表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
4/137

第4話 腹ペコ高校生

 カレーが出来上がり、120cm四方の座卓のテーブルに向かい合って並べられる。カレー特有のスパイスの芳醇な香り。人類の発明の中でも一際輝いているであろう料理だ。


 この強烈な引力には、腹ペコ高校生は到底抗えない。


「「いただきまーす!」」


 二人きれいに声がそろったところでカレーを食べる。さて雪代さんの反応は如何に。


「おいひーよぅ!」


 大きな目をさらに大きくして、雪代さんが絶賛する。その表情を見るだけで満足度が伝わってくるようだ。続いて俺もカレーを食べる。


「うん、これはなかなか!」


 一人で食べても美味しいが、二人で食べると美味しさがさらに増すような気がした。


 三合炊けば、明日朝の分まで持つかなと思っていたが、二人で調子よく食べていたらすっきり無くなってしまった。


「食べすぎた~! こんなにお腹いっぱいに食べること無いかも」


 よほど気に入ってくれたのか、しっかりおかわりもしてくれた雪代さん。その幸せそうな様子には、ほっこりしてしまう。もう放課後の時の怯えた表情はすっかり消え、いつもの明るく朗らかな雪代さんに戻っていた。


「食後のデザートは入らないかな? プリンあるけど」


 俺が冷蔵庫から自家製プリンを取り出すと、雪代さんは目を輝かせた。


「プリン大好き! それは別腹だよ〜」


「こんなのもあるけど使う?禁断のホイップクリーム。これをかけると……飛ぶよ」


「なん……だと! かける~!」


 プリンにホイップクリームをデコレーションする。


「はい、デザート! さあお食べよ!」


 お腹いっぱいのはずの雪代さん。プリンを眼の前にして目を輝かせ一口ぱくっと食べる。それはそれは幸せそうな表情に。


「このプリンすごく美味しいよう~。自家製なんてすごいね!」


 すごい、これほど美味しそうに食べてくれる人は、なかなかいないんじゃないか?

 最大の賛辞を表情で示してくれるのは、作った身としては嬉しすぎる。


 誰かのために料理を作ることは今までもあったけど、眼の前で美味しそうに食べてくれるのは本当に嬉しいな。


 ――誰かのために作ったものを、自分で廃棄するほど虚しいものはないけど。


「あれ、藤崎くん、私なんか変なこと言っちゃった?」


 雪代さんが俺の表情を見て、そんなことを言う。しまった、以前の嫌な記憶に囚われてしまったようだ。


「ごめん! なんでもないんだ。小骨が喉に引っかかった。」


「小骨って……、カレーの豚肉の骨?」


 雪代さんがそう言ってケラケラ笑う。笑顔が可愛すぎて一緒にいるのが本当に幸せ。


 食後のコーヒーを二人で飲む。プリンの甘さにはぴったりだ。ただ、さっきお店で飲んだコーヒーに比べると、やっぱり敵わないな。


「このコーヒーも美味しいよ。誰かが入れてくれるのは、やっぱり美味しいね」


 雪代さんがそんな事をいってくれる。確かにそういうものかもしれないな。


「そう言ってくれると嬉しいよ。ありがとうね」



 しばらく談笑した後に、雪代さんが少しため息をもらしつつ、

「なんか学校行くの、もうやだな……」などと口走る。


「――告白なんて本気ならさ、本当はなかなか出来ないし、された方も普通なら嬉しい気もするんだけどね。雪代さんの場合は確かに度を超えてるのかもね」


 俺がそう言うと、少し悲しそうな表情になる雪代さん。


「本当に私のことをよく知って、好きになってくれて告白してくれるなら、そりゃ真剣に受け止めて考えるよ。でも、あの人達は違う」


 雪代さんは見た目の美しさもさることながら、成績もトップクラスだ。才色兼備な彼女と付き合えるのはきっとステータスなんだろうな。


「学校に行きたくなくなるほどなんて、相当深刻だよね……」


「もうやだ……」


 ああ、楽しい気分だったのが思い出して落ち込んじゃった。テーブルに突っ伏した雪代さんの頭を思わず撫でてしまう。


 こっちを少し覗き見て、くすっと微笑む雪代さん。


「藤崎くん、――私のこと羽依って呼んでもらっても良い?」


「うん、じゃあ俺のことも名前で呼んでね」


 そう言って、俺が撫でていた手をそっと握り返し、羽依は指を絡めてきた。

 その瞬間、心臓がドクンと跳ねた。


「蒼真。蒼真なら触っても大丈夫なんだよね。嫌な感じが全然しない」


「俺は羽依に手を握られてめっちゃ動揺してるけどね!」


 俺が顔を真っ赤にしてそう言うと、羽依はニマ―っと笑う。ちょっと悪そうな顔だ。


「んふ、男の人の照れって何か可愛いよね。男の人がみんな蒼真みたいだったら良かったのにね~」


「羽依には一度聞きたかったんだけどね、何で俺とは普通に話せるの? 最初は男として見られてないのかと思ったけど」


 冗談ぽく言う俺の言葉に羽依は少し考えてる様子。


「なんでだろ? 理由は無くはないんだけどね。ただ、う~ん……直感? 蒼真は優しいし気遣ってくれるし、見た目も好きだし」


 なんか大絶賛してくれる。見た目が好きってなに? 別に俺はイケメンでもないし、中学の時モテたこともない。美醜については感性は人それぞれだからね。ただ、こんなに可愛い子にそう言われて、悪い気がするはずがない。


 きっと今の俺の顔は、この上ないぐらい真っ赤になってると思う。

 だって羽依はものすごく悪戯な顔してるし。

 からかわれてる?

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ