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告られ彼女の守り方 ~偽装から始まる、距離感ゼロの恋物語~  作者: 鶴時舞
3章 恋人として。

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第41話 誰もいない教室

 面談が終わった俺は、羽依の面談が終わるまで廊下で待っていた。


「ありがとうございました」


 進路指導室から美咲さんと羽依が退出した。二人ともにこやかに出てきたのを見ると、楽しい面談となったのかな。何か面白い話が聞けたりして。


「じゃああたしは先に帰るからね。二人でゆっくりしておいで」


「美咲さん、本当にありがとうございました」


「あは、まだ大したことは何もしてないよ。それに支援受けられなくても構いはしないよ。うちに来ればどうにでもなるさ」


 美咲さんは朗らかに、何でもないような事のように言ってくれる。


「そうだよ蒼真、早くうちに住もうよ。絶対その方が楽しいって!」


 羽依の中では俺が雪代家に住むのは確定事項のようだった。いや、確かにきっと楽しいだろう。しかし、アパートで一人暮らしの自由さは捨てがたい。でも、そんな事言ってられなくなる日が来るように今は思えてきた。


 美咲さんは先に帰ったが、俺たちはまだ学校で用が残っていた。面談の期間は帰宅時間が早いが、各生徒に雑用が割り振られていた。


 羽依と俺は夏休みの資料のファイリングを頼まれていた。なかなかのボリュームだがクラスのみんなから、夫婦だから良いだろうと押し付けられてしまった。やっかみ怖い。


 俺たちは作業をしながら今日の面談について語った。気になるのはやはり佐々木先生と美咲さんだ。


「なんかさ、お母さんと先生の距離感近く感じなかった?」


 羽依がそう感じたのだから、やはりそうなんだろう。


「うん。ただの同級生よりも近い感じだったよね」


「そうそう、妙に阿吽の呼吸っていうかさ、熟練の夫婦みたいな感じでさ」


 羽依からは佐々木先生に対して特に男嫌いとか、嫌悪感とかは見受けられない。


「もし、佐々木先生と美咲さんが再婚ってなったらどうする?」


「え……、やだ」


 即答する羽依。まあ男嫌いな羽依が受け入れられるはずないか。佐々木先生が嫌ってわけじゃなくて、新しいお父さんが嫌なのかもしれない。でも佐々木先生と美咲さんならお似合いな気がする。美男美女のカップルだ。


 まあでも、この話はこれまでにしておいたほうが良さそうだ。


「美咲さんはあれだけ綺麗なんだから、彼氏とか居たりしなかったのかな」


「言い寄ってくる人はそりゃいっぱい居たよ。でも、全員振ってた。あまりしつこくするとお母さん切れちゃうからさ」


「それは怖そうだ……。」


 面倒なファイルの整理がようやく終わった。

 それにしても静かだな。

 面談は全員終わって部活も今日は無い。話し声や足音も聞こえてこない。


 世界中に俺達しか残ってないような錯覚に陥る。


「なんか放課後の教室に二人きりで居ると変な感じするね」


「うん、さっきから私もそう思ってた。マンガや小説とかなら何か起きそうだよね」


 羽依がニマっとする。その何かしらを期待してるような羽依を見ると、ちょっとだけ悪戯したくなってくる。


 慎重に周りを見渡して誰も居ないことを確認した。

 そして俺はそっと羽依の手を握った。


 はっとした表情を浮かべる羽依、その仕草に緊張が浮かんでくる。


 手を握るぐらいなら登下校で毎日手を繋いでいるが、教室で手を握るとなると話は別だ。緊張で汗が滲んでくる。


 握った手を解き、腕から肘、二の腕をそっと撫でていく。夏服なので、生肌の柔らかい感触が伝わってくる。羽依が小さく「だめ」とつぶやく。その声がたまらなく可愛らしい。


 縮こまって少しふるえている。その体を優しく抱きしめて口付けすることが出来たらなと思う。


 でもさすがにこれ以上はできない。


「――帰ろうか」


「うん、早く……蒼真の部屋に行きたい」


 そう言って立ち上がる羽依。距離の近さから、甘い柑橘のような香りがふわっと鼻腔を擽る。

 ふと視線を落とし、足を見る。白磁のような綺麗で艶っぽい足だ。そっと手を伸ばして、ふくらはぎに触れてみる。羽依がびくっとして、でも、じっと耐えている。

 瑞々しく、少しヒヤッとした感触だ。そこから(ひかがみ)、膝、外腿と手をすべらせていく。ハリがあり、皮膚の薄い感じが伝わってくる。登っていくほど、肌の熱がじんわりと伝わってくる。

 外腿をなぞった指先が、そっと内腿へと滑り込む。その瞬間、羽依の体がわずかに震えた。羽依の指先が、制服の裾をぎゅっと握りしめた。

 少しの間、肌の感触を味わっていたが、それ以上、触れるのが怖くなって、そっと手を離した。


「蒼真、だめだよ……」


 耳まで真っ赤にした羽依が、泣き出しそうな表情になっていた。


「ごめん、悪戯しすぎたね。さあ帰ろう」


 帰り道、羽依は口数が少なく、顔を赤く染めていた。ちょっと悪戯しすぎたかもしれない。俺も顔は真っ赤だと思う。熱を出したときのように感じていた。


 アパートに着くなり、羽依は俺に項垂れてくる。ベッドに二人腰掛け、羽依の顔を見つめる。いつも元気で可愛い羽依が、今は蠱惑的な女の相貌だった。


「蒼真があんなに大胆になるのは想像できなかった。私から悪戯しようと思ったのに……」


「ヘタレ返上できたかな。羽依の恥ずかしがる顔がすごく可愛かった」


 羽依がちょっと口をとがらせてくる。可愛いその仕草ひとつひとつが俺の胸を締め付けてくる。


「今は二人きりだよ? 教室じゃなくて蒼真の部屋。何したい?」


「もっと羽依に触れたい。キスしたい」


 羽依はくすっと笑ってベッドにごろっと横たわる。


「いっぱい触ってね。いっぱいキスしよう。蒼真、大好き」


 羽依に覆いかぶさり、口付けを交わす。教室で触れたように足にそっと触れていく。

 羽依が切ない声を上げる。


「蒼真、好き、大好き」


 ……。



 力強く抱きしめあった後、二人でそのまま寝てしまっていた。


 時計を見ると、バイトまであと1時間。


「おはよう、つい寝ちゃったね」


「うん、なんか体がふわふわしてた」


 二人見つめ合いくすっと笑い合う。


「教室であんなにエッチに触ってくるなんて思わなかったよ~」


「誰もいない教室マジックだよね。次にあんなシチュエーションあったらやばいな。どうなっちゃうんだろう」


「蒼真に襲われちゃうのかな! きゃ~助けて~」


 羽依が楽しそうに悲鳴をあげる。ぎゅっと抱き寄せ、羽依のその口を塞いだ。


「――蒼真、キスがだんだん上手になるね」


「羽依もそうだよ。今日はちょっとやばかった」


 ニヤニヤっとする羽依。


「我慢しなくて良いのに~。でも蒼真に襲われるのも時間の問題かもね」


「どうだろう。羽依のこと大事にしたいからね。その時はきっとお互いに納得できる時にすると思うよ」


 意識したのか、羽依が顔を真っ赤にして俺の胸に埋めてくる。


 こんな可愛い彼女ができたんだ。

 一緒に卒業したいよね。


 今一度、頑張ろうと決心した。










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