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告られ彼女の守り方 ~偽装から始まる、距離感ゼロの恋物語~  作者: 鶴時舞
3章 恋人として。

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第27話 中間テストの結果発表

 6月も半ばを過ぎた月曜日の朝。今日は中間テストの結果発表だ。相当頑張ったからな。結果が楽しみだった。


「蒼真、楽しみだね~。目標100位以内だったよね?」


「うん、手応え的にはかなりあったからね。羽依抜いちゃうかも」


 羽依は嬉しそうな笑顔で腕を組んでくる。


「蒼真が自信たっぷりなのが、すっごく嬉しい。絶対もっと伸びるよ。でも、私はもっと! はるか高みにいるけどね!」


 確かにその通りだった。こんなにほわほわした感じなのに、見た目で騙されてしまう。


 一緒に勉強やバイトしてると分かるのは、彼女の有能ぶりだ。細かいところまで非常によく気づく。きっと浮気なんてしたら瞬時にバレて、処されると思う。物理的に。


「羽依超えかあ。確かに今は想像できないけどね。でも、羽依のおかげで勉強の向き合い方が変わったよ。楽しそうに勉強する羽依を見てると俺もモチベ爆上げだね」


「勉強好きなんだよね~。特に学校で勉強するのがさ、学校の空気とかね、新しいこと覚えるのとか本当に好き」


 そんな子いるんだな。なんて思ってしまったけど、そんな子が迷惑な告白で学校行きたくなくなるのって、不幸でしかなかったな。


 今は怯えることなく学校に行ける。教室での雰囲気も、以前よりすごく明るくなったと思う。それが羽依本来の姿だったんだろうな。


「一生懸命頑張った蒼真にご褒美あげよう! 順位次第でお望みをかなえてあげるってのはどうかな?」


 羽依がいたずらっぽい顔をして、俺に提案してくる。


「それはテスト前に言ってほしかったなあ!」


「神聖な中間テストに、そんな卑猥な気持ちで向き合ってはいけません」


「俺の望みは卑猥なものと決めつけるんだね。いいだろう! 俺の望みは卑猥なものにしよう!」


 俺の高らかな叫びに、羽依が軽く引いてる。


「……じゃあ、望みをいってみたまえ」


「俺の望みは……俺の部屋でチャイナ服!」


「俺の部屋でチャイナ服!? なんて卑猥な……」


 羽依は芝居がかったような怯え方をしている。


「じゃあさ、100位以内だったらこの前着たチャイナ服着てあげるね。50位以内だったらミニのチャイナ服!」


「ミニのチャイナ服なんてもってるの!?」


 食い気味の俺に、さらに引く羽依。ちょっと気持ち悪がってる。


「うん、お母さん何着か持っててね。ミニのチャイナ服もあったんだけど、露出多すぎて人前じゃ着れないの」


 露出多すぎて人前じゃ着れないの……。


 脳内で、その言葉がぐるぐると駆け巡る。


「もうちょっと! 早く! 言ってくれたら!」


 血涙流しそうな俺を見て、完全に引いてる羽依。ああ、またもやゴミを見る目だ。ぞくぞくしちゃう。


「蒼真ってわかりやすいよね~。じゃあさらに、30位以内だったら……下着つけないで着てあげるね」


 顔を赤く染めてそんな提案をしてきた。まあ、ありえない順位だけど。


「ちなみに1位だったら?」


「真桜超えかあ……そんな偉業のご褒美……なんだろう。何が良い?」


 羽依の問いに、俺の脳は素早く最適解を弾き出す。


「そうだなあ、異世界転生ごっこ。俺が異世界で奴隷を買ったらめっちゃ懐いてくる感じのやつ。羽依が奴隷役で御主人様になんでもしてあげちゃうやつね。あぁっ、御主人様……今日はどんなご奉仕をすればいいんですかぁ~? みたいな? 俺が羽依にいたずらするの。そしたらさ!御主人様~羽依はもうだめです~みたいな感じでさ! ってあれ? 羽依まって~、置いていかないで~」


 めっちゃ速歩きで置いていかれてた。



「おはよう羽依、蒼真。どうしたの?二人とも大汗かいて」


「おはよう真桜。 変質者から逃げてた」


「ひどくね!? おはよう真桜」


 俺たちの様子をみて、真桜は微笑ましいものを見るように、ふふっと笑った。


「仲が良いのね。おめでとう、二人とも。正式に付き合ったんですってね」


「羽依から聞いたのか。うん、やっと羽依に自分の気持ちを言えたよ」


 真桜は心から祝福してくれているような、そんな様子だった。


「真桜、ありがとうね。私、二人に会えなかったらどうなってたんだろうって思うんだ。学校辞めてたかも……」


 真桜は羽依をそっと抱きしめた。おお、背景に無数の百合の花が見えた気がした。


「そんなこと言わないの。あなたが辞めるぐらいなら、告白した男子生徒全員退学にしてみせるわ」


 さらっと怖いこと言う真桜だったが、目が本気だった。

 うん、絶対やると思う。


「それはそうと、蒼真のこと。本当にいいのかしら?」


「うん。土曜日は大体お母さんと仕入れのお手伝いだからね。丁度いいの。蒼真をよろしくね」


 俺を抜きに、俺の何かが決まっているようだ。


「真桜、俺に何か用があるの?」


「毎週土曜日、蒼真に稽古をつけてあげる。羽依を守れる強さ、欲しいでしょ」


「そりゃ欲しいし、俺からお願いしたいぐらいだ。とてもありがたい! けど、俺の意見は!?」


「蒼真、強さ。欲しいでしょ」


「あ、はい……」


 有無を言わさぬとは、まさにこの事だった。


「ふふ、いい子よ蒼真。たっぷり可愛がってあげるから」


 猛禽類のような鋭くも妖しい、それでいて優しいという謎の眼差しで俺に微笑む真桜。


「真桜ってホント、ドSだよね~」


 ケラケラと羽依が笑ってる。いいのか? 彼氏ちゃんの大ピンチだぞ?


「それより今日は中間テストの発表ね。この学校は50位まで張り出されるらしいの。1位は私か羽依の勝負になるのかしらね」


 楽しそうに真桜はそんなこと言ってくる。まあ俺には関係ない話だ。


「真桜の1位と私の2位の差がね……間が大きすぎて勝負になんないよ~」


「そんなことないわよ、朝の勉強で二人とも学力増したようだし」


 羽依は嬉しそうに頷いている。


「蒼真はめっちゃ伸びたよね! 今回の中間テストの結果次第でご褒美決めたんだ」


「まあ、どんな卑猥なご褒美?」


 やっぱり卑猥が前提なんだな。二人の俺への共通認識が卑猥すぎる。


 羽依がご褒美の内容を説明して、真桜が可笑しそうに笑ってる。


「あはは、羽依。あなたピンチよ!」


 キーンコーンカーンコーン♪


 HRの予鈴が鳴った。朝の勉強はほとんど雑談で終わった。


 羽依は真桜にちゃんと付き合った報告してたんだな。俺も親友にはちゃんと伝えなくちゃな。今までの嘘の詫びも。


 休み時間、高峰隼たかみねしゅんにジュースを奢ると持ちかけ自販機前まできた。


「なんだ? 何か相談事か?」


「いや……改まって言うのもちょっと恥ずかしいと言うか、申し訳ないって言うかな。羽依と付き合うことになったんだ」


「ほーん。じゃあ今までは付き合ってなかったと。偽装だったってことか。今まで俺に嘘ついてたと。ほーん」


 ほんとこの学校の生徒の察しの良さってなんなの!? 成績優秀者はみんな能力者なのか。


「まあ弁解の余地もない。ごめん」


 隼は軽く俺の肩をどつく。ちょっと痛い。


「正直だなお前は。これとジュースでいいよ。あとお前んちで宴会も予約な。焼肉」


「要求がインフレしまくってるぞ!?」


「わはは、まあ、なぜ偽装したかはわかるよ。俺も雪代さんへの告白祭りは、正直見るに耐えなかったからな。実際落ち着いてたみたいだし。でも、他には言わないほうが良いな。俺で止めておけ」


「……すまないな」


 隼は肩をすくめて笑顔を向けてくる。


「というかさ、雪代さんと付き合えるのお前だけだもんな。彼女とコミュニケーションとれるのお前だけだし」


「ああ、まあな。でも、これからちょっとずつ改善するかも」


 羽依は言っていた、「私、変われる気がする」と。きっと彼女なら宣言通り変われるだろう。でも、もうしばらくは俺だけの羽依でいて欲しいというのは我儘かな。



 ――昼休み、掲示板に成績上位者の名前が張り出された。


 1位 結城真桜

 2位 雪代羽依

 ……

 5位 高峰隼

 ……

 28位 藤崎蒼真



 一瞬、視界がゆがむ。


「――はい?」

「え……あ……お、おめでとう、蒼真……」


 羽依は、これでもかって言うぐらい、顔を真っ赤にして俺の制服の裾を掴んでいた。


 俺、頑張ったなあ~……。

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