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告られ彼女の守り方 ~偽装から始まる、距離感ゼロの恋物語~  作者: 鶴時舞
3章 恋人として。

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第40話 個別面談

 放課後、個別面談の時間がやってきた。


「蒼真」


 聞き覚えのある声に呼ばれ、振り返ると美咲さんが俺に手を振っていた。いつものラフなスタイルではなく、オフホワイトのブラウスにベージュのタイトスカートの組み合わせ。上品な雰囲気を纏っていて、周囲から一際注目を浴びている。やっぱり綺麗だな。女優のようだなと思う。


「これから蒼真の時間だよね。私も出ていいかい?」


「え、ああ。でも先生がなんて言うか……」


「大丈夫だよ!」


 美咲さんがニコッと微笑んで俺の腕を組む。肘の感触に思わずドキッとした。


 前の順番の生徒が退席した。次は俺の番だ。


「失礼します。」


 俺と美咲さんが進路指導室に入る。先生は俺達をみて、ふっと微笑んだ。担任の佐々木先生は爽やかイケメンで、優しく生徒思いと評判だ。生徒たち、特に女子からとても人気が高かった。


「藤崎、今日は雪代のお母さんが保護者代理なんだな。話は聞いているよ」


 美咲さんがウィンクしてきた。事前に話は通してあったらしい。俺たちは椅子に座り、先生と向き合い「よろしくお願いします」と挨拶をした。美咲さんもその表情は真剣で、冗談で参加している訳では無いのが伝わってきた。


「――さて、今はアパートで一人暮らしだよな。何か不自由なことはないか?」


「いえ、今のところ問題は起きていません」


「そうか。色々大変な事も有るだろう。困った事があったら直ぐに言うんだぞ。それと、キッチン雪代でバイト始めたんだよな。――美咲の料理はうまいよな」


 佐々木先生はニヤッとした。

 美咲と名前で呼ぶ辺り、とても親しみがこもっている。


「はい、めっちゃうまいです!」


「健太ももっと店にきなって。サービスするからさ」


 美咲さんが笑顔で言うけど、佐々木先生は苦笑する。


「いつ行っても満席で入れないからな。機会損失は人気店の宿命だな」


「並べばいいじゃないか。 それに最近は、この蒼真と羽依が頑張ってくれてる。いい仕事してるよ。そのおかげで回転率上がったからね。可愛い教え子の頑張る姿をみてあげてよ」


「へえ、そんなに頑張ってるんだ。美咲がそんなに褒めるなんてな。それは一度見てみないとな」


 穏やかな笑顔で佐々木先生が答える。美咲さんとすごく仲良しな雰囲気だ。中学の同級生って話だけど、距離感はそれより近そうだ。


「話が逸れたな。さて、今回の期末テストだけど、中間テストと併せてみても上位クラスだな。今の成績を維持できれば選択肢は広がるだろうな。進路はもう決まっているのか?」


「まだ絞りきれてません。やりたいことも色々あるけど、……難しいです」


「そうだな。将来像をこの歳で描けてる子はやっぱり少ないよ。でも、勉強して上位でいられるのはとても有利だ。入学してしばらくの成績はふるわなかったようだけど、急激に上昇したよな。何か理由あるのか?」


「勉強時間を増やしました。朝の勉強と家に帰ってからの勉強。さらに強力なサポーターが俺を引っ張ってくれました」


「雪代と結城か。確かにあの二人に教えてもらえば成績は上がるかもしれないな。でも、プレッシャーもすごそうだな」


「ええ、そりゃもう……」


 笑いながらも佐々木先生は理解を示してくれる。実際、プレッシャーエグすぎたからな……。


「成績が上がったのは紛れもなく藤崎の努力の結晶だ。誇って良いと思うよ」


 温かい眼差しで俺を褒めてくれる。先生の言葉がじんわりと胸に響いた。


 それからしばらく学校生活のことや具体的な進路についての考え方などの話をした。美咲さんも居るのはとても心強く、和やかな雰囲気の中で面談は行われた。


「健太、そろそろ例の話もいいかい?」


「ああ。昔、美咲が受けてた進学特待支援制度の話だな。――うちの学校では何らかの事情で学費の支払いが困難になった場合の支援制度があるんだ。成績次第では、学費が全額免除になる制度だ」


「――そんな制度があるんですか……」


「蒼真、勝手に話を進めて悪いと思ってるよ。でもね、蒼真の家庭の事情を知ったからには、何かしら手を打っておいたほうが良いと思ってね」


「藤崎、家庭の事情をある程度聞いた。美咲を悪く思わないでくれ。とても心配してるんだ。親からの支援が途切れたらどうするかとな。今はまだ心配ないのかもしれないけど、転ばぬ先の杖だ。意識しておくに越したことはないだろう。」


 悪くなんて思うはずがなかった。美咲さんは自分の経験を踏まえて、俺に手を差し伸べ、道を示してくれているんだ。

 

 以前、美咲さんの晩酌に付き合ったときの話を思い出す。俺と同じように親に振り回されたという過去を。支援を受けていたということは、今の俺よりも状況は悪かったんだろうな……。

 

 美咲さんは……俺の周りの人は、どうしてこんなに優しいんだろう。俺はその優しさに報いることはできるんだろうか……。


「ありがとう……ございます。――どうすれば受けられるんでしょうか」


「この制度は優秀な成績かつ、生活態度に問題が無い生徒が審査を受けられるようになっている。過去の事例からみると、上位20位以上なら、学費すべて免除だ。今は国の支援で授業料自体は一部無償化されているが、それだけでは学校生活に必要な費用まではまかなえない。この特待制度を受けられれば、学校生活に関わる費用――教材費、制服代、修学旅行費まで含めて支援される。学校に関してはそれで問題なく通学できる。」


「上位20位ですか……」


「狭き門ではある。ただ、今の成績を見る限り不可能とも思えない。さらなる頑張りの励みになればいいな。あとは生活費と住まいの確保だ。これに関してはバイトと奨学金制度も併せて使えば、無理なく学校生活を続けられるだろう。大変だと思うが、ここは美咲の好意に素直に甘えて良いんじゃないかな」


「蒼真、その時は観念しな。部屋、用意してあるんだからね」


 美咲さんが冗談ぽく言っているが、目は真剣だった。


 こうやって最悪の事態を想定して動くのが大人なんだろうな。


 やっぱり俺はまだ子どもだ……。



「――以上で面談は終わりだ。藤崎、何かあったら直ぐに言うんだぞ」


「色々ありがとうございました。――少し気持ちが楽になりました」


 面談を終え、佐々木先生とLINEの連絡先を交換した。


 全く考えてないわけではなかった最悪の事態。でも、考えを先送りにしていた。仮にそれが起きても、何も出来ずに狼狽えていただろうな。

 

 今は抗う手段ができた。成績をさらに伸ばす必要があるが、俺ならできる。そんな気がした。


「美咲さん、ありがとうございました」


「いや、勝手に色々して悪かったね。余計なお世話はあたしの悪いところなんだ。勘弁してくれ」


 美咲さんはちょっと照れたように視線をそらした。


「不安は確かにあったけど、おかげでなんとかなりそうです」


「そっか。ならよかった」


 美咲さんはとびっきりの笑顔を見せてくれた。

 進路指導室をでた俺達を、待っていた羽依が駆け寄ってきた。


「蒼真、お母さん迷惑かけなかった? って蒼真、顔真っ赤だけど……目も真っ赤。泣いてたの? お母さん! 何したの!?」


「ああ、いや羽依。違うんだ。美咲さんは……」


「大事な話だよ。――羽依、これからも蒼真とずっと一緒にいられるように、二人で一生懸命勉強するんだよ」


 詰め寄ってくる羽依の頭を美咲さんはポンと撫でる。とても穏やかな笑顔で、普段のお店のときとはまた違う優しいお母さんだった。


 きょとんとした顔の羽依。俺の方をじっと見てくる。やがてくすっと笑い、俺の手を取る。


「蒼真とずっと一緒なんて当たり前だよ。蒼真が嫌って言っても離れないんだからね!」


「俺も羽依と一緒にいられるように頑張るよ。一緒に卒業しよう」


 新たな目標が決まった。上位20位はハードル高いけど、今はとにかく頑張ろう。




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