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告られ彼女の守り方 ~偽装から始まる、距離感ゼロの恋物語~  作者: 鶴時舞
4章 夏休み前半

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第49話 彼女の攻略法

 明日から貸別荘に旅行だ!

 事前に荷物は雪代家に持ってきておいた。まあ1泊なので、大荷物というほどでもない。

 リュックサック一つで十分間に合った。


 夜のバイトが終わった20時半。今日は後片付けは良いから先に休んで、という美咲さんのありがたい気遣いがあった。そのお言葉に甘えて、俺と羽依は先にリビングに上がった。


「お風呂いってくるね~」


 明日が楽しみで仕方ないのか、羽依は自然と鼻歌を口ずさんでいた。

 その澄んだ音色に、思わず耳を傾ける。カラオケでもきっと上手いんだろうな――そんなことを想像してしまう。

 今度、一緒に行ってみたいな。


 隼からLINEがきた。


 隼「明日だけど、キッチン雪代に6時に行くから。道混むだろうから早めに出るぞ」

 俺「早いな! 真桜はどうする?」

 隼「先に合流する話になっているよ。水着と着替えがあれば後は荷物いらないからな」

 最後に了解スタンプを送っておいた。


 明日は5時起きかな。一応羽依と美咲さんに言っておこう。


 お風呂場の羽依に洗面所から声を掛ける。シャワーを使ってるけど聞こえるかな?


「羽依、明日だけど6時に隼が迎えに来るよ」


 シャワーが止まって羽依が風呂場のドアを半分開ける。


「なあに~?」


 反射的に首を90度捻じ曲げる。


「ちょっ! 羽依、くもりガラスで透けて見える!」


「あ! 蒼真のえっち!」


 羽依は扉を閉めてバシャっと音を立てて湯船に身を沈めた。


「ご、ごめんね羽依。隼からLINEがあって明日6時に迎えに来るって」


「結構早いんだね。わかった。今日は早めに寝ようね」


 羽依はいつもの大胆さとはまた違った反応だった。無意識だと恥ずかしいんだな。新たな気づきを得た気分だ。


 美咲さんにも伝えるためにお店に降りる。お酒の香りと賑やかな声が漏れてくる。毎週金曜日のこの時間は賑やかだな。お酒を出すお店って雰囲気だ。この時間は美咲さんもグラスを傾けながら仕事をしているので、リラックスした雰囲気だ。


「美咲さん、明日だけど6時に友達が迎えに来るから5時頃に起きますね。美咲さんは寝てて大丈夫です」


「ああ、わかったよ。気をつけていっておいで。これ餞別だよ」


 そういってポチ袋を2袋くれた。


「――すみません。気を使ってもらっちゃって」


「羽依をよろしくね。たっぷり楽しんできな」


 そう言ってウィンクをする美咲さん。俺は深々頭を下げてリビングに戻った。


 羽依が風呂から出てリビングにやってきた。火照った顔はお湯のせいなのか、さっきの恥ずかしさが残っているのか。表情はちょっと照れたように見えながらも憮然としていた。


「なんか不意打ちで見られちゃうのって、すっごい恥ずかしいね。無防備だからかな」


 やっぱりまだ恥ずかしかったのか。なんか新鮮でとても可愛いな。


「ごめんね羽依。洗面所の外からじゃ聞こえないかなと思って中まで入っちゃった」


「大丈夫だよ。見られたって平気だと思ってたんだけどね。場合によるのかな。今なら見られても良いよ。見る?」


 そう言ってパジャマのボタンを外しにかかる羽依。でも手がちょっと震えてる。もちろん冗談でやってるのもわかるんだけど、心臓に悪いのは確かだ。


「羽依、眠れなくなって旅行が辛くなるよ」


「そ、そうだね! 続きは帰ってきてからね」


 そう言って羽依は洗面所に戻り、頭乾かしたりスキンケアしたり。女の子のナイトルーティンを済ませてから自分の部屋に入った。


 さあ俺も風呂に入ろう。

 髪を洗い、体を洗う。明日は旅行だからな。色々身だしなみを整えておこう。


 それにしても、恥ずかしがる羽依は新鮮に映った。無意識だと弱くなるんだな。ということは、俺から攻めるのはやっぱり効果的なんだろうな。羽依の攻めは強烈だ。先日のオムライスの時は完膚無きまでにやられてしまった。


 でも、思い返せば――俺が攻めに転じた夏休み前の放課後、羽依は何も出来ずされるがままだった。これはもう、羽依攻略法として有りなのかもしれない。


 今回の旅行ではみんなと一緒だから、攻める機会はないかも知れないけど、これからはもう少し攻めてもいいのかもしれないな。

 あれ、ちょっと楽しみになってきた。もうヘタレなんて言わせないぞ!


 色々考えて悶々としながら風呂を出る。寝支度を済ませ、自分の部屋に行くと羽依がベッドでごろんと寝転がっていた。


「蒼真、お布団温めておいたよ!」


 にこやかに言うけど、夏の布団はひんやりしていて欲しい。わざとなのは十分分かってる。さっきの仕返しかな?


「ありがとう……。じゃあお礼に羽依も温めてあげる」


 風呂上がりの温もりにつつまれたまま、布団に入り、羽依を抱きしめる。暑い。暑すぎる。


 俺も羽依もちょっと汗をかいてきた。せっかく風呂入ったのになにしてるんだか……。


「あづい……。蒼真はたまに意地悪だよね。付き合い始めた頃はもっと優しかったのに……」


 そんな事いいながら泣き真似をする羽依。まるでDV男みたいな言われようだな。


「羽依は優しい俺と意地悪な俺、どっちがいい?」


 俺の質問に羽依が即答すると思いきや、ちょっと悩んでる。


「優しいのが一番だけど……たまに意地悪されるのも、ちょっと……好きかも」


 恥ずかしそうにしながらも、そんな可愛いことを言ってくる羽依。だったらちょっとだけ意地悪したくなるじゃないか。


 羽依の背中にパジャマの裾から手をいれる。その瞬間ぴくっと反応をするけど、じっと耐えている。ほんのり汗ばんでるけど、しっとりとした柔肌の質感はとても艶めかしく、いつまでも触れていたい気持ちになる。羽依のパジャマがお腹のあたりまでめくれてしまった。俺の腹も寝巻きがめくれていて、お互いの肌が触れ合う。その瞬間、ビクンと羽依の体が跳ねた。


 そのまましばらく抱き合っていた。羽依の求めるような眼差しに、俺はそっと唇を重ねる。

 触れるたびに少しずつ深くなっていく口付けは、ぎこちなさが抜けて、穏やかに馴染んでいく感覚があった。


 離れた口と口から銀糸がつーっと続いている。暗くした部屋の薄明かりに、羽依のとろけたような顔が照らされて、とても艶やかな光景だった。


「――明日旅行なのに眠れなくなったらどうするの~」


 羽依が少し離れて俺の胸をぽかぽかと殴る。


「ごめんごめん。今日は自分の部屋で寝よう。しっかり寝て明日いっぱい遊ぼう」


「うん、おやすみ蒼真。明日楽しみだね」


 ふらつく足取りで自分の部屋に戻る羽依。やっぱり攻めに弱いんだな――。


 ――今日は俺の勝ち、かな。


 明日は、もっと幸せな時間が待っている気がする。……なんて、今この瞬間だって、十分すぎるくらい幸せなんだけどね。

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