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告られ彼女の守り方 ~偽装から始まる、距離感ゼロの恋物語~  作者: 鶴時舞
3章 恋人として。

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第36話 寝相の悪さ

 金曜の夜、キッチン雪代が閉店し、みんなで片付けを開始する。今週も、お客さんは盛大に飲んで帰った。

 後片付けはボリュームが結構あるけど、3人でまったり片付ける時間が好きだ。テーブルやキッチンが綺麗になっていくことに喜びを感じる。飲食店って何か良いな。俺に向いてる気がする。


 スマホを確認すると、隼から返信が来ていた。真桜も来ると伝えたところ、了解とのことだった。ただ、一つ条件を出されてしまった。部屋割りについてだ。


「高峰くんとお姉さんが同室?」


「お姉さんがそこだけは譲れないらしいんだ。あの姉弟は距離感がバグってるみたい」


 羽依が興味津々な眼差しで話に食いつく。


「それってあれかな! 禁断の愛的な? なんか良いね! 私兄弟いないからさ、お兄ちゃんとか弟いたらって思うんだよね!それでね――」


「ああ、そうなんだ……」


 ちょっと羽依の様子がおかしなことに。妄想を語りだして、少し早口になってる。『でゅふ』とか言ってる人、初めてみた。


 長くなりそうなので話を強引に戻す。


「……そうなるとゲストルームが2室だからさ、俺と羽依と真桜になっちゃうんだ。それでも良いかな?」

 

「んふ、蒼真両手に花だね! 私は全然問題ないし、むしろ有り!」


 真桜と一緒に泊まれるのがよっぽど嬉しいんだな。俺も、羽依と二人きりというのも魅力的だけど、せっかくみんなで旅行するんだし。友達と楽しむことに専念しよう。


「真桜の意見もあるだろうからね、あとで連絡入れておいてね」


「了解! あ~夏休みがこんなに楽しみになるなんて!」


 美咲さんが俺達を見て、優しく微笑んでる。


「いっぱい楽しんできな。今しか出来ない事ってのはいっぱいあるよ」


 そう言って美咲さんは満面の笑みで俺と羽依の肩を抱くようにぐっと寄ってきた。お酒の匂いと美咲さんの甘い香りが混じり合い、ふわっとした気持ちになる。

 

 美咲さんは高校生のときに羽依を生んだから、色々思うところあるんだろうな。優しさの中にある深さ、想い。そういう部分に触れると温かい気持ちと一緒に、ぎゅっとなるような切なさも感じる。


「片付け終了だね。さあ風呂入って寝よう」と美咲さんの言葉で解散となった。



 みんな風呂から出て、各自、自分の部屋で夜を過ごす。スマホを眺めていたらノックがした。


「蒼真、起きてる?」


「どうぞ~」


 羽依が入ってきた。


 以前、俺の寝相の悪さに酷い目にあったらしい羽依は、一人で寝るほうがゆっくり眠れると、自分の部屋で寝ていた。俺が何をしたか聞いても教えてくれない。ちょっと自分が怖かった。


「思ったんだよね。蒼真の寝相の悪さが真桜に迷惑かけたらって」


 ちょっと真剣な表情で羽依が言ってくる。それは確かに一大事だ。


「でも、ベッドって、別々なんじゃないのかな? ツインだったら俺が一人で寝て羽依と真桜が一緒に寝たら良いかもね」


「ツインならそれでも良いけど、ダブルベッドでみんなで寝るとしたらってね。」


「それならソファーかどこかで寝るよ。真桜には迷惑かけられないからね」


「なんかひっかかる言い方だね。私なら迷惑かけてもいいの?」


 憮然とした表情の羽依。なんとなく突っかかってくる言い方……。ああ、少しわかった気がする。寂しかったのかな。


「――羽依、こっちおいで」


 俺はベッドに手招きする。羽依は黙ってベッドに入ってきた。俺に寄り添って胸に額を擦り付ける。


「蒼真、私の部屋に来てくれるかなって思ってたんだけどね。来てくれないんだもん」


 甘えるような、でも責めるような口調で、俺を恨めしそうに見上げてくる。

 ゆっくり眠らせてあげたい気持ちが裏目に出たかな。


「女の子の部屋には入れないよ。羽依だって疲れてるんだし、ゆっくり眠らせてあげたいよ」


「それでも! 来てくれなきゃ嫌……」


 理不尽で、でもたまらなく可愛いその我儘に、俺は羽依の頬を両手で包み、その唇をそっと塞いだ。


 すぐに羽依が、俺の口を割って深く入り込んでくる。

 唇がふれるだけじゃ足りなくて、呼吸を分け合うようなキスへと、どんどん熱がこもっていく。


 目を細め、とろんとした視線を向けながら、羽依が小さくささやく。

「もっと強くぎゅってして……」


 もう十分強く抱きしめてるはずなのに、まだ足りないと羽依が求めてくる。

 このままじゃ壊れてしまうかもしれない――

 それでも、壊れないように、壊さないように、でもそれ以上に、もっと近づけるように――。


 俺はそっと、全身で包み込んだ。

 どこまでいっても一つになれないからこそ、今この瞬間を、強く、深く、重ねるように。


 ……。



「真桜に迷惑かけたら謝るよ。きっと許してくれる気がする」


「程度によるかな……この前のは……その……すごかったから」


 何かを思い出して頬を染める羽依。


「聞いても良い?俺が何したのか。俺にやってみること出来る?」


 羽依は黙って頷いた。


 そして……。


「ああああ! 羽依、やめて、まじで無理、やめてええ!」


 俺の悲鳴は、押さえていたつもりでもこぼれてしまい、部屋に響き渡った。

 羽依は興奮しながら俺の寝相を再現していた。

 俺の悲鳴なんて、完全スルーだった。


 俺の寝相……酷すぎた……。



 さんざん責め倒して満足した羽依は、「おやすみ子猫ちゃん」なんて格好いい台詞を吐いて部屋に戻っていった。


 果たして、これを真桜にやって許してくれるか。

 まあ真桜ならきっと良い感じに対処してくれるだろう……。

 思考力が限界を迎えた。もう無理……。

 

 

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