第44話 覗いたら駄目
羽依と真桜が風呂から上がり、リビングに戻ってきた。
湯上がりの余韻をまとった二人の肌はほんのり紅く、柔らかな光を帯びて艶やかだった。
二人ともお揃いの可愛らしいパジャマを着ている。羽依はピンク、真桜は水色の色違いで、半袖の前開きシャツにショートパンツという軽やかな寝間着姿だ。
羽依は胸元がやや開いており、その豊かなバストが否応なく目を引く。真桜は程よい膨らみとスラリと伸びる脚線が際立ち、抜群のスタイルが一層際立って見えた。
「蒼真にパジャマ姿を見られると、さすがに恥ずかしいわね」
「ああ、ごめん! つい見入っちゃった」
真桜はくすっと笑って羽依にしがみつく。羽依も可愛らしくポーズを決める。二人とも反則級な可愛さだ。
「良いわよ別に見ても。私たちのパジャマ姿見られるなんてとても幸運ね」
「今日泊まってラッキーだったね蒼真! 真桜のパジャマ姿なんて絶対レアだよね~」
こういう時の女子って男よりも大胆なんだろうな。これ以上からかわれる前に、さっさと風呂に入ろう。
「そういや真桜、風呂から良い声が聞こえたね。楽しそうで何よりだよ」
「~~!!」
真桜は顔を真っ赤にして口をパクパクした。声が漏れてると思わなかったんだろうな。退散退散。
風呂場に入ると、さっきまで使っていたのであろうシャンプーとボディーソープの香りがする。いけないと思いつつ、二人の体を洗い合う姿を想像してしまう。――いかん、のぼせてしまう……。
ちなみにシャンプーとボディーソープは俺専用のものを置かせてもらってる。雪代家の使っているものは高級すぎてもったいなかった。まあ、単純に匂いがあわないのもある。羽依も美咲さんもすごくいい匂いがするけど、俺が使うとなんか違う気がする。相性なのかな。
髪と体を洗い終え、湯船に浸かる。
さて、残り湯をテイスティングするか。――いや、しないってば。
何となくああ言われると、この残り湯も気になってしまうな。二人の、特に真桜のあの艶っぽい悲鳴。一体何されたんだか……。羽依はたまに、いや、結構な頻度でブレーキがぶっ壊れるからなあ……。
二人に乱入されるようなイベントも特になく、普通に風呂から出る。体を拭き、下着を履いて、髪を乾かそうとしたとき。
「ね、結構筋肉あるでしょ」
「そうね、あのぐらいあればもっと鍛えても大丈夫そうね」
洗面所を覗く二人の影。
「きゃあ! えっち!」
二人はキャッキャ言いながら去っていった。
――ホント夏休みに入って浮かれ過ぎじゃないか?
リビングに入ると、二人すました顔でテレビを見ている。さっきのことなんて、まるで何もなかったかのように。
「はい、麦茶」
羽依が風呂上がりに良く冷えた麦茶を出してくれた。気が利くなあ。
「うん、ありがとう。――さっき洗面所覗いてたよね?」
羽依は視線をそらしてすっとぼけてる。
真桜はテレビを見ているようだけど、きっと何も見てない。高枝用剪定バサミの広告が延々と流れているだけだし。
「真桜、なんか顔が赤いよ?」
「お風呂上がりだからよ。女の子は代謝が良いからずっと赤いままなの」
すごくそれっぽい事を言って、しれっとしている。手強いなあ……。
「はああ……。羽依も真桜も俺にごめんなさいしないと駄目だよね?」
羽依と真桜はアイコンタクトをする。
「浮かれすぎちゃったわね。ごめんなさい蒼真」
「真桜に毎日頑張って鍛えてる蒼真の体を見てほしかったんだ。ごめんね」
そうやって素直に謝られると、こっちも立つ瀬がない。
「ああ、いや、良いんだよ。そんなに悪い気もしてないし」
「んふ、蒼真はやっぱり優しいよね。じゃあそろそろ寝ようか」
「そうだね。……何だか疲れちゃった。おやすみ」
そう言って俺は3階に上がり、自分の部屋に入った。ドアを閉めようとすると、後ろから二人が付いてきた。
「ここが蒼真の部屋なのね。あら、結構広いのね。蔵書もかなりあるし。ちょっと楽しそうだわ」
「元はお父さんの部屋だからね。まだお父さんの私物とか置きっぱなしのが多いの」
そういって羽依は俺のベッドにごろっと寝転がった。
「お母さんダブルベッド買ったんだよ。何か、気の利かせ方がお母さんらしいよね」
羽依は、いたずらっぽく笑っている。可愛らしいけど俺が寝れないじゃないか。
「羽依と二人で寝るには良さそうね」
そう言って真桜もベッドにごろっと寝転がる。
「ああ、二人とも俺を寝かせる気がないんだね。じゃあ俺は羽依の部屋で寝るよ。ついでに色々漁ってやろう」
「だめだよ蒼真。女の子の部屋に勝手に入っちゃ」
「そうね、最低よ、変態だわ蒼真」
「二人とも俺にどうしろっていうのさ!」
羽依と真桜がくすっと笑って二人で俺を手招きする。
「3人で寝ようよ」
「旅行の練習よ。ちゃんと眠れるか試さないといけないわね」
ああ、小悪魔が倍に増えた……。また俺は試されるのか。
「ああもう、ああ言えばこう言う! 俺の寝相が悪くたって知らないからな!」
いいさ、こうなったら3人で寝てやる。
俺は開き直ってベッドに入った。並びは右から俺、羽依、真桜の順だ。
――冷静に考えるとすごい絵面だな……。意識しすぎると寝れなくなる。無心だ。
「んふ、両手に花だね! でもちょっと暑いかも」
「そりゃそうだ。ダブルベッドでも大人3人ではきついからね」
俺は羽依の腕にわざとしがみついてみる。
「そうね……。快適とは言い難いけど、羽依にくっついて眠れるのは悪くないかも」
真桜も羽依の腕を取り、ぎゅっとする。
最初は楽しそうだった羽依も、ちょっと暑そうだ。汗かいてきてる。
「あづい……ちょっとだけエアコン下げていいかな……」
エアコンの設定温度を一度下げた。環境に優しくないなあ。
「ああ……ちょっと涼しくなってきた……おやすみ」
先に寝たのは羽依だった。真桜はちょっと緊張しているのか、目がぱっちり開いていた。
「真桜は眠れないの?」
「色々あって、何だか興奮してしまったみたい。――羽依と小さい頃遊んだ記憶も蘇って……。こんな偶然ある? 夏休み初日からこんなに楽しくて。ほんと、すごく嬉しいの」
「うん。今日は楽しかったね。色んな話が聞けたりさ」
穏やかに微笑む真桜がとても綺麗だ。部屋は暗くしてあるが、ルームライトの薄明かりで幻想的に浮かび上がる羽依と真桜の美貌。羽依は安らかに眠っていて、それを見守る真桜の温かい眼差しが、なんとも現実味がなく夢のようだった。
「お風呂では散々羽依にいたずらされたわ。今こうしてすやすや寝てるのを見ると本当に天使みたい。お風呂では小悪魔だったのに」
真桜は羽依のほっぺをつんつんしている。面白そうなので俺も反対側からつんつんした。
羽依の幸せそうな寝顔を見ていたら俺も眠くなってきた。真桜も同じようだ。真桜がそっと手を伸ばし、俺の手を掴んだ。
「おやすみ蒼真。今日ははしゃぎすぎてごめんね。また明日ね」
「おやすみ真桜、楽しかったから問題ないよ。今日はありがとう」
あとは何事もなく朝が迎えられたら良いな……。
――チュンチュン。
ああ、朝だ。意識が少しずつ覚醒する。
頬に柔らかい感触を感じる。羽依の胸に顔を埋めていたようだ。
パジャマは開けて柔らかい感触がストレートに伝わってきた。またやっちまった……。
そそくさと離れ、はだけたパジャマを直す。朝から心臓に良いんだか悪いんだか。
相変わらず寝相が悪い俺だった。反省してもなかなか直らないな……。
でも、真桜にするよりはまだ良かったのかな……。
羽依と真桜も目を覚ましたようだ。
「おはよう二人とも。よく眠れた?」
真桜は俺を見たとたん、何故か顔を真っ赤にしている。羽依は色々察したようで、もはや諦め顔だ。
「――蒼真に責任取れとは言わないわ。でも、でも!」
「無自覚って怖いよね~」
羽依はちょっと嬉しそう。仲間が増えた喜びを感じているようだった。
俺、何したんだああああ!
面白いとおもっていただけたら、ブックマークをしてもらえると励みになります!




