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告られ彼女の守り方 ~偽装から始まる、距離感ゼロの恋物語~  作者: 鶴時舞
6章 夏休み後半

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第66話 夏祭り前編~稽古と帰省と食い倒れ

 理事長の強引な誘いで俺と真桜の地元の夏祭りに行くことになった。


 真桜は羽依に「一緒に行かない?」って誘ってみると言っていた。


「そう、うん。わかったわ。そうよね、じゃあまた帰ったら連絡するわね」


 真桜が電話を切ってから溜息を付く。そして俺を見て首を振った。


「二人で楽しんできてねですって。祭りのテンションは羽依には辛いみたい」


「ああ……。リスクを感じちゃったか」


 俺のスマホに羽依からLINEがあった。


 羽依「久しぶりの地元だよね。楽しんできてね!」

 蒼真「ごめんね急に決まっちゃって」


 羽依からノープロブレムとスタンプで返ってきた。


 結構人見知りなところもあるからな。俺たちの地元でアウェイ感を感じるかも知れないし。正直言えば俺もホーム感は無い。


「ごめんなさい蒼真。お祖父様強引だから……」


「大丈夫だよ真桜。羽依も楽しんでって言ってくれてるし。地元に帰るのも久しぶりだからね」


「そうね、楽しむ方向で考えましょう。さあ、それよりも稽古ね。そろそろ新しい事を覚えてもらうわ」


「おお! ついに伝家の宝刀的な必殺技を教えてくれるのか」


「それを覚えたいなら私と結婚しなくちゃね。そしたら羽依に殺されるから結局覚えられないわね」


 くすくすと真桜が意地悪に笑う。俺もそんな修羅場は経験したくない。羽依が怒ると怖いのは重々承知している。


「新しいことは体捌きの応用の円の動き。それと逆手取り。これを覚えれば武術経験の無い一般人なら制圧できるようになるわ。あくまで護身用の技。危険だから使い所に注意してね」


 十分必殺技のように聞こえる。ちょっとワクワクしちゃうな。


「じゃあお手本見せるわね。蒼真、貴方は凶悪な変質者よ。私に掴みかかってきてね」


「へっへっへ~さわっちゃうぞ~」


「良いわよ蒼真! すごく気持ち悪くて変態っぽいわよ」


 こんなに嬉しくない褒め言葉は初めてだ。


 真桜に掴みかかる。真桜は俺の手首を逆手で取り、俺の力を利用して柔らかくしなやかに抑え込む。気づけば、完全に封じられていた。動こうにも、何もできない。


「ふふ、もう身動き取れないわよね。あとはやりたい放題」


 そう言って俺の脇腹を指先で突きまくる。ほんのり高揚している表情がちょっと怖かった。


「やめてー降参ー!」


 その後、新しい体捌きと逆手取りの訓練を行った。真桜を組み伏せた際に脇腹を同じように突いたら「ひゃん」て声を出したのにはちょっと笑った。


 起き上がってきた真桜は、無言で俺に腿キックを食らわせた。いてて。



 本日の稽古が終わり、道場にあるシャワーを借りて汗を流す。

 その後に理事長が用意してくれた浴衣に袖を通す。


「あら蒼真、結構似合ってるわね」


「そういう真桜もすごく似合ってる。綺麗だよ」


 黒い生地に桜が舞っている浴衣だ。彼女の雰囲気にとても良く合っている。髪を後ろに結い上げ、彼女らしい和風美人に仕上がっていた。


 理事長が俺達をみて、「なかなか似合うじゃないか二人とも」とニンマリしていた。何考えてんだかこの爺さん。さっぱりわかんない。


 理事長の車に乗り込み、俺たちの地元に出発した。

 車内では理事長が気さくに声をかけてくれていたのでリラックスした雰囲気での道程だった。もっともこの爺さんにも慣れてきたので緊張はしないけど。


「蒼真、お前の道着を新調するからサイズを後で真桜に教えておきなさい。ジャージではこれから覚える技は耐えられないだろう」


「はい、お願いします。じゃあ真桜、後で採寸よろしくね。道着かあ~、なんか本格的っぽいね」


「蒼真、道着を着たら本当の意味での門下生よ。より一層厳しくなるって意味だから覚悟しておきなさいね」


 くすくすっと笑う真桜。なんだかとても嬉しそう。


 俺たちの地元は、都内から高速で一時間ほどの千葉県の比較的大きな街。とは言っても都内から比べたらやっぱり田舎だ。

 初詣で賑わう由緒ある寺があり、今日の祭りはその寺で開かれている。


 地元に入ってしばらくすると、車は国道から県道の田舎道に降りた。

そして——俺が昔住んでいた家の前を、偶然にも通りかかった。


「そこ、俺んちだ」


 ——家の前には「売家」の看板が見えた。裏の空き地も荒れ放題になっていた。見慣れたはずの風景が、妙に遠く感じた。胸がきゅっと苦しくなるような、何とも言えない気持ちになった。これで見納めかな……。


 真桜が何かを察したのか、俺の手をぎゅっと握ってきた。伝わる体温に、締め付けられた胸が優しく溶かされるようだった。


 祭りは人出で賑わっていた。喧騒とお囃子の音色がどこか懐かしさを感じる。理事長は用を済ませるということで、俺たちは屋台を見て回った。


 人混みがすごいので、はぐれないようにと真桜が手を繋いできた。まるで恋人みたいだけど、俺も真桜もそんな気はないからこそ気軽に手を繋げるんだと思う。


 それにしても真桜はよく食べる。いか焼き、たこ焼き、焼きそば、お好み焼き、唐揚げ、ケバブ、チーズ揚げ。食い過ぎだろう。


「蒼真! 次はあれ、あれたべよ!」


 めっちゃはしゃいでる真桜に呆れつつも、とても楽しそうにしている彼女を見るのは俺も楽しい。


 綿菓子を買ってご満悦な真桜。あの綿菓子の袋って屋台によってはおじさんが「ふっ!」って息でふくらませるんだよな。この店は袋を上下に素早く動かし、空気を入れる職人技を見せていた。


 綿菓子を顔につけて喜んで食べる真桜。ホント楽しそうだなあ。


「真桜、顔に綿菓子ついてるよ」


「えー、蒼真とって」


 はいはいと綿菓子をとって拭いてあげる。くすぐったそうにしている真桜がとても可愛らしかった。


 しかしまあ、あれだけ食べて見た目が変わらない。浴衣の帯で苦しくないのかな? まあ鍛えてるから、すごい勢いで消化してるんだろう。



「真桜様!」


 前から歩いてきた女子の集団に声をかけられた真桜。ちょっと固まってる。



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