第50話 夏の旅行 その1 出発
――ピーピロピー♪
――朝5時。スマホのアラームが鳴り響く。
目を覚ました瞬間、今日が旅行初日だと気づいて、胸が高鳴った。
眠気はどこかへ吹き飛び、すぐに体を起こしてアラームを止める。
天気は晴れの予報。絶好の旅行日和だ。
よし、楽しむ準備はバッチリ整えておこう!
下に降り洗面所に入ると、先に羽依が使っていた。
「おはよう。よく眠れた?」
「おはよう! ばっちりだよ。あの後すぐ寝ちゃった。ぎゅってしたのが良かったのかな。一緒に寝ればよかったかもね~」
一目見て、元気な事がわかるような笑顔を浮かべる。今から始まる楽しい事への期待に胸が一杯なようだ。
「俺もよく眠れたよ。まあ一緒に寝て迷惑かけたら悪いからね。別々で正解だよ」
「今日は頑張って寝相良くしてね。また、真桜と一緒に寝るんだからさ」
やっぱり羽依の中では3人で寝るのは確定なようだ。でも、真桜もさすがに嫌だろう……。エキストラベッドとか借りられないのかな。
支度を終えて、軽く焼いたトーストを食べる。食後の歯磨きを終えた辺りで時間は5時50分。
「じゃあ行こうか」
「うん。お母さん行ってきます~」
まだ寝ていると思って、ひっそり挨拶したら、美咲さんが部屋から出てきた。二日酔いだろうに、起きてくるとはびっくりした。
「おはよ~。気をつけていってくるんだよ。いっぱい楽しんでね」
そう言って俺達をまとめてギュッと抱きしめてきた。まだ少しお酒の匂いが残ってるけど、起きてくれたんだな。俺たちを気遣ってくれる美咲さんに、心がほっと暖かくなった。
「行ってきます美咲さん。おみやげ待っててね」
「お母さん餞別ありがとう。行ってきま~す」
挨拶を終え、美咲さんは部屋に戻っていった。
忘れ物がないよう二人で確認しあってから表に出た。外は夏の朝の湿ったような空気の匂いがしている。土曜日なので道は空いているようだ。
今日の羽依の装いは、夏の旅行コーデ。白地に小さな花柄のノースリーブブラウスに薄手のUV対策のカーディガン、ボトムスはベージュのリネン素材のワイドパンツ。可愛らしさはそのままに、涼しげな動きやすい格好だ。
ほどなくして、大きなSUVが停まった。きっと隼たちだ。
車から降りてきたのは、隼と真桜、そして初めて会う隼の姉の燕さんだった。
「おはよう羽依、蒼真。よく眠れた?」
真桜がさわやかに挨拶をしてくる。その顔は晴れやかで、今にも飛び跳ねそうなほどわくわくしているのが伝わってきた。。
真桜の装いはスカイブルーのVネックニットに白のハイウエストテーパードパンツと彼女らしいシックなファッションだ。とてもお洒落で、洗練された女性って感じだ。
「おはよう真桜。よく眠れたよ。体調はばっちりだ」
「おはよう! 真桜も元気そうだね! よかったよ~」
早速羽依は真桜に抱きつく。そんな羽依を真桜がよしよししている。相変わらず仲が良いな。
「おっす蒼真。今日はよろしくな!」
今日もさわやかな隼だ。Tシャツに7分丈のパンツスタイルで動きやすさ重視だ。素材が良いので何を着ても格好いいのが羨ましいぞ。部活焼けなのだろう、しっかり日焼けしていて肌が真っ黒だ。
「おはよう隼。今日はありがとうな! この恩は体で返すよ」
ぷりんと尻を突き出した。
「うはっ! きもっ! 」
隼に笑いながら尻を蹴られた。いてて。
俺らのやりとりをくすくすと見てたのは隼の姉の燕さん。今日旅行に行けるのはすべて彼女のおかげだ。
「おはよー! 君が蒼真だね。隼と仲良くしてくれてありがとう。それとこっちの可愛い子が羽依だね。隼の姉の燕だよ。よろしくね!」
「おはようございます、初めまして。藤崎蒼真です。今日はご一緒させてもらってありがとうございます! よろしくお願いします」
「雪代羽依です。今日はありがとうございます。よろしくお願いします」
二人で頭を下げると、燕さんはとても喜んだ。
「わあっ!すっごくいい子たちだね! 礼儀正しくて。真桜もすごく礼儀正しくてびっくりしちゃったし。てか女子二人ともすっごく可愛い! お姉さんびっくりだよー。あとでうちの新作あげるからさ! モニターやってね!よかったらSNSにもあげてね」
そう言って羽依の手を取ってにこにこしてる燕さん。テンション高めで距離感の詰め方がものすごいな。羽依もちょっとタジタジになってるけど、悪い気はしてなそう。
二人のこと可愛いって言ってたけど、燕さんの綺麗さはまたベクトルが違うというか、とっても美人だ。
ギャルが良い感じに大人に成長したらこうなるかなって感じだ。
ライトブラウンな髪を後ろにお団子状に束ねている。トップスは透け感のある白のシアーシャツにキャミソール。ボトムスはハイウエストのベージュワイドパンツ。頭にサングラスをかけている。ハイセンスな雰囲気はさすが服飾ブランドの経営者って感じだ。
歳は大学三年生だから21ぐらいなんだろうけど、会社経営してたりとか人生経験豊富なんだろうな。
派手な印象だけど、すごく大人っぽい。
「じゃあ悪いけど、先にお金集めるね。一人1万円は聞いてるよね?」
俺たちは1万円ずつ燕さんに手渡した。
「ありがとうね! これであとはこっちで全部払うからさ。ちょっとばかりお高いところに行くけど、気にしないでね! お代はもういただいてるんだから」
「いえ、本当に助かります。ありがとうございます」
「蒼真は堅いね! もっとくだけて良いからね」
そういって肩をぽんと叩かれた。燕さんは気さくな感じだな。嫌味な感じが全然ない。
荷物を後部に詰め込み、車に乗りこむ。運転手は燕さんで助手席が隼。後部座席は羽依と真桜は車酔いが不安というので俺が真ん中に座ることにした。3人乗っても中がめっちゃ広いので、とても快適だ。
「すごいね、この車。高級感がやばいね! シートもふかふかだし、冷蔵庫もあるよ!」
興奮気味に羽依があちこちいじってる。
「本当にすごいわね、とても静か。この車なら車酔いも大丈夫そうね」
「じゃあ出発するね! 」
車は順調に走り出し、一般道から高速道路に入った。燕さんの運転は熟練ドライバーのような運転で、とても快適なドライブだ。
真桜が何やらリュックから大きめなお弁当箱を出してきた。
「真桜、もうお弁当食べるの?」
俺の言葉に真桜がふふっと笑う。ちょっと得意げな表情だ。
「今朝作ってきたおはぎ。食べるでしょ」
おはぎ! 行楽地に行くときにあると嬉しいやつ!
「すごいね真桜! 朝からおはぎが食べられるなんて思ってなかった!」
蓋を開けると、小さく可愛らしいおはぎが5×3の15個入っていた。
「うわー! 可愛いね。おはぎ大好き! 真桜ありがとう」
羽依もめっちゃ喜んでる。
「高峰くんもおはぎ食べるでしょ。どうぞ」
「おお!結城さんお手製のおはぎが食べられるなんて! 」
隼は早速手づかみでわしわし食ってる。下品だなあ。
「ああこらっ! 隼、車の中であんここぼすな!」
「燕さんもよかったら召し上がってください」
そういって真桜は、用意してあったパラフィン紙に包み込み、手渡した。
「おいしー! ……この味食べたことある気がする。デジャブーかな」
おはぎは大好評。真桜も満足そうに微笑んでいた。実際、とても美味しかった。
俺はおはぎが大好きだ。みんなも大好きだったようで本当によかった。朝早くからみんなのために頑張って偉かったな。さすがは真桜だ。
高速道路も今のところ渋滞もなく順調な道のりだ。
貸別荘か。どんなところなんだろう。わくわくが止まらないな。
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