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第61話 旅の余韻から日常への回帰 羽依視点

 旅行の余韻がなかなか覚めない。目が覚めるたびに、ああ、ここは自分の部屋なんだなって思っちゃう。結構引きずるなあ。


 旅行中のみんなの笑顔を思い出す。真桜と二人でいっぱい遊んだこと。隼くん、燕さんと仲良くなれたこと。そして蒼真……。彼の優しい笑顔を思い出すだけで胸の奥がじんわりと温かく満たされていく。

 今日は蒼真の家で勉強だ。さあ、起きよう!


 ベッドから降りて朝のルーティーンを始める。軽くストレッチをすませて洗顔、スキンケアはしっかりと行う。


「ちょっと日焼けしちゃったかな~」


 肌荒れ対策は欠かせない。今日も日差しは強いのでUVケアをしっかりとやっておかないと。


「おはよう羽依、今日は断水だからランチ休みなのは知ってるよね? 随分早起きだこと」


 お母さんが起きてきた。早起きって言われても、私は毎日この時間に起きてるんだけどな。


 朝食はトーストとヨーグルトにフルーツ少々。今日は蒼真の家でお昼だから軽めにしておこう。楽しみだな~蒼真の作るお昼ごはん。今日はなんだろう。


「お母さん、パン焼けたよ! パソコン見てないで食べちゃって」


「あはは、ありがとうね。旅行の話聞いてからさ、なんだかそわそわしちゃってね。羽依も温泉行きたいよね? キャンセルでないかなってずっと張ってるんだよ」


「今の時期、取るのも難しいんじゃないかな? でも、取れたらラッキーだね!」


 温泉旅行かあ。天然温泉、檜の香り、美味しい料理。夏だけど良いよねえ。みんなで一緒に浸かったら楽しいだろうな。


「もちろん蒼真も一緒だよね? お母さん」


「当然でしょ。家族旅行なんだから」


 ニッと笑うお母さん。蒼真のことを迷いなく家族って言ってくれる。そんなお母さんがとっても大好き!


「じゃあ引き続きキャンセル待ちパトロールよろしくね、お母さん」


「はいはい。今日は昼のお店がないからね。気長に待ってるさ。取れたら教えるよ」


 蒼真と勉強をするのに必要な予習を済ませる。最近学力が上がったから聞かれることも難しくなってきた。そのうち追い越されそうな勢いだなあ~。でも、まだまだ負けないよ!


 ——そろそろ時間だ。支度をしないと!

 今日のコーデは一緒にお勉強コーデ。フリル付き襟のブラウスインナーにネイビーのハイウエストプリーツミニスカートの組み合わせ。清楚で家庭教師ぽく見えるかな。


 蒼真はミニスカートが好きなんだと思う。最近よく私の足とか触ってくるし。前に比べると遠慮が無くなってきたな~って思う。嬉しい反面、ちょっとだけ寂しくもある。照れがあるのが可愛かったのに。まあ我ながらホント我儘だなって思う。


「行ってきま~す」


 蒼真の住んでるアパートまでは徒歩5分程度。裏通りなので夜は怖いけど、昼間は比較的平和。でも、ここは都内だから油断はできない。それに私は自分が可愛いことを自覚している。だから防犯グッズは常備している。変な男に触らせる隙なんて絶対与えるもんか。


 アパートに着いた。合鍵を取りだし鍵穴に刺す。この瞬間、私は蒼真の彼女なんだな~と実感してニヤけちゃう。一人暮らししてくれてありがとう。でも早いところうちに住んでね。


「蒼真~。羽依ちゃんきたよ~」


 シャワーの音が聞こえる。


 悪魔の羽依が囁く。「一緒にシャワー浴びちゃおうぜ!」

 天使の羽依も囁く。「一緒にシャワー浴びましょうよ!」


 やっぱそうだよね! 満場一致というわけで、早速服を脱ごうとするけどシャワーの音が止まった。遅かったかあ。


 洗面所のドアが開く。

 バスタオル一枚の無防備な姿。火照った肌がとても艶めかしい。

 最近しっかりと運動している発展途上の筋肉。少し日焼けしたしっとりと綺麗な肌。エッチだよぉ蒼真……。


 私の姿をみて、はっと驚いた後にすぐ喜びの表情を浮かべる蒼真。


 ああ、もう大好き!


「なあに、蒼真。その格好。襲われたいの?」


 全力でバスタオルを剥がしにかかったが逃げられた。ちっ。


 再び出てきた時はTシャツ1枚の姿だった。え?パンツ履いてないのかな!?

 なんて危険な……。ここは蒼真のために確認しておかないと。


「んふ、風呂上がりの蒼真はとてもセクシーだよ。ちょっとパンツみせてごらん」


 しっかりチェックするのもデキる彼女の努め。パンツは履いていた。ヨシッ!


「——羽依、セクハラをするものはセクハラをされる覚悟があるものだよ」


「蒼真がセクハラするの? ……興奮しちゃう。どんなことするの?」


 そう言って、ほっぺにチュッとかしてきちゃうんだよね。蒼真は可愛いなあ!


「えい」


 ——!! 胸!?


「ひゃん! だめ! 蒼真、それはレギュレーション違反!」


 想定外の攻撃に変な声出ちゃった……。やっぱり最近の蒼真は遠慮が無くなってきてるね……。何されても良いって思ってたけど、雑なのは駄目だよ。


 本来の目的をしっかりと始めよう。イチャイチャするのも魅力だけど、やるべきことはやらないと駄目。蒼真の目標のためにも、私が真桜に勝つためにも。

 学年1位なんて無理だって思ってたけど、蒼真の頑張りに影響されている自分がいる。蒼真だって自分の彼女が1位になったら嬉しいよね。もっと頑張らないと。



「羽依、お昼はチャーハンどうかな。さっと作れるし」


 勉強に集中していると食事とか忘れちゃうね。今はモチベも高いから、放っておいたら多分バイトの時間までやってたかも。


 蒼真がチャーハンを作る間に簡単に中華スープを作る。フライパンを振るう真剣な表情につい見惚れちゃう。キスしたいな……。そう思った時に蒼真がこっちを見た。以心伝心だね。——チュってしちゃった。えへへ。


 蒼真が作ったチャーハンとっても美味しかった! 好きピの手料理なんて幸せだよね~。


 ご飯を食べながら勉強の話やお母さんの話をしていたその時。


 ——ティロリーン


 あ、お母さんからLINEだ。もしかして予約取れたのかな?


 美咲「8月の4周の週末に予約取れたよ。蒼真にも言っておいてね」

 羽依「やったねお母さん! じゃあ言っておきます」


 そう返信してからGJスタンプを送っておいた。


「——蒼真、家族旅行だって。温泉旅行だよ! 8月4周の週末に予約取れたんだって! やったね蒼真!」


「やったねって、その家族って俺も入ってるの?」


 ふふ、蒼真が家族なんて、我が家ではもう常識なんだよ。


「もちろんだよ! ——いけるよね?」


 「行って良いなら。——よろしくね」


「やったー! 夏休みの楽しいことがまた増えた! 嬉しいな~」


「——俺も、ホント嬉しいよ……」


 そう言って俯いて肩を震わせる。静かに涙をぽろぽろと流す蒼真。


 ——蒼真の涙に私はあまり驚かなかった。

 こういう家族とかって話になると見せる暗い影。

 今までどれだけ辛く寂しい思いをしてきたんだろう。

 涙を隠せない蒼真の不安定さに、私の胸もぎゅっと苦しくなる。


 やっぱり蒼真は一人でいては駄目なんだと思う。

 大丈夫だよ蒼真。私もお母さんも一緒。もう寂しい思いなんてさせないから。


 私は蒼真と一緒に住む計画を――少し早めることに決めた。





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