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第3話 共同作業

「うん、うん、そうなの。それは大丈夫。お母さんも会ったら驚くと思う。じゃあまたね」


 雪代さんがお母さんに連絡を入れている。友達の家に外泊するのにお母さん心配だよね。ましてや、同級生の男子の家にとか。


「お母さんに言っておいたよ。帰ってきたら晩ごはん招待したいって」


「え、それはとてもありがたいけど、大丈夫なの? 同級生の男の子の家に外泊とかって」


 雪代さんがお母さんに嘘偽り無く説明してたのには、正直びっくりした。


「うちのお母さんは私のこと信用してくれてるからね。藤崎くんの話はお母さんによく話してたし」


 言ってから、ハッとして頬を赤らめ視線を外す雪代さん。


「その、ほら、私って男の人苦手だけど、話せる男の子がいるって話をね」


「あ、ああ。じゃあお母さんの信頼に応えないとね!」


 元から手を出すつもりなんて全く無いけど、新たなプレッシャーがかかった気がした。


「じゃあ支度してくるから待っててね!」


 雪代さんは慌てて二階の方へ、パタパタと走っていった。


 手持ち無沙汰となり、お店をキョロキョロしてしまう。居心地の良い店だけど、さすがに一人となると所在がない。


 少しした後、雪代さんが戻ってきた。制服から着替えたその格好に、俺の心臓が跳ねた。


 めっちゃ可愛くなってる……。

 白いリブニットに白ローファー、ベージュのフレアスカートを着た雪代さん。まるでデートのような格好だ。ニットの袖を少し引っ張って恥ずかしそうに隠す。


「なんか私服見せるのって、ちょっと恥ずかしいね」


 顔を赤らめた雪代さんがさらに可愛い。抜群のスタイルに生足の破壊力。真っ白なデコルテ、ふわっとしたニットを盛り上げる双丘に、俺の心臓がもたない……こんな子とお泊りなのか。


「めっちゃ可愛いね。びっくりしたよ。」


「ありがとう」と短く言って顔をさらに真っ赤にして視線をずらす雪代さん。感想が直球過ぎたかな? 語彙のなさに我ながら呆れてしまう。


「男の子と出かけることなんてないからさ、どんな格好していいか解らなくて。変じゃないよね?」


「全然変じゃないよ、ただちょっとドキッとしちゃった」


 雪代さんは俺の言葉に、顔をニンマリさせた。

 きっと俺の顔も真っ赤になってるはず。顔から火が出そうなほど熱くなっている。


「じゃあいこっか!」


 雪代さんは、ちょっとした冒険と感じているのだろうか。ワクワクしているのが伝わってくる。


 お店に鍵をかけて出発する頃、あたりが夕闇に染まり始めた。


 雪代さんの家から俺の住んでいるアパートまでは、数百メートルと、かなり近かった。徒歩5分ぐらいで、うちのほうが学校よりだった。ただ、裏通りになるので、夜に女の子が一人で歩くにはちょっと怖い感じもする。都内でも街灯の無い場所は、結構暗いのだ。


「ここが藤崎くんの住んでるアパートなんだ! 綺麗だね~。新築?」


「まだ築5年ぐらいだったかな? 家賃もこのあたりにしては安かったんだ」


 まあ、安い理由は事故物件だったからなんだけど、怖がらせてはいけないので内緒にしておこう……。


 八畳一間に風呂トイレ収納付き。キッチンがワンルームのわりに結構広めに作ってある。大抵はIHだけど、ここはガス火。料理が趣味な俺としては、このアパートは一目惚れだった。


 これで家賃がなんと4万円。事故物件になってしまったオーナーが気の毒になるような素晴らしい部屋だ。一応入居前に、お祓いもしてもらっておいた。


 玄関のドアを開け中に入る。


「どうぞ~」


「え? すぐ入って大丈夫? その、片付けとか」


「ヤバいものとか置いてないから安心して」


 デジタル化バンザイ。部屋は必要最低限なものしか置いてない。漫画やフィギアとかはすべて実家に置いてある。


「おじゃまします~。わー! 綺麗に片付いてるね! 男の子の部屋っぽくてかっこいいね!」


 雪代さんに座布団を提供し、座ってもらう。今度は雪代さんが所在なさげにキョロキョロする番だった。


「晩ごはん作るから座って待っててね。カレーと肉じゃがどっちがいい?」


 カレーを作るつもりでいたので材料は買っておいてあった。作り置きするつもりだったので量もそこそこ作れそうだ。


「カレーが良いな! 毎日でもいいぐらいカレーは好き」


 そういって雪代さんは今日一番の笑顔を出してくれた。これは腕によりをかけて作らないと!


「じゃあご飯の準備は私がするよ。何合炊こうか?」


 明日の朝食分も炊いておこうかな。


「3合でよろしくね」


「かしこま!」


 鼻歌交じりにお米を研いで炊飯器にセットする。手際が完璧だ。


「雪代さんは家で料理とかするの?」


「ううん、お母さんが羽依は包丁持っちゃ駄目って」


「え、怪我でもしたのかな?」


 雪代さんが頬をぽりぽりかいて視線をはずした。


「いやあ~……包丁練習してたときにね、手元が滑ってお母さんの顔めがけてビュっと……。あれ、お母さんじゃなかったら絶対死んでた……」


「あはは……じゃあさ、うちで少しずつ練習する?」


 言ってから気付いたが、またうちに来るつもりで話してしまった。今日は緊急避難的な理由でのお泊りなのに。


 でも、雪代さんは弾けるような笑顔で「いいの!?じゃあお願いします先生!」なんて言ってきた。


 今回きりでは無くなりそうなその言葉に、俺は少し希望が持てた気がした。


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