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告られ彼女の守り方 ~偽装から始まる、距離感ゼロの恋物語~  作者: 鶴時舞
5章 貸別荘一泊旅行

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第57話 夏の旅行 その8 川の字

 女子たちが賑やかに風呂に入りに行った。3人集まると姦しいとはよく言ったもんだ。

 隼とリビングで話していたが、眠そうに目をしばしばさせていた。燕さんが出るのを待つつもりだったようだけど無理っぽい。寝落ちされる前に部屋に戻ってもらおう。


「夜は弱いんだよなあ。じゃあな、蒼真。また明日な」


「健康的で良いじゃん。おやすみ」


 ゲストルームに入ると、アロマの香りがただよった。これは何だろう、甘くて艶っぽい、ジャスミンのような香りだった。きっと燕さんが仕掛けたんだろう。

 

 巨大なベッドの上に寝転がりながら今日撮った写真を眺めていた。羽依の写真が大半だ。今更だけど、俺の彼女は可愛い。世界一だと思う。俺のことを大好きでいてくれて、俺も彼女のことが大好きだ。

 

 そんな可愛い彼女の親友も特別可愛い子だ。タイプは全く違うが、校内でも1,2を争う可愛さだ。ようは校内1,2の可愛さの女子二人と今日は一緒に寝るわけだ。嬉しくないはずがない。


 寝相が悪いのを気にするなら起きていれば良いだけだ。悩むな。感じろ俺。一緒に寝るのは怖くない。怖くないんだ。


「——蒼真、何ブツブツ言ってるの? 大丈夫? キモいよ?」


 おっといけない、心の声が漏れていたようだ。ってか羽依、ほんとキモいは止めて。マジで泣いちゃうから。

 

 いつの間にか二人が戻ってきていた。羽依と真桜は前回泊まった時と同じ、お揃いのパジャマ姿だった。とても可愛らしくて二人ともよく似合ってた。


 羽依が『FALLOVA』と書かれた紙袋を手にしていた。燕さんが経営するブランドだ。


「燕さんが『モニターやってね』ってくれたんだよ。ナイトウエアだって。 早速今晩これ着て寝るよ! 真桜、着替えようよ」


 羽依は嬉しそうにはしゃぎながら真桜にしがみついた。真桜も嬉しそうに頷いた。


「じゃあ着替えるから蒼真はベッドの上で壁を見ててね。お楽しみに」


 真桜がそう言って俺をベッドの奥に押しのけた。扱い悪いなあ……。


「羽依、——ちょっとこれ、大胆すぎないかしら?」


「そうだね、思ってたよりかなりセクシーかも。でも可愛い!」


「そうね、可愛いわね。でもブラつけないと透け感がすごいわね。ってちょっと羽依! 私のブラ頭に被らないで!」


 何してんだ羽依……。


「ブラ付けちゃうとブラが浮いちゃうね。ちょっと照明落とせば大丈夫。このぐらいでどうかな?」


 照明が一気に暗くなった。間接照明がほのかに明るい程度だ。このぐらいなら、きっと見えづらいとは思う。壁しか見てないのでよくわからないが。


「全くもう……。サイズは問題なさそうね。羽依、可愛い。結構胸元大胆ね。ちょっとずらしたら見えちゃいそう」


「ちょっと、真桜、くすぐったいってば! あ、だめ、ずらさないで……」


 何してんだ真桜……。


「羽依、ん。……はぁ、もう、だめだってば」


「真桜が悪戯してくるからだよ。もうちょっと、ね」


「はぁ、だめだって、ん……」


 ホントまじで何してんの!?


「ちょっとー! 二人ともー! 何してんのさ! 俺居るの忘れてないか!?」


「——良いよ、蒼真。こっち向いても」


 羽依の言葉に振り向いた。


 二人が向き合って両手をぎゅっと繋いでいた。お互いの胸を隠すように体を寄せ合い、顔の位置もとても近かった。


 何故か切ない表情を浮かべる二人。白と黒のベビードール姿だ。羽依が白で真桜が黒。二人のキャラにマッチしていてとても可愛らしい。しかしながら、真桜が言っていたように透け感がかなりある。


 間接照明に照らされて二人の姿はふわっと浮かび上がっている。中世の宗教画を思わせるような尊さがあった。


 二人がベッドに乗り、俺に近づいてくる。


「蒼真、似合ってる? 可愛い?」


 羽依が頬を火照らせ、艶っぽい声でささやいてくる。俺の答えはもう決まりきっている。


「可愛いよ羽依。とても可愛い。こんなに可愛い子が俺の彼女だなんて信じられないよ」


 頬を触ると火傷しそうなほど熱かった。恥ずかしそうにしつつも、どこか自信ありげで嬉しそうに微笑んだ。


「よかったわね羽依。とても愛されてるわね」


 真桜も、その頬を染めつつ、慈愛に満ちた表情で羽依の背中にそっと手をおいた。


「真桜だってとても綺麗だよ。正直、見て良いのかなって思うぐらい……」


 間接照明で照らされた二人の体は、その美しい肢体の滑らかさがとても艶っぽかった。


 俺の言葉に真桜が恥ずかしそうにしながらも、くすっと笑う。


「別に見せる相手も居ないしね。今夜だけよ、蒼真」


 そんな言葉とともに俺と羽依二人を纏めるように抱きつく。その感触に心臓が跳ねる。風呂上がりの二人の香りが胸いっぱいに広がる。なんでこんなにいい匂いなんだろう。アロマの香りと混じり、より官能的な香りに感じるのは燕さんの狙い通りなのか。


「私は二人が好き。ずっと寂しかった私を二人はとても大きな優しさで包みこんでくれたの。羽依も蒼真も大好き。この気持ちってなんなのかしらね」


 羽依が優しい顔で真桜を抱きしめた。


「私も真桜が好き。蒼真は恋人として愛してる。真桜は友達って言葉で片付けられない。表現できなくて、もどかしいんだ」


 さっき俺が思っていた気持ちだ。羽依も俺と同じように思っていたんだ。この気持ちに付ける名前がやはり見つからなくてもどかしいんだな……。


「無理に言語化する必要ないのかもね。俺も羽依と一緒だよ。真桜は大切な友達以上の何かだ」


 真桜がくすっと笑った。


「何かって……、ホント語彙が無いわよね蒼真は。でも、一番しっくり来るかも。無理に言葉にする必要はないのかもね。いまこうしているのがとても幸せ。でも、邪魔だったらいつでも言ってね」


「そんなこと言わないで。真桜が居なかったらここまで楽しい思いも出来なかったんだよ? これからもずっと一緒!」


 羽依は高らかに宣言し、真桜に抱きつきキスをした。真桜は目を白黒させていた。


「ちょっと! 私のファーストキス! ——女子ならノーカンなのかしら」


 全く嫌そうに見えないが、一応非難する真桜。その表情は楽しそうに微笑んで、幸せそのものに見えた。


「んふ、真桜の初めて奪っちゃった。大丈夫。女の子同士ならノーカンだってネットで見た!」


 インターネットがそう言うなら、間違いない。ノーカンだ。


「はあ、もう羽依には敵わないわね。——そろそろ寝ましょうか。今日の並びはどうするのかしら。また羽依が真ん中が良いわね」


 羽依がとても嫌そうな顔をした。


「えーやだ。だって囲まれるとめっちゃ暑いんだもん。蒼真が真ん中に来て!」


「嫌だから真ん中にきてって酷くね? 俺だってやだよ」


「それだと私が羽依と離れてしまうわね……私が真ん中だと二人を分けてしまうし。困ったわね」


「まあ、じゃんけんかな……」


 熱中症待ったなし。地獄のじゃんけんが始まった。


「じゃーんけーんぽい!」


 結局俺が真ん中になった。まあ何となくそんな気はした。


「んふ、蒼真。両手に花の感想は?」


羽依と真桜は、口裏を合わせたかのように同時に俺の腕にしがみついてきた。


「あっつい! 二人ともしがみつくな! 絶対わざとだろ!」


 正直言えば照れ隠しだ。嬉しくないはずがない。二人の柔らかい感触で脳が一気にショートした。もう何も考えられない。


「朝、ちょっと早起きして3人で露天風呂に入ろうよ! サウナとか入りたいし!」


「そうね、タオル巻けば良いんじゃないかしら。楽しみね」


「そうだね。もう、なんでもいいです……」


 サウナに入る前にのぼせる寸前だった。

 熱中症は寝ている最中にも起こるから注意しよう……。





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