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告られ彼女の守り方 ~偽装から始まる、距離感ゼロの恋物語~  作者: 鶴時舞
4章 夏休み前半

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第46話 昼のバイト

 食後、俺たちは3人でリビングに集まり、のんびりと過ごしていた。

 美咲さんはリビング奥のPCスペースで、お店のデータを入力していた。いつもはかけない眼鏡をかけて、知的美人な雰囲気だ。


「蒼真、来てごらん。ちょっとモニターを見てみなよ」


 美咲さんに呼ばれてモニターを覗いてみる。お店の売上の推移が記されているようだ。グラフが右肩上がりを示している。


「なんか売上伸びてますね。お客さんいっぱい食べていくのかな」


「蒼真が頑張っている効果だよ! お店の回転が良くなってるのが売上に直結してるんだよ」


 羽依も覗きに来た。売上推移を見てちょっと興奮してるようだ。


「ね! 蒼真きてからお店すごく忙しいもん。これならお昼もすごく儲かっちゃうね!」


「時給分以上の働きは十分してるね。これからもよろしく頼むよ!」


 『自分が役に立ってる』って、数字で示されるとすごく説得力がある。なんだろう、この高揚感。もっと頑張りたいって、自然と思えた。

 それと同時に――やっぱり美咲さんってすごい。俺のモチベを、どこまでも引き上げてくれる人だ。

 

 今日は初めての昼間のバイトだ。このテンションで頑張ろう!


 俺たちの様子をみた真桜が、ふと思いついたように美咲さんの方を向いた。


「美咲さん、今日のお昼をお店でいただいても良いですか? 二人の仕事してるところを見てみたいんです」


「そりゃもちろんかまわないよ! せっかく来てくれたんだ。好きなメニューを何でも蒼真が奢ってくれるよ!」


 ああ、お代は俺から取るんだ。なるほど~。


「じゃあお言葉に甘えて。蒼真、ごちそうさま」


 真桜はとても艶やかな笑顔で微笑んだ。

 いいだろう、キッチン雪代のご飯がどれだけ美味しいか、しっかり味わうと良い!


 時刻は11時を過ぎた。俺たちは仕込みの準備をしている。お店は11時半からの営業だ。真桜はお店をきょろきょろ見回している。夜とはまた違った雰囲気だからね。俺も昼に働くのは初めてなので、少し緊張する。メニューがランチ限定メニューのみなので、夜よりは楽ができそうかな。


 店が開店した。あっという間に満席だ。お昼の客層は、腹ペコワーカー達がメインのようだ。

 

 常連のお客さんらしき人たちには、この店に男性店員が居るのが珍しいようで、「バイト頑張りな!」などと励まされる。気さくな人が多いな。


 カウンターでは真桜がメニューを見ている。ちなみにランチメニューの一番人気はポークソテーだそうだ。めっちゃ美味いんだよなあ。


「ご注文はお決まりですか?」


 俺は真桜に向かってうやうやしく尋ねる。真桜は「A定食をお願いします」とお客さんらしく注文を頼んできた。ちなみにA定食はポークソテーだ。おすすめしたメニューを頼んでくれたんだ。ふっふっふ。あまりの美味さに驚くといい。


 目まぐるしく動く俺と羽依を感心したように見つめてくる。

 それにしても昼も忙しい。外には夜よりもお客さん並んでるし。ランチは回転が早い分、より忙しさを感じる。美咲さんこれを一人でさばいてるって嘘だろ?


「おまたせしました! A定食です。ごゆっくりどうぞ」


 鉄板の上でジュージューと湯気が立ち上るポークソテーに、まるで宝石を見つめるように目をきらきらと輝かせている。サービスでご飯大盛りにしておいた。真桜ならこのぐらい平気で食べるだろう。


 一口目を食べるところを横目で見る。キッチン雪代特性デミグラスソースのかかったポークソテーを口に運ぶ。真桜が目をぎゅっとつぶってジタバタしてる。とても美味しいんだなってことが良く伝わってきた。クールビューティーは最近どこかに置き忘れてしまったようだった。俺も無意識で、小さくガッツポーズをとっていた。


 嵐のような時間が過ぎ、時刻は14時。ようやくお昼の部はお終いだ。


「いやーお昼も忙しいな。すごい客数だったなあ」


「ほんとだね~。よく毎日お母さん一人でまわせるよね」


 美咲さんも珍しく、くたくたな様子だ。


「回転が良くなった分、調理がより忙しくなったねえ。回転良いのも考えものだわ」


 嬉しい悲鳴なのか本当の悲鳴なのか、判断の難しいところだった。


「みんなすごかったわね。友達が働いてる姿はリアリティーがあったわね。なんか感動しちゃった」


 真桜がなんだか感極まったような表情をしていた。


「蒼真と羽依の息のあったところが見れてとても良かったわ。さすがは私の推しカップル。じゃあそろそろ帰るわね。蒼真、また明日ね。羽依、あとでLINE送るね!」


「うん、真桜ありがとうね。気を付けてね」

「また遊びに来てね!」


 真桜は手を振って帰っていった。


「なんか真桜帰っちゃうと寂しいね。――真桜も一緒にバイトできたら良いのに」


 羽依が寂しそうにそんな言葉を漏らす。真桜のこと本当に好きなんだな。


「さすがにバイトそんなに増やしたらお店としても難しいんじゃないかな」


俺が入っただけでも結構な負担だったはずだ。美咲さんも少し首を傾げて思案している。


「いや、毎日は厳しいかもしれないけど、職業体験がてら、何日かだけバイトしてみるってのもいいかもね。それにスポットで入ってくれる人がいたら心強いしね」


 確かに現状の人員を考えると、助っ人の存在はありがたいだろう。美咲さんの提案に羽依がぱあっと花咲くような微笑みをこぼす。


「お母さんそれだよ! さすがだね! お母さん大好き!」


 羽依の素直な愛情表現は見ていてとても心が暖まる。美咲さんにぎゅっとしがみつき、美咲さんも羽依の頭をぽんと撫でる。


 そんな羽依が大好きだなって改めて実感した。


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