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告られ彼女の守り方 ~偽装から始まる、距離感ゼロの恋物語~  作者: 鶴時舞
5章 貸別荘一泊旅行

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第52話 夏の旅行 その3 塩焼き

 初めての渓流釣り。狩猟本能を研ぎ澄ませ、いざ、魚との真剣勝負!親友や彼女たちには負けられない。何より昼飯がかかっている。俺はもう腹ペコだ。釣れた魚をそのままかじりたくなるくらい。


「やった~! 釣れた!」

「私も釣れたわ。結構簡単なのね」

「ここは管理釣り場だからね。ニジマスは結構釣れるよ!」


 女子3人は早速釣れていた。隼と俺はまだゼロ。


「ま、ビギナーズラックってやつかな。ニジマスも美人には弱いのさ。でも本命はそっちじゃないぜ」


 隼が負け惜しみを言っているが、まだ余裕がありそうだ。きっと勝算があるんだろうな。


「おっ! ヒット!」


 隼の持つ竿がしなり、魚が激しく暴れる。しばらく攻防が続く。

 近づくにつれて大人しくなっていくんだな。


「よっしゃ!イワナゲット! 姉さん、おさき!」


 隼が誇らしげに燕さんに釣れた魚を向けている。


「ふふん、やるじゃない隼。私も負けてられないよ!」


 姉弟で熱い戦いが始まっていた。そろそろ俺も何か釣れないかな~。


「蒼真、頑張ってね!」


 羽依から声援が飛んできた。これは尚更頑張らないと。とは言っても魚の都合だからなあ。俺はひたすら隼の言っていたポイントをめがけて投げていた。しかし、思ったところに投げ入れるのは結構難しかった。


 何十回目かのトライで思った場所に着水。


「蒼真、リールを巻く速度を意識するんだ。早く巻きすぎたら餌に見えないぞ」


 アドバイス通りに巻く速度を意識する。生きてる餌をイメージする感じかな。 心を落ち着かせて、ゆっくりとリールを巻いていく。


 川のせせらぎが耳に心地よく響く。森林らしい深い緑と湿った土の香りがする。日は高く、夏の最も暑い時間が訪れる。しかしながら避暑地の川沿いだからか、暑すぎるというほどでもない。そよ風がとても心地良い。


 ――ガツンと竿に感触が伝わる、一気に竿がしなった。


「うおっ! きた! 結構力強いんだな!」


「良いサイズだ! 焦らずゆっくり巻くんだ!」


 網を持って隼が近づいてくる。俺はゆっくりとリールを巻き、魚と根比べを始めた。あまり強く引くと糸が切れてしまうらしい。激しい攻防の末、岸に近づけることができた。隼が網でサポートしてくれた。


「ナイスフィッシュ! グッドサイズなイワナだな! 初めてでこれって、蒼真、すげえじゃん!」


「おおーマジか! いい感触だったもんな! よっしゃあ!やったー!!」


 手放しで喜んでくれる隼とハイタッチを交わす。たまらない達成感と高揚感。狩猟本能が踊りながら喜んでいる。釣り楽しい~! ハマりそうかも。



 最終的にイワナはみんな合わせて5匹釣れた。これはかなり素晴らしい釣果らしく、釣り場の管理人のおっちゃんに褒められた。その他にニジマスは結構釣れたけど食べる分以外は全部放流する事がルールらしい。一人3匹あるので十分だ。


「いや~豊漁だったな! 短い時間でここまで釣れるとか、最高すぎるだろ!」


 隼が興奮気味に語っている。本来は結構難しい釣りだったらしい。


「ニジマスは簡単なんだけどね~。 イワナとなると難易度が一気にあがるし、蒼真のタックルで釣れるなんてホント稀だよ!」


 燕さんもとても嬉しそうにはしゃいでる。大人な雰囲気だけど、こういう時はとても可愛らしい女性って感じだ。


「私たちもいっぱい釣れたね真桜! めっちゃ楽しかった~」


「ほんと! 釣りって楽しいのね。魚がかかった時の高揚感! またやってみたいわね。イワナの塩焼きもとても楽しみ!」


「結城さん、自分で釣った魚の味は格別だ。絶対また釣りたくなるぞ」


 隼が溢れる笑顔で自信たっぷりに言いきった。

 真桜も「ふふ、それは楽しみね」と、期待に胸を弾ませて頷いていた。


 すっかりいつも通りに戻っていた真桜。少し寝ただけで体力が回復するあたり、やっぱりタフだ。とはいえ、顔には空腹の色がしっかり浮かんでいる。


「魚を焼く場所がそっちにあるからね。水道もあるからそこで捌いて串に刺すよ」


 新鮮なうちに捌いて串に刺して焼いて食べる。実に原始的な食料調達だけど、現代ではなかなか難しい。贅沢だな~って思う。


 魚を捌くのは俺がやらせてもらった。一応ネットで川魚の処理方法を調べる。ぬめりを取り除き、捌くと川魚特有の泥臭い匂いを感じた。内臓を取り、血合いを指でこすりとるのが大事らしい。串に刺して塩を盛る。慣れたら特に難しいことはなかった。


「蒼真、すっごい手慣れてるね! 料理得意なの?」


「はい、料理が趣味なんです。刺し身なら自分で作りますよ。」


「へえ~! すごいね! 私、料理だけは駄目だからさ」


 意外や意外。何でもできる燕さんに料理という弱点があったとは。


「姉さん料理は駄目って言うか、探究心が強すぎてな……『混ぜちゃ駄目』をやろうとするんだよ……」


「ああ、新しい味を目指しちゃうやつか……」


 なんとなく駄目な理由に納得がいった。


 「料理は駄目でも塩焼きなら任せてね!串を炭の周囲に斜めに立てて、遠赤外線で良く焼くの。皮パリッ、身ふわっを目指すよ!」


 炭火でじっくり焼かれる魚を、羽依と真桜がよだれを垂らしそうな顔で見つめている。魚の脂が炭火に落ちるたび、ジュワッという音とともに、香ばしい煙が立ち上った。ああ、羽依がよだれを垂らした。お口に締まりがないなあ……。そっとティッシュで拭いてあげた。


 しばらくすると、皮が良い感じに焦げがつきはじめた。結構時間がかかるんだな。

 燕さんが1本取ってみて試しに一口食べてみる。にっこり笑顔でサムズアップ。どうやらばっちり焼けたようだ。 みんながそれぞれ串を手に取って、かぶりつく。


 「はふ、……お、おいしっ……! ふわふわで、でも皮がパリってしてて……! なにこれ、感動なんだけど」


 「イワナって、淡白だけど甘みがあるっていうか、……とにかくうまい!」


 「ほんと、びっくりするほど美味しいわね……。ちょっと言葉が見つからないわ。感動しちゃった」


 初めて食べる3人の反応に隼と燕さんはハイタッチを交わす。


「初めて釣った魚をその場で焼いて食べるって感動モンだよな! 実際この食べ方が一番美味いんだって!」


「その感動しているところを見て、私はみんなから栄養をもらうの。良いリアクションだよ3人とも!」


 腹が減っていたのも美味さにブーストをかけていた。味付けは塩のみだけど、燕さんプロデュースのおかげで皮がパリっと香ばしく、身がふわっとしていてホント美味すぎた。みんな綺麗に食べ終えて大満足だった。



「さあみんな! 次はヴィラに向かうよ! 夜はBBQやるからさ、いっぱい泳いでお腹空かせてね!」


 得難い経験をさせてもらったな。そして次は貸別荘に向かうんだ。どんな場所なんだろうか。期待に胸が弾む。ああ、楽しみすぎる!



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