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告られ彼女の守り方 ~偽装から始まる、距離感ゼロの恋物語~  作者: 鶴時舞
3章 恋人として。

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第39話 知らぬが仏

 月曜日。今週を乗り切れば夏休みだ!


 今のところ夏休みの予定は昼夜のバイトと貸別荘ぐらいだ。他は羽依と勉強になるんだろうな。そんなに勉強ばかりしてどうするという気もする。進路もまだ絞れていないのに。


 ただ、今は羽依と勉強するのがとにかく楽しい。勉強のモチベーションを維持できてる今はやれるだけやっておこうと思う。


 夏の暑さが強くなる前の通学中。それでも近年の暑さは早朝からじわじわと体力を削ってくる。快適とは言い難い道のりだ。


 ちょっとだけ元気がなさそうな羽依が気がかりだった。


「羽依、昨日真桜と買い物だったんだよね? 何かあったの?」


「――蒼真、昨日、真桜に蒼真のご両親のこと話しちゃった。勝手なことして……ごめん」


 羽依がバツ悪そうに俯く。そんな彼女の頭をそっと撫でる。


「良いよ。真桜だって俺の大切な親友だし、知られても真桜なら悪いようにはしないだろうしね」


「うん、真桜は同じ中学で、蒼真の噂とか誤解とか色々あったみたいだからさ、本当のこと知ってもらいたいなって。でね、その話したらすごい泣いちゃって」


「えっ、泣いた? ああ、まあ同情される話なのかな……」


「蒼真が知らない真桜の事情とかもあるのかもね。生徒会長だったから色んな想いもあるのかなって」


 それにしたって真桜がそんなに泣くとは意外だ。稽古の時はあんなに俺を責めて喜んでいるのに。あれだ、鬼の目にも涙みたいな?


「それで買い物の方は楽しめたの?」


「うん、すっごい楽しかったんだよ! そうそう、真桜すごかったんだよ! ナンパしてきた人が居てね、真桜に乱暴しようと手を伸ばしたところを身を翻して、足をスコーン!って蹴っ飛ばしてね! 大きい男の人がグルン! って回って顔面から地面に激突したの! 真っ赤な血がびゅー!って」


「うわー……」


 やっぱり真桜は危険なんだな……。逆らわないでおこう。



「おはよう、羽依、蒼真。……どうしたの? 私の顔を見るなり羽依に隠れて。なんのつもりかしら」


「いえ……。おはようございます真桜さん」


「まったく……、羽依に何か言われたのね。ほんとにもう」


 ため息をつきながら俺の方を向く真桜、やたらと優しげな目で見つめてくる。なんだろう。獲物をなぶる前の慈悲のような。怖い。


「蒼真は真桜のかっこよさに気づいたんだよ」


 ドヤ顔で見当違いなこと言ってる羽依が微笑ましかった。


 テストは終わったが、朝の勉強は続いている。3人で勉強したり談笑したりするこの時間がとても好きだ。


「蒼真は個別面談今日だよね? やっぱり一人で面談するの?」


「うん、親には言ってないからね。先生も事情は分かってるから」


 悲しげな表情を浮かべる羽依。そんなに気にしなくてもいいのに。


「そっか。うちも今日だからさ、お母さんに出てもらう?」


美咲さんが俺の個別面談に? さすがにそれは悪い気がする。でも、居てくれたら確かに心強いかも。


「案外それありかもね。うちの親よりも俺の親っぽいよね」


「それにね、担任の佐々木先生、お母さんの中学の同級生なんだよ!」


「まじで? どんな話するんだろうね? 興味あるなあ」


「だよね! お母さんの昔話聞けたりして。……やっぱ良いや。なんか怖い」


 羽依が微妙な顔をする。まあ俺もその意見には同意だ……。


「真桜も個別面談ってやるの? 」


「そりゃそうよ、理事長は面談には関係ないわよ」


 何を馬鹿なことをと、呆れつつも楽しそうに答える真桜。


「だよね~。お母さんが来るの?」


「ええ、私は進路もある程度は決まっているから、そんなにかからないわね」


 さすが真桜、将来のビジョンもしっかり出来上がっているらしい。


「ちなみに真桜の進路は聞いても良い?」


「東大法学部よ。その先は警察庁かしらね」


 さらっととんでもない難易度の進路を言ってくる。さすがは真桜。


「いや~なんていうか。すごすぎる」


「そう? あなた達も今の学力なら好きな進路選び放題でしょう。私が今言ったのはお祖父様の希望よ。高校生活でもっと違うことやりたくなったら変えるかもしれないわね。パティシエとか楽しそうだし」


 くすくすと微笑む真桜。冗談ぽく言っているが、なんとなく感じるのは抑圧から開放された雰囲気。きっと色々あったんだろうな。


「真桜ならパティシエでもきっと成功するだろうね。一昨日だしてもらったクレームブリュレもすごく美味しかったし」


 稽古の後に出してもらったスイーツだ。疲れた体に甘いものが染み渡った。あれは本当に絶品だった。


「えー! なにそれ聞いてない! 真桜! 私にも食べさせて~」


「はいはい、今度蒼真の稽古を見学しにきてね。その時にでも出すわよ」


 羽依は真桜の手を取って「絶対だよ!」と詰め寄ってる。

 二人の仲も、また更に近づいた感じがする。あれ? 真桜に羽依を取られちゃう? いや、百合はノーカンだよね。きっと。


「おはよう諸君!」


 隼がやってきた。真っ黒に日焼けしたガタイの良いやつが来ただけで、丸テーブルが一気に狭く感じた。俺の隣にどかっと腰掛ける。


「お疲れさん。 朝練は終わったの? ちょっと早いな」


「ああ、旅行の説明しておこうと思ってな。早めに切り上げさせてもらったんだよ」


 早速隼がパンフレットを広げる。


「雪代さんに結城さん。招待受けてくれてありがとう。二人みたいな美人と旅行に行けるのはとても嬉しいよ。ついでに蒼真も」


 いつもはもっと下品な隼だが、羽依を気遣ってか、紳士な振る舞いだ。気の利く奴だな。ん? 俺はオマケ?


「高峰くん、なんだか悪いわね。お姉さんにもよろしく伝えておいてね」

「ありがとうね、高峰くん。お姉様とがんばってね!」


「え? なにを? あ、まあ……うん。ありがとう?」


 ちょっと羽依のテンションがアレだけど、男嫌いが発動するよりは良いのかな。隼が軽く引いちゃってるし。


「じゃあ施設の説明だけど、ここは結構豪華だよ。個人で使うにはかなり広めなプールに広いリビング。中庭でBBQも出来る。さらに露天風呂付きだ」


「なんか想像してたのと違う。これ本当にハリウッドスターの別荘だ……」


 パンフレットを見るだけでも、非日常感あふれる作りだ。


「おう、みんな良い反応だ。高級すぎて引いてるかもしれないけどさ、うちの姉さん起業してそこそこ儲かってるらしいんだ。女子なら知ってるかもな。『FALLOVA』って服飾ブランド」


「知ってるし、持ってる! そっか、FALLOVAの高峰燕さんって高峰くんのお姉さんだったんだ! すごい!」


「私も持ってるわ。可愛いポーチ。なかなか手に入らないのよね」


「さすが流行に敏感だな、まあそんなわけで予算については気にしないでくれ。部屋持て余すなら有効利用したいだろ? それに俺も友達とワイワイやりたいしな」


「隼こそ他の友だち呼ばないのか? 」


「誰でも良いってわけじゃないんだよ。姉さんも『カップルか女の子ならOK』ってな。リサーチも兼ねてるんだよ。それに部活の仲間とか声かけたら、呼ばれた呼ばれてないとか面倒だろ?」


「ああ、それはわかる。体育会系も色々面倒だな」


「そういうことだ。降って湧いた幸運とおもって享受してくれ」


 キーンコーンカーンコーン


 結局、朝の勉強時間は雑談タイムで終わった。テスト後だから良いよね。



 昼休み。期末テストの結果が張り出された。


 1位 結城真桜

 2位 雪代羽依


 5位 高峰隼


 26位 藤崎蒼真


 おお、順位が上がってる。達成感がやばすぎる。成績上位って、こういう気持ちなのか。もっと上を目指したくなるな……。


「やったね蒼真! 毎日勉強してるもんね。……ご褒美、期待しててね」


 羽依が顔を真っ赤にして俺の制服の裾を掴んでる。


 よし!エッチな手料理ゲットだぜ!


 ――羽依は何するつもりなんだろう。楽しみなような、怖いような……。




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