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告られ彼女の守り方 ~偽装から始まる、距離感ゼロの恋物語~  作者: 鶴時舞
4章 夏休み前半

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第48話 旅行の準備

 7月も今日で終わりだ。今週末は貸別荘へ旅行の予定なので、色々準備をしなくては。

 昼のバイトが終わったあと、羽依と繁華街へ買い物に来た。


 羽依は夏のお出かけコーデ。透け感のあるリネンの長袖シャツに水色のキャミソール。

 下はロングのフレアスカートに可愛らしいフラットサンダル。つば広の麦わら帽子にオシャレな薄いサングラスをかけている。

 夏の日差しと溢れる笑顔がキラキラ光って、一緒にいられるだけで幸せを感じる。


 お洒落で可愛らしい彼女の隣を歩くのは、優越感を覚えつつも、俺ももっとお洒落しないと駄目なのかなとは思ってしまう。あまり服に金を掛ける余裕もないから悩ましいところだ。


「こうやって羽依と繁華街に買い物に来るのって久しぶりだね」


「そうだね~。毎日何かと忙しいし、最近は特に暑いしね……」


 そう、酷暑と言われる近年の暑さは舐めてかかると死んでしまう。俺もジョギングは早朝の比較的涼しい時間だけにしているが、それでも暑すぎる。ジムとか行けたら良いけども、贅沢は敵だ。


「貸別荘のプライベートプールは楽しみだね。そういや羽依は泳げるの?」


「ふっふっふ。河童の羽依ちゃんと呼ばれてたんだよ! 部活やってたら水泳部に入ってたかもね」


 河童姿の羽依を想像して、思わず吹き出してしまった。

 羽依はわりと運動もできるんだよな。ただ、お店の手伝いと部活をやっていたら勉強する時間なんて取れないからな。時間は有限だ。俺も一日30時間ぐらい欲しいなと思う。


 泳ぎの方は、俺はあまり得意とは言えない。クロールをしていると、何故か犬かきになってしまう。あまり格好いいとは言えない泳ぎしかできなかった。


「河童の羽依ちゃん! 俺に泳ぎを教えて下さい!」


「蒼真泳げないの? 良いよ。教えてあげるよ。でも、私もそんなに力いっぱい泳げないかも。遊び用の水着だからね。ポロリしちゃうよ?」


 センシティブな発言で俺の様子を伺う羽依。ニヤニヤっと小悪魔らしい微笑みで俺を見つめてくる。


「ポロリは駄目!隼も居るんだから絶対駄目!」


 うっかり独占欲全開な発言をしてしまった。案の定、羽依がめっちゃ喜んでる。


「たはー! 蒼真は独占欲が強いよね。まいったな。たはー!」


 何だそのリアクションは。

 迂闊なことを言うと、どこまでも調子に乗る子だった。


「隼が今回一緒なんだけど、羽依は大丈夫そう?」


「高峰くんは優しいし、何ていうか、気を使ってくれるのがすごく分かるんだよね。私の苦手なゾーンに入らないところとかさ。すごくモテるのもわかるよね」


 隼が人気なのは俺も知っている。ただ、あいつは極度のシスコンだからなあ。周りの子は目に入ってなさそうだ。


「モテすぎるのも大変だよね。羽依も散々な目にあってるし」


「蒼真だって、実は隠れファン居たりするっぽいよ。他の子の目線見ると分かるの」


「ええええ! まじで? 俺モテ期きてるの? それは困っちゃうなあ」


 羽依がジト目で見つめ、やれやれって感じで両手をあげる。


「蒼真は入学した頃より精悍な感じになったよね。しっかり鍛えてるからかな。そういうのは周りも分かるんだよね~」


「バイトするなら体幹鍛えろって隼に言われてね。トレーニングメニュー考えてもらったんだ。あと、真桜との稽古で覚えた体捌きとか、家でもやってるし。運動は結構頑張ってるね」


「蒼真はみんなに鍛えられてるんだね。なんか愛されてるよね~」


 なんだかとても嬉しそうな羽依。サングラス越しにじっと俺を見るその眼差しに熱がこもってる感じがした。


「学力が一気に上がったのも大きいね。進学校だから成績よければ魅力度プラスなのは間違いなし。私はとんでもないモンスターを育て上げてしまった……」


 最後は芝居がかったように、俯き嘆く仕草をする羽依。


「ハカセ。オデ。ガンバッタ。」


 とりあえず俺も雑に乗っかる。羽依がよしよしと頭を撫でてくれた。



 デパートの水着売り場に到着した。色んな種類があるけど、正直なんでもいい。いや、まて俺。なんでも良いと言ったら羽依はとんでもない水着を選んでしまう。危ない危ない……。


「蒼真! これにしようよこれ!」


 案の定、持ってきたのはブーメランパンツ改みたいな水着。鼠径部はメッシュで、お尻にはハート型の穴が開いている。何でこんなの売ってるの。大丈夫かこのデパート。


「これを着て真桜に見られたらどう思うの?」


「……興奮しちゃう」


 興奮しちゃうんだ……。

 羽依の性癖、ホント読めない……。


「だめだよだめ! もっと普通なのにするからね!」


 羽依は「ちぇー」と口をとがらせて選び直しに行った。

 俺も自分で適当なものをチョイス。


「羽依、これどうかな? ネイビーのボードショーツに、白のラッシュガード」


「無難過ぎるかな……でも、うん。すごく似合うと思う! 今から蒼真の水着姿が楽しみだね~」


 羽依の脳内イメージでGOサインが出たようだ。きっと良く似合うって思ってくれたんだな。よし、これにしよう。


「蒼真、これみて! 紐だよ紐。この前真桜と買い物来た時に試着したんだよ~」


 見ると紛れもなく紐だった。これ着たんだ……。


「こんなの着たらすぐポロリしちゃいそうだね……」


「真桜に見せたらさ、水着ずらされてポロリしちゃった」


 なにしてくれてんだ真桜!


「他のお客さんに見られてないよね!?」


 またもや独占欲全開な俺の言葉に、羽依がニヤニヤする。


「カーテン開けてないから見られてないよ。大丈夫。さすがに私もそこまで隙はないよ」


 隙がありそうで、実は無いのが羽依か。まああれだけ告白ラッシュがあっても流されず、誰とも付き合ってないし。男嫌いのバリアは今でも強力だからな。見た目はお洒落で華やかなイメージだけど、一途で俺にだけ奔放な羽依だった。間違いなく理想的な彼女だと思う。


「どうしたの? じっと見て。紐の私を見たくなった? いいよ。試着しても」


「いや、それはいいや。そんなの見たら耐えられない」


「鼻血吹いちゃったら大変だもんね! 紐はさすがに買わないけど、蒼真にだけ見せる用の水着、買っちゃおうかな。それで一緒にお風呂はいるの。どう?」


 どうって、反対するはずないじゃないか……。


「賛成です。ちなみにどんなの買う?」


「さっき見た中ではこれかな。ちょっと恥ずかしいから、今度の中間テストのご褒美にしようかな」


 羽依がもってきたのは白いマイクロビキニだった。紐よりはいくらかマシかもしれないが、露出面積は紐と大差ないんじゃないか?


「これ、丁度セールで80%オフだって。すごく安くなってるよね。買っちゃおうかな~」


 きっと露出が多すぎるから売れ残ったんだろうな。ホント大丈夫か?このデパート。


「じゃあさ、30位以内だったらこれ着てお風呂に入ろうね。前回より順位が上なら――サポーターなし。どう?」


 考えなしで言ってるのが良く分かるなあ……。以前のミニチャイナだってそんなノリで言ってたじゃないか。


「これ生地薄そうだよ? サポーターなしだったら、濡れたら透けちゃうね。もはや着てないも同然じゃない?」


 ふむ、と思案顔の羽依。さすがに全裸に近いのは抵抗があるんだ。


「20位以内……。蒼真は今20位以内を目指してるんだよね。達成できたら――良いよ」


 俺が戸惑っているうちに、そのままレジに持っていってお会計を済ませる羽依。その表情には、ある種の覚悟がみられた。試着しないのは、あえてなんだろうな。


 俺も会計を済ませて、デパートを後にする。そろそろ帰らないと夜のバイトに間に合わなくなる時間だ。


 帰り道、ちょっと口数が少なめな羽依。さっきの水着が気になってるのかな?


「旅行でこれ着たらみんな引くかな~」


「うん、ドン引きだと思う。やめてー」


 羽依は「だよね~」と笑うが、何やら落ち着かないようにもじもじしている。


「どうしたの? もしかして着てみたいの?」


「ううん。みんなが引くような水着買っちゃったんだなって思うとさ、今更ながら恥ずかしくなっちゃって……」


 一呼吸置いて、冷静になっちゃったんだな。たまに暴走するけど、あとから思い出して悶えちゃうタイプなんだろうな。そんな羽依がとても可愛かった。


 20位以内は今後の俺の目標だからな。

 敢えて羽依は俺に奮起するように目標を立ててくれたんだろう。 

 羽依の優しさに応えられるよう、頑張って勉強して20位以内を目指そう!


 決して、白の透け透けマイクロビキニが見たいわけじゃないんだ。

 俺は紳士だからな。うん。










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