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告られ彼女の守り方 ~偽装から始まる、距離感ゼロの恋物語~  作者: 鶴時舞
3章 恋人として。

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第37話 思い出 真桜視点前編

「結城さん、また藤崎くんが暴れたらしいですよ」


 またか――。問題児としていつも名前の挙がる藤崎蒼真。両親から見放され、今は一人で暮らしてるという噂を耳にしている。


 他校との揉め事がある度に名前が上がってくる。まあ私とは縁が無い人だとは思うけど。


 私、結城真桜はこの学校の生徒会長。素行の悪い生徒には、必要なら直接指導してもいい――それくらいの責任感はある。


 しかし、彼が実際に喧嘩してるところを見たわけではない。どんな子なのか、興味はあった。


 生徒会の子が眉をひそめて言ってくる。


「藤崎くん、こともあろうに神凪学院目指してるらしいですよ。今も図書室で勉強してるんですって。絶対無理! 入れるはずないですよ! 自分の事まるで分かってないって評判ですよ」


「そう、でも頑張ってるんなら良いんじゃないかしら。他所で暴れてるよりもよっぽど建設的だわ」


「真桜様……こほん。結城さんと同じ学校を選んでる時点でおこがましいんですよ、あのミジンコ!」


 何やら酷い嫌われようだわ。生徒会室と図書館はすぐ隣。気になって図書室を覗いてみると、彼らしき人物が居た。


 華奢な体に長い前髪。顔立ちは整っているようにも見える。とても喧嘩をするようには見えないわね。本当に伝説の不良なのかしら?


 それからというもの、彼の様子を窓越しに見るのが、いつの間にか私の日課になっていた。

 図書室が閉まるギリギリまで、毎日ひたすら勉強を続けている。

 家ではなく、あえて図書室で勉強しているせいか、周囲からは偏見の目を向けられているようだった。


 私もそこまで気にしなくてもいいのに――そう思いながらも、いつの間にか毎日のように図書室の窓越しに彼を見つめていた。


 彼の勉強する姿には、どこか鬼気迫るものがあった。

 静かな空間の中でひとり、鉛筆を走らせる音すら緊張感を孕んでいて、まるで何かに追い詰められているかのように見えた。


 歯を食いしばる顎のライン。何度もページをめくる指先。

 そのすべてに必死さが滲んでいた。


 見ているだけなのに、胸がぎゅっと締め付けられる。

 あの場所にいるはずなのに、彼はいつもひとりで、どこか遠くにいる気がした。


 ――試験が迫る1ヶ月前ぐらい。話によれば判定はまだ合格圏には届いてないらしい。そっと彼を覗く私の存在には未だ気づいていない。時々涙を流しながら勉強している。一体彼に何があったのだろうか。


 あんなに辛い思いして毎日勉強して、報われなくて。私が一言「勉強みてあげようか」と言えたら、私自身もどんなに楽になれるか。


 でもそんな事は言えない。私は生徒会長。誰かを贔屓するなんて出来ない。受験で苦しんでいるすべての生徒を救うことなんて出来るわけがない。


 試験当日。私は会場で勇気を振り絞って彼に「お互い頑張りましょう」と伝えた。彼はきょとんとしていた。ほんとに私のこと知らないのね。……ちょっとだけ屈辱だわ。


 合格発表の日。私は自分のコネを初めて私用で使った。藤崎蒼真の合否が知りたかった。結果は合格だった。よかった。彼は成し遂げたんだ。私は溢れる涙を押さえられなかった。


 恋愛感情とかではないと思う。ただ、寄り添って応援したくても出来なかった私の後悔。

 高校に入ったら真っ先に彼と友だちになろう。中学では出来なかった彼との思い出づくりを始めよう。


 ……。



 ――チュン、チュン


 中学の時の夢……。か。昨日蒼真と一緒に居たから、夢に出たのかしらね。


 今では蒼真と親友に。そして彼の恋人とも大親友に。私の目的は果たすことが出来た。今、まさに青春を謳歌していると思う。


 ああ、貸別荘にみんなで旅行。中学の時では考えられなかったわ。大人に近づいた自分を感じて少し嬉しく思う。


 今日は羽依とショッピング。思いっきり楽しもう。

 羽依の提案で、今日は男装のような格好をしてみた。黒いキャップに白のリネンライクオーバーサイズシャツ、チャコールグレーのワイドチノパンツ、黒のグルカサンダル 。

 

 なかなかの中性っぽさだと思う。胸はちょっときつめのスポーツブラで抑えてある。姿見を見ても、男の子に見えなくもないわね。

 カップルで歩けばナンパも防げるかしらね。


 渋谷駅で羽依と待ち合わせをする。待ち合わせの時間よりも30分ほど早かったけど、羽依が私を見つけて走ってきた。


「真桜! 早かったね。その服すっごい格好良いね!」


 息を切らしながら微笑む羽依。今日の服もとびきり可愛い。白いフレンチスリーブブラウスに、ライトブルーのミモレ丈プリーツスカート。足元は白のストラップサンダル。

 キュートな中にも清楚さがあって、羽依の魅力を存分に引き出しているわ。センス、すごくいい……。

 私の服も、見立ててもらおうかしら。


「ありがとう。羽依もとっても可愛いわよ。ちょっと悪い気分になっちゃいそう。蒼真に怒られるわね」


「んふ、イケメンと浮気デートだね! 思いっきり楽しんじゃおう!」


 そういって私に腕を組んでくる。なんて可愛いのかしら、こんなのドキドキしてしまうじゃない。


「真桜、なんか顔赤くない?」


 ニマニマしてる羽依。蒼真はいつもこの顔に耐えてるのね。やるわね……。押し倒してしまいたくなるじゃないの……。


「馬鹿言ってないで行きましょう。こんな繁華街、滅多にこないから緊張してしまうわ。エスコートよろしくね」


「了解! じゃあ早速デパート行こう!」


 有名デパートの水着売り場に来た。華やかな水着がいっぱいあってどれが良いか迷ってしまう。男友達が一緒なのだから、あまり露出が多いのは控えるべきかしらね。


「真桜、これなんて似合いそうだよ~」


 見ると、これは……水着? 紐じゃないの? これを私に着ろと?


「私が本当にこれを着て蒼真の前に立ったらどう思う?」


「すごく……興奮する」


 ああ、むしろ喜ばせてしまったわ。


 可愛い花がらのビキニや、シンプルな落ち着いたカラーのセパレート。悩ましいわね……。露出の多いビキニもパレオを巻けば大人しめのイメージになるかしら。


 早速、羽依は何着か選んで試着室に入っていった。


「真桜! みてみて!」


 さっきの紐みたいな水着を着た羽依。他所の客に見せられないわね……。ちょこっといたずらで胸の紐をずらしてみたら、あっという間に、ふわっと飛び出してしまった。


「いやーん! 真桜のえっち!」


「羽依、これ防御力0よ。却下ね」


 自分のいたずらで自分がドキドキしてたら世話ないわね……。

 さっきから羽依のあざとさにやられっぱなしだわ。


 自分が男装しているせいか、余計に意識してしまうわ。

 私、素質あるのかもしれないわね……。







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