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告られ彼女の守り方 ~偽装から始まる、距離感ゼロの恋物語~  作者: 鶴時舞
5章 貸別荘一泊旅行

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第54話 夏の旅行 その5 鬼コーチ

 青い空に照りつける太陽。週末の行楽地なのに、蝉の鳴き声以外はとても静かだった。その静けさを俺たちの喧騒が引き裂いていく。


 俺と羽依、真桜と隼に分かれて、ビーチボールで遊んでいた。


「蒼真! ほらこっち!」


 羽依がビーチボールをパスする。俺は高くトスをする。


「羽依、アタック!」


 羽依がえいっとアタックする。弾ける水しぶき、豊かな双丘がふわっと揺れる。


「真桜、レシーブ!」


「隼、拾って!」


 隼が高くトスをする。そこで真桜が強烈なアタック!


 ドゴーン!!


 飛んできたボールが俺の顔面に命中。鼻血出そう……。

 ビーチボールでこの破壊力とは……。真桜、恐ろしい子……。


 燕さんはビーチパラソルの下、サマーベッドに優雅に寝そべり、カクテルを飲んでいた。


「燕さんってホント格好いいよね。できる女って感じ! あ~憧れちゃうな~」


 羽依の感想もとても分かる。やっぱり大人なイメージだな。綺麗なお姉さんって言葉がしっくりくる。


「休憩がてら羽依もやってみたら? セレブっぽい雰囲気味わえるよ」


「うん、やってみる!」


 ビーチボールは隼たちに任せて、俺たちは空いているビーチパラソルへ。羽依はジュースを片手に、サマーベッドに横たわった。

 いやあ、どうしてなかなか。めっちゃ様になってるじゃないか。これはもう、“セレブ羽依様”って呼ばなきゃいけないかもしれないな。


「蒼真、写真撮って~!」


 パシャっと撮って、そのまま羽依に転送した。


「お母さんに送るね!」


 そう言って羽依は美咲さんにLINEを送った。道中の景色や釣りや魚を食べてる写真とかリアルタイムに送っている。美咲さんも、その都度スタンプで返してくれるようだ。


 美咲さんからLINEがきた。なんとなく内容は想像つく。


 美咲「羽依しつこい」


 可愛いネコのスタンプでドンマイと返しておいた。これで癒やされてね……。


「お母さん嬉しいんだね! すぐスタンプ返ってくるんだよね~」


 ――羽依が喜んでるから美咲さんには犠牲になってもらおう……。


 写真を撮って満足した羽依は、むくっと起き上がり準備体操を始めた。じっとしてるのは勿体ないと思ったのかな。


「さあ蒼真、泳ぎの特訓するよ! ビシビシいくからね!」


 羽依が泳ぎのお手本を見せてくれるらしい。張り切ってるのがちょっと怖かった。


「羽依、くれぐれもポロリには気をつけてね……」


「大丈夫だよ。思いっきり泳がないし。みんなビーチボールに夢中だよ。私が見せるのは蒼真にだけだよ」


 そう言って羽依はみんなに背を向けて、水着の胸元をつまみ、少しずらして見せた。舌を出して悪戯な顔で微笑んでくる。完全な不意打ちだった。


「ちょっ、このタイミングで!? 不意打ちやめて! 」


「んふ、ちゃんと私だけ見ててね。さあ特訓だよ!」


 そう言って羽依はクロールを始めた。確かに力いっぱい泳いでるわけではないようだけど、速くて綺麗だ。俺と何がそんなに違うんだろう。


「じゃあ次は蒼真が泳いでみてね」


 自己流クロールをやってみる。足をバタつかせ、腕をぐるぐる回す。息継ぎもできなくないけどやっぱり不格好になってしまう。スピードも全然遅い。ああ、どんどん犬かきっぽくなっていく……。


「はあ……、はあ……。——羽依、どうかな? 悪いところわかったかな」


 羽依は少し俯いて、顎に手を当てる。


「うん、呼吸のときに顔が上がりすぎてるかも。そのぶん体が沈んで、進みにくくなっちゃってるの。もっと水面ギリギリで吸えるようになると、楽に泳げるよ。あと、足、ばたばたしてるけど、推進力になってないかも。水面を軽く蹴るくらいでいいよ。足先だけで水を払うイメージ」


 羽依は勉強の時もそうだけど、ふわっとした感覚じゃなく、理論的に教えてくれる。だからこそ俺もとても理解しやすかった。


「よし、ちょっとやってみるね」


 呼吸と足の動かし方を説明された通りにイメージする。羽依のお手本も思い出し、できる限り再現する。


「うん、さっきより全然良くなったよ! あと5往復やったら手の回し方も直そう」


 5往復もか……。結構ガチ目に教えてくれるようだ。

 頑張って5往復してみた。競技用プールよりは狭いけど、それなりの広さがあるので結構疲れた。


「どうかな……良くなってきた?」


 羽依はにっこり笑顔で頷いてくれた。


「やっぱり蒼真は教えがいあるよね。勉強もそうだけど、素直に実践してくれるからこっちも嬉しいよ。次は手の回し方だね。蒼真はね、手は回せてるけど、水を掴めてないんだと思うよ。もっと水の重さを感じて、前に押し出すイメージで、かいてみて」


 言われた通りに手を回してみる。感覚的な話でもあるから難しいな……。


「もう少し、こうやって手を回せるかな?」


 羽依が俺の手をとって教えてくれる。近い距離、触れる体に心臓が跳ねる。


「じゃあこれで10往復。頑張ってみようね」


「じゅ、10往復!? ……わかった、頑張るっ!」


 羽依がそう言うんだから間違いないはず。俺は気合の10往復をこなし始めた。途中で気づいたが、そう言えば犬かき状態になっていないかも。スピードも最初より随分と速くなったし、10往復もそんなに苦じゃなさそうだ。


「はあ……、はあ……。10往復終わった……。どうかな。はあ……、はあ……」


「蒼真、びっくりするほど上達早いね! もう教えることは何もないよ!」


 溢れんばかりの笑みを浮かべて、俺の成長を喜んでくれた。毎日鍛えてる成果もあったのかもしれないな。やはり筋肉は裏切らない。


 真桜と隼と燕さんは、交代でビーチボールで遊んでいた。一抜けした真桜がこっちにやってきた。


「蒼真、ずいぶん早く泳げるようになったのね。さっきは溺れてるようにしか見えなかったのに。――弱点がなくなるのは寂しいわ。今の蒼真の弱点は何かしら?」


 真桜がそんな事言ってくる。弱点かあ。今一番の弱点はやっぱりあれか……。


「自分の寝相が一番の弱点かな……」


 羽依と真桜が二人で顔を見合わせてクスクスと笑う。小悪魔二人は唇の端をゆっくり吊り上げて、妖しい笑顔を浮かべる。ちょっと背中がゾクッとした。


「羽依、今夜はどうしよう。蒼真の弱点克服のためにも両手両足縛っちゃおうか」


「それ良いかもね! ついでに目隠しして二人でくすぐっちゃおうよ!」


 何やら良からぬ相談をし始める二人に俺は必死に泳いで逃げた。


「燕さん助けて! 今夜エキストラベッド用意できませんか!?」


 燕さんに泣きついてみた。が、彼女もちょっと悪そうな顔をしていた。あれ、小悪魔しかいない? ここは魔界だったのか……。


「あはは! いいじゃん! 蒼真、幸せだよ? あんなにとびっきり可愛い二人に責められるなんてさ!」


「そうだな、お前ら3人のやり取り、見ててめっちゃ楽しいわ! 蒼真、お前はもう犠牲になれ。贄だ、贄!」


 やばい……隼、お前もか……。気づけば味方ゼロ。ああ、今夜が怖すぎる――。










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