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第6話 偽装カップル

「俺と付き合わない?」


 そう言ったあと、少しだけ沈黙が流れる。ちょっと言葉が端的すぎたか。


 羽依の体が小刻みに震え始める。


「……それって、告白じゃないよね。私を守るための偽装って意味だよね」


 ――賢い彼女は俺の言わんとしてることをすべて理解していた。


「うん。もちろん羽依が嫌じゃなければの話だけどね。」


 ――羽依がすすり泣き始めてしまった。


 震える体を俺はそっと抱きしめて頭を撫でた。


 とても、ただの同級生の距離感ではないが、今はこうするのが正解に思えた。

 羽依も俺に身を委ねる。


 やがて泣き声はすすり泣きから、声を抑えきれない号泣に変わっていった。


「――もうホント嫌なの! 学校大好きなのに行くの怖くなるの、なんで! なんでこんな目にあわなきゃいけないの!私のことなんて、もうほっといてよ! もうやだ……うわああ……」


 羽依の嗚咽に俺も目尻が湿ってくる気がした。


(少しでも気が休まるのなら、いくらでも胸を貸すよ。)


 口に出したら相当なイケメンだろうけど、そんなことは言えないので、心のなかでつぶやく。


 ――しばらくして羽依が泣き止み、ティッシュで涙を拭き鼻をかむ。


 チーン


 美少女も鼻をかむんだなと思ったのは内緒だ。でもそんな仕草も可愛いと思ってしまう。


「……なんで蒼真がそんなに泣いてるの……?」


「――なんか……悔しくて……」


 ずっと近くにいたのに……俺、何にも気づけてなかった。自分が情けなかった。


 羽依がちょっとだけくすっと笑っている。少しだけでもすっきりしたのかな。


「ごめんね。弱いところ見せすぎちゃったね……。こんなふうに迷惑かけて、嫌われちゃいそうだね……」


「悪いのは全部、無茶な告白してくる男たちのほうだよ。羽依はこれっぽっちも悪くない」


 泣いた後の顔を見せまいとしているのか、ずっとうつむき加減で俺の顔を見ずにいる羽依。その体はずっと震えている。


「……蒼真のその提案、受けさせてほしい。でも蒼真にメリットがなさ過ぎる……もう、誰かに無理やり奪われるぐらいなら……私の初めてあげようか?」


――襲われることまで意識し始めたか……一瞬ドキッとはしたが、羽依から出る言葉があまりにも悲しすぎた。そんなこと絶対させないから……!


「……怒るよ?」


 おでこに軽くチョップする。


「いだい……もうすでに怒ってる……」


 また涙目の羽依に俺は思わず笑ってしまった。


「羽依、今日から偽装の恋人だ。バレないようにしないとね」


「……うん、ありがとう蒼真。でも……お返しできるものがあるとしたら……。そうだ、私が蒼真の勉強をみてあげようか?」


 ――!!


 それはとてつもなくありがたい申し入れだ!


「それめっちゃありがたい! でも、羽依の負担にならない?」


「ううん、むしろずっと気になってたの。蒼真、授業中ぼーっとしてること多いからさ。もしかしたら、ちんぷんかんぷんなのかなって」


「うわっ恥ずかしっ! そんなふうに見られてた!? いや、大正解なんだけど」


「んふ、じゃあ決まりだね! 蒼真、びしびし行くからね!」


 そういって、俺に掴んでる腕をさらにギュッと強く抱きしめる。その感触たるや、破壊力がすごすぎて心臓がバックンバックンに跳ねている。


 学校でも一緒に勉強してたら、まるで本物のカップルみたいに見えるかも。

 ……まあ、これならお互い得しかないよね。ウィンウィンだ。


 こうして俺に恋人(偽装)が出来た。


 しかしまあ、偽装とはいえ、こうして一緒のご飯を食べたり、同じ布団で寝たりと、高校1年生のカップルとしては偽装と言えないぐらいの付き合いな気もするけど、そこは触れないでおこう。


 さあ寝よう寝よう。緊張して眠れるか微妙だと思っていたが、色々ありすぎてもう眠くて仕方ない。羽依も同様で、うつらうつらし始めている。


「おやすみ羽依。明日もよろしくね」


「おやすみ蒼真。今日は本当にありがとう……」




 ――未明


 ふと、頬にかすかな感触を感じた気がした。意識は覚醒すること無く朝を迎えるのだった。

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