第28話 ご褒美
中間テストの順位の発表があった月曜日の帰り道。羽依は隣で、憂鬱そうな溜息を付いていた。
「はぁ~……。下着なしのミニチャイナ服かあ……なんであんなこと言っちゃったんだろう……」
失言だったんだな。まあ俺も鬼ではない。可哀想だけど、面白いからもうちょっと引っ張ってから許してあげよう。
「羽依、いつにしようか? やっぱり日曜日かな~。羽依のチャイナ服楽しみだな~」
「ううっ! 蒼真も下着なしで居ること! あと服も着ちゃ駄目!」
顔を真っ赤にして無茶苦茶なこと言ってくる。
「羽依、それは全裸と言うんじゃないかな?」
「蒼真は男の子だからそれでいいの! あ、写真撮らせてね」
「清々しいほど理不尽だなあ。 いや、下着つけていいってば。ごめんね、羽依の反応が楽しすぎた」
泣いちゃいそうなので、そろそろ許してあげることにした。
「うん。ごめんね蒼真。蒼真だけ全裸にしちゃって。写真は真桜にしか見せないからさ」
「俺の全裸はそのまま!?」
そんなこんなでアパートに着いた。
30秒のハグはまだ継続中。――うん、とても幸せになった。
最後に触れるだけのキスをする。
こんな触れるだけのキスでも、初心な二人には十分すぎた。
先週末、もう一歩踏み込むところまでいきかけた。けれど、羽依の都合で寸前で止まった。
本当にあのまま進んでよかったのかといえば――少し自信がなかった。
雰囲気に流されてしまいそうだったから。
留まれたことは、たぶん正解だったと思う。
触れるだけの口づけが、今の二人にはあってる気がした。
「蒼真、顔赤いよ? 初心だねえ」
めっちゃ顔を赤くしてる人に言われたくない。
「羽依、自分の顔を鏡でみてごらん。火を吹きそうだよ」
風呂場に行って鏡を覗く羽依。自分の顔が赤いのを確認し、更に赤くする。赤面のハイパーインフレ状態だ。
戻ってきてから呼吸を整える。
「キスってまだ慣れないね。すごくドキドキしちゃうんだ。ほらね」
そう言って俺の手を取り、自分の胸にぐっと押し付ける。制服越しでも、確かに感じる羽依の胸の高鳴り。
そうして羽依はニマ―っとした顔で俺を見つめる。
「蒼真、顔赤いよ? 初心だねえ」
さっきと全く同じ言葉を繰り返す小悪魔。
まあ実際そうだろうな。俺の顔は確かめなくても分かる。熱で火を吹きそうだもの。
学生の本分である勉強をしないと! アパートでイチャイチャしてると、歯止めが効かなくなりそうだった。
テストの間違えていたところを確認する。
「蒼真すごいね、私も今回の蒼真は100位よりもずっと上に行くと思ってたんだ。でも、真桜は私より蒼真のこと、ちゃんと見てたんだね。ぐぬぬ、悔しい……」
真桜は俺が30位以内に行くと思っていたようだった。確かに、わからないことは大分減った。最初の頃は真桜や羽依に初歩的なことばかり聞いていた。
序盤のつまづきポイントを克服してからは、勉強が一気に捗るようになった。なにより羽依とのマンツーマンはちょっとしたチートアイテムだ。
今思えば、最初から愛のある個人授業だったんだな。
むむ、ちょっとエッチだ。
「羽依には助けられたよ。ホント、どれだけ感謝していいのかわからないぐらいだ。羽依に勉強教わってなかったら、俺も学校行きたくなくなって、最悪辞めちゃってたかもしれないね」
俺の言葉に、羽依は顔を赤らめて、目を潤ませていた。
「蒼真、本気で悩んでたんだね。役に立てたなら本当に嬉しいよ。私も蒼真が居なかったら辞めてたかもって思うとさ、ちょっと運命感じちゃうよね。 二人揃えば無敵になれそう!」
運命か。きっと羽依が先輩に襲われそうにならなくても俺たちは付き合う事ができたと思う。むしろ、微妙な遠回りになってしまったような気もするけど、今こうして羽依と心穏やかに一緒にいられるのは、この上なく幸せであり運命を感じるかも。
熱い眼差しを送ってくる羽依、その可愛らしい顔を今一度見つめる。小さい顔、大きな目、整ったパーツひとつひとつがとても美しかった。両手でそっと、その美しい顔を包み込む。羽依は照れたように瞳を閉じた。そして今日、何度目かの――けれど、初めてのように甘い口付けを交わした。
二人で居ると時間が経つのが早すぎる。もっと勉強したいが、そろそろバイトの時間だった。
「羽依、そろそろバイト行こう。少し早めに行って、仕事をちゃんと覚えておきたいんだ」
羽依は名残惜しそうにしつつも、俺の前向きな言葉にそっと微笑む。
「蒼真は真面目だね~。よし、私がビシビシ指導してあげるからね!」
羽依は眉をキュッと引き上げ、ちょっぴり得意げに腰へ手を当てた。
そして人差し指をピンと突き出す。
何かのポスターになりそうな可愛さだなあ。
新しいことを始めるのは緊張するけど楽しみだ。
頑張って働いて、少しでも自分の力で生きていけたら良いな。
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