さに気持ちが追いつかない。

 

 でも、鏡の中の自分を見て、少しだけ自信が持てた気がした。


 羽依がこの姿を見たら、どんな顔をするだろう。

 楽しみだなあ。

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