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告られ彼女の守り方 ~偽装から始まる、距離感ゼロの恋物語~  作者: 鶴時舞
3章 恋人として。

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第33話 ミニチャイナ服

 日曜日。

 今日は中間テストの結果、見事に30位以内を達成した俺への、待ちに待ったご褒美の日だ。


 もっとも羽依は2位なので、俺からも何かしてあげるつもりだった。あれこれ悩んだ挙げ句、スイーツを作ることにした。羽依の大好きなプリンをさらに豪華に”スペシャルプリンパフェ”を仕込んでおいた。

 羽依が到着したら仕上げよう。


 お昼は羽依の希望で、カルボナーラを用意することにした。きっと喜んでくれることだろう。美味しそうに食べる羽依の姿が目に浮かんでくる。


 昼前ぐらいに羽依がやってきた。初夏の陽気に汗ばんだ顔が愛らしい。薄手のブラウスに、七分丈の白いパンツと、可愛らしくも色気のある着こなしだ。手にはトートバッグを抱えてる。この中に、ミニチャイナ服が……。


「蒼真! おまたせ~。……待ちわびた?」


「いらっしゃい羽依。うん。この日が待ち遠しかった」


 羽依は恥ずかしそうに照れている。俯き加減に覗き見る視線が、何とも言えずくすぐったい。


「汗かいちゃったからさ、ご飯食べてからシャワー浴びて良い? それから着替えるね」


 俺は頷くしかできない。なんだこの緊張感。こんな可愛い彼女がミニチャイナ服を俺だけのために着てくれると。生きるってこんなに素晴らしかったんだ。お父さん、お母さん。あなた達は今幸せですか? 俺はとても幸せです。今ならすべてを許せます。


「蒼真、何ブツブツ言ってるの? 本気でキモいよ?」


 すごい。羽依が彼氏に向けてはいけない表情と、言ってはいけない言葉を躊躇なく投げてくる。そんな彼女がとても好き。


「いや、生きるって素晴らしいなって話。じゃあお昼作るね」


 怪訝な目線をずっと送ってくる羽依も、カルボナーラのクリーミーな香りに目元を緩ませる。


「食欲そそるね~この香り。付け合せは何か作るの?」


「パプリカとセロリのスティックサラダとトマトかな」


 羽依が得意満面に「私にまかせて!」と、包丁で野菜をスティック上に切り分けていく。なんだこの成長の早さは。


「お店で出してるディップも作るね。キッチン雪代秘伝の味だよ」


「おお! あの美味しいやつ! 羽依は作れるんだね。お店の味が家で楽しめるなんて贅沢だね」


 パスタが茹で上がり、カルボナーラのソースに絡めていく。ベーコンの焼ける香りとソースの香りに食欲が刺激される。ああ、腹減った。

 テーブルの上にカルボナーラとスティックサラダ。冷やしトマトを並べる。彩りがとても鮮やかになった。


「美味しそうだね~。いただきまーす!」


 羽依が一口食べる。何度も見た美味しいの顔。その顔を見る度に俺は幸せになれる。


「美味しいね~! 蒼真のカルボナーラすごく好き」


「ありがとう、キッチン雪代のディップもやっぱり美味しい。お店の味だね」


 二人笑顔に包まれる。一緒に食事するだけでこんなに幸せな気持ちになれるんだから恋人同士ってすごいと思う。


「羽依、デザート入る? またプリンなんだけど」


「もちろん! 蒼真のプリン大好き」


 プリンと聞いて顔が蕩ける彼女ちゃん。このぐらいで喜ぶなら毎日でも作る。


 冷蔵庫に仕込んでおいたプリンを、この日のために買ったパフェの器に盛る。アイスとホイップクリームにスポンジケーキ、スティックチョコにスプレーチョコをかけてスペシャルプリンパフェの完成だ。


「羽依、中間テスト2位おめでとう。スペシャルプリンパフェだよ」


 羽依は瞳をキラキラ輝かせてパフェを見つめる。スマホを取りだし写真撮影する。


「なんか食べるのもったいないね。蒼真ありがとう! サプライズだよね。嬉しいなあ~」


 ニマニマしながらパフェを見つめるけど、アイスが溶けちゃう。俺はスプーンでアイスをすくい、そっと羽依の口元に運んだ。


「おいしいよう~。そうだ! 蒼真、後ろからぎゅってしながら食べさせて」


 可愛い我儘だ。このぐらいいくらでも聞いてあげよう。


「こうして、後ろからぎゅっとして……あれ、なんか難しいな。はい、あーん」


 あーんしたところに入らずに鼻に入れそうになった。


「あはは、蒼真下手だね~。……鼻に入れたら怒るからね……ふが」


 ……鼻に入れちゃった。ちょっと怒られた。


「絶対わざとだよね? 蒼真不器用すぎ! こんなにパフェ作るの上手なのに~」


 ぷりぷりしている羽依を強くぎゅっと抱きしめキスをする。


「……またそういう技を使う。蒼真、交代しよう。私が後ろから食べさせるね」


 そういって場所を交代する。背中に伝わる柔らかい感触を楽しみたいが、緊張が先走る。絶対やらかすつもりだ。


「うわ、なんか怖いな。羽依? そこ口じゃない、口じゃないってば!」


 思いっきり仕返しされた。


 二人とも顔がべたべたになった。なにやってんだか……。


 なんとかパフェを食べ終えた。まさかこんなに手間がかかるとは。


「ベタベタになっちゃったね。じゃあおまたせ。今からシャワー浴びてチャイナ服に着替えてくるね。時間かかるからゆっくりしててね」


 顔を真っ赤なバラのように染めて、羽依はシャワーを浴びに行った。


 ああ、緊張するなあ。前回はロングのチャイナ服だった。あれもとても可愛かった。スリットから見える生足がとてもセクシーで、正直言えば、お店のお客さんにも見せたくなかった。俺は独占欲が結構強いのかもしれない。


 今日着てくれるのはミニのチャイナ服。羽依の綺麗な白磁のような生足が堪能できるのはとても素晴らしい。触れても良いのかな。彼女だから、ちょっとぐらい触れても良いんだよね……。ああ、待ち遠しい。下着なしなんてされたら気を失いかねない。下着ありにしておいて正解だった。


 待つこと数十分。体感的には何時間にも感じた。

 風呂場のドアがカチャリとゆっくり開く。


「おまたせ~。やっぱり恥ずかしいね」


 その瞬間、心臓を鷲掴みされたような感覚に落ちた。淡い桜のようなピンク色のミニのチャイナ服だ。髪は以前のように2つのお団子でまとめてあった。胸元には深く切れ込みが入り、タイトな布に押し込まれた柔らかな谷間が、今にも溢れそうに震えていた。 そして裾は、文字通りの“ミニ”。すらりと伸びた白磁の脚が、やけに眩しくて、息を呑むしかなかった。


 それにしても膝上が相当あるな。美咲さんこんなのいつ着てたんだろうか? 余興でも人前では着づらい長さだ。


「羽依、その、すごく可愛いよ。とっても似合ってる」


 羽依はニコッと笑う。その表情は恥ずかしさと妖しさを兼ね揃えた小悪魔の容貌だった。手に持ってる紙袋をテーブルの上に置く。


「蒼真、この紙袋には私が抜いだ下着が入れてある可能性があるんだよ」


「何その言い回し。入ってない可能性もあるの?」


「うん、シュレディンガーの羽依ちゃんだよ。付けてるかどうかは、蒼真がこの袋を開けて観測するまで“未確定”なの。今は“付けてる状態”と“付けてない状態”が、重なり合ってるんだよ」


 よくわからないことを言ってる羽依。量子論の話だっけ。


「いや、でも羽依は現実に体感してるわけで……自分で知ってるなら確定してるんじゃ?」


「観測者が決めるんだよ。私じゃなくて、蒼真がね……。どっちだと思う? 」


「……入ってる」


 羽依がそっと紙袋を渡してきた。確実になにか入っている重さだ。


「……中、見ても良い?」


 顔をこれでもかというほど真っ赤にして頷いてきた。


 中を開けるとふわっと羽依の香りがしてきた。中には白い下着の上下が入っている。

 一瞬気を失いかける。


「……羽依、それ、本当に下……履いてないの?」


「――蒼真が喜ぶかなって。こっちきて! 耳かきしてあげる」


 羞恥で目が泳いでいる羽依。半ば自棄になって、正座をして膝をぽんぽん叩いてる。裾は、おしりがギリギリ隠れる長さだった。


「じゃあ、失礼します……」


 そっと膝枕に身を預ける。柔らかな肌がふれて、思わず息を呑んだ。これは……この世で一番贅沢な枕だ。風呂上がりの羽依の甘い香りがたまらなく鼻腔をくすぐる。


「くすぐったいからあまり触らないでね……。人の耳って緊張するね、えい」


 綿棒を耳にぶすっと刺す羽依。


「ちょおおおお、雑すぎる! 『えい』はだめ! 優しくして!」


「冗談だよ~。じゃあ動かないでね。こしょこしょ」


 おお、これは気持ちいい……。駄目になってしまう……。


「どうかな~。じゃあ反対向いてね」


 反対を向く。羽依の柔らかそうなお腹が目の前にある。ああ、触りたい衝動にかられる。でも今触ったら怒られそうだ。

 すこし視線を下にずらすと……、実に危険な深淵があった。


 羽依がテーブルから綿棒を取ろうと前かがみになると「むにゅ」っとした感触が側頭部にダイレクトに伝わってくる。ああ、天国はここにあった……。


「こしょこしょ……はい、おしまい。どう? 気持ちよかった?」


「うん。羽依は天使なのかな? 今お迎えきたら、安らかに逝けそうだよ」


 羽依はくすくすと、可愛らしい中にも十分に色気のある笑顔を見せる。


「まだ死んじゃだめだよ。私たち、これからもっと一杯楽しむんだからね!」


 俺を起こし、抱きしめる羽依。服一枚から伝わる柔らかさが、熱が、脳をショートさせる。

 俺は背中からその下まで、柔らかさを確かめるように、焦らすように触れていく。


 羽依が切なそうに「蒼真……」とささやいてくる。

 愛おしさで俺の世界が満ちていく……。


 ……。



「どうだった?ミニチャイナ服」


 羽依が悪戯な笑顔で聞いてくる。


「最高だった。また着てほしいな」


「うん、そのうちね。じゃあ次は蒼真の番ね」


「うん? 俺の番って?」


「下着を脱いで服を脱いで撮影会だよ。はよ」


「ええええ!?」


「はよ」


 とんでもなく真面目な顔で言い切る羽依。


 ――交渉の末、どうにか上半身だけで許してくれた。


 写真撮影されて真桜と共有までするとは。


 有言実行だった。怖すぎだろう俺の彼女ちゃん……。






 



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