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告られ彼女の守り方 ~偽装から始まる、距離感ゼロの恋物語~  作者: よるひ
6章 夏休み後半

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第266話 テスト開始!

 二月の三週目、月曜日の朝。

 今日から学年末テストが始まる。来週の月曜には結果発表だ。

 いよいよ――負けられない戦いの始まりだ。


 早朝、姉さんと一緒に登校する。ここから先は召使いモードとなる。


「体重がね……最近増えてきてるの……」


 唐突にそう言って俺を恨めしそうに見つめる姉さん。暗にここしばらくのハイカロリーな食事を責めているようで、その目にはほんの少しの哀願が混じっていた。

 ちなみに昨日の晩はキッチン雪代風ポークソテーを作ってみた。けれども、美咲さんの深みのある味わいには遠く及ばなかった。それでも姉さんは、美味しいと微笑みながら、綺麗に平らげてくれたのだ。


「食べた分、動かないからですよ」


「そんな正論聞きたくないわ……」


 まるで聞く耳をもたないように、かぶりを振る遥さん。


「まったく……遥さんの運動って学校の行き来だけでしょ?」


「そんなことないわ。体育は嫌いじゃないわよ? 持久走以外はね」


 自慢にもならないことを自慢気に言う遥さん。


「運動が嫌いじゃないなら明日は朝五時に起きてくださいね。一緒にトレーニングをしましょう」


 そう言って愛くるしい笑顔を送ると、遥さんはそっぽを向いた。やれやれだ。


 校庭に入り、昇降口前までやってきた。遥さんとはここでお別れだ。


「蒼真くん、テスト頑張ってね」


 そう言って俺の手をぎゅっと握る遥さん。ひんやりした手だけど、なぜかとても暖かく感じた。


「ありがとう……遥さんも頑張ってください!」


 遥さんは笑顔で俺に手を振りながら、二年生の下駄箱に向かった。

 じんわりと気合が入ったところで、足早に教室へ向かった。


「おはよう真桜」


 教室に入り、真桜と目が合ったので、いつもと同じように挨拶をした。


「おはよう蒼真」


 彼女もいつもと同じように柔らかな笑顔で返してきた。傍目から見れば、まるで揉め事などなかったかのような俺たちだった。

 けれど、その瞳はどこか俺をすり抜けていくようだった。いつもの芯の強さが、今日はどこか霞んで見えた。


 俺たちより少し遅れて羽依が登校してきた。


「おはよう蒼真! 真桜!」


 笑顔で俺たちに挨拶を交わす羽依。朝からテンション高めで、月曜の憂鬱さなどまるで感じさせなかった。

 自転車で通学しているからか、茶色い髪をピンク色のシュシュで後ろ側に束ねている。それがとてもよく似合っていた。いつみても最高に可愛い俺の彼女だった。 


 そしていつものように多目的スペースで朝勉強を開始した。

 

「真桜、そこ間違えてる。正しくは~」


「え……? あ、ホントだ……」


 真桜にしては珍しいケアレスミス。見た目は平穏を装っても、心ここにあらずな様子だった。

 そんな彼女を羽依はじっと見つめる。


「真桜、だめだよそんなんじゃ。三人で満点が理事長先生の出した条件なんだからね!」


「そんなの無理よ……できっこないわ……」


 そう言って項垂れる真桜。やはりメンタルは弱っているようだ。試験に影響がなければいいが……。


 突然何を思ったか、羽依が俺の背後に周り、俺の右手を取った。


「どうしたの? 羽依?」


「蒼真は腕の力を抜いてね」


 とりあえず羽依の言うがままに力を抜いて楽にしてみる。

 羽依の柔らかな双丘が首筋に押し当てられ、思わず息を呑む。


「真桜のシャツのボタンを外して~」


 俺の左隣に座る真桜のシャツのボタンを反対の手で器用に外す。

 真桜は項垂れたまま、されるがままだった。

 

 背後にいる羽依がニヤッとしているのがなんとなく伝わってくる。その笑みの意味を察するより早く、俺の右手が強く引かれた。


「えい!」


 ぐいっと俺の手を引き、真桜のシャツに隙間を開け、すぽっと中に突っ込んだ。柔らかな感触が手に広がる。


「……んっ!」

 

 ――え!? どういうこと!?


 パーテーションで囲われているので周りには見られないが、見つかったらと思うと心臓が壊れそうなほど激しく高鳴る。

 俺たちに抱きつく格好の羽依。首筋には胸の感触、手には真桜の柔らかさ。羽依の悪戯に目を白黒させる俺だった。


「羽依~……いったいなにしてんのさ……」


「愛だよ愛。――真桜、蒼真のこと嫌い?」


「……嫌いよ」


「ならどうして逃げないの? 蒼真に触れられたいんでしょ。このむっつり」


「こらっ羽依、言いすぎだろ……」


 手からじんわりと伝わるぬくもりと肌の感触。真桜も、俺の手の上からぎゅっと重ねる。


「蒼真の手が……温かいの……」


「それが愛だよ真桜。――もっと触られたい?」


 彼女の揺れる想いが手に伝わるようだった。少しだけ俺も掌に力を伝えた。真桜の体がピクリと反応する。

 

「んっ……」


 切ない吐息が微かに漏れた。


「ばか。羽依のばか。嫌い」


 そう言って真桜は羽依を睨むが、その視線は弱々しかった。


「ん~! 真桜ってやっぱり可愛い! その顔がエッチすぎ!」


 そのまま羽依は真桜に飛びつき、頬ずりをした。


「こら羽依、声が大きいって」


 慌てて手を抜いた俺。真桜が残念そうに見えたのは気のせいだろうか。


「みんな気合はいったね! テスト頑張ろうね~!」


 ――え? 気合入ったの? 今ので?


「羽依って、やっぱり変だよ……」


「ほんと、おかしすぎて笑っちゃうわね……」


 真桜から笑みがこぼれ、それを見てほっと一安心する。

 はたしてどこまでが羽依の計算だったのか。

 とにかくテスト前に緊張がほぐれたのは確かだった。


 朝勉強が終わり教室へ入る。

 テスト前なので、みんなはわりと静かに勉強をしていた。


「うっす」


「よう蒼真。テスト前にちょっと話がある」


「……まだ五分ぐらいあるな。多目的いくか」


 そうして俺たちはさっきまで勉強していたブースにやってきた。


「まあ勝負だ。蒼真、お前一位狙ってるんだよな」


「おう、今回は満点狙いだ」


「はは、また随分と無茶を言うな。まあ俺も勉強は随分と頑張ってきた。一年の最後ぐらいは真桜に勝ちたいからな。――もちろんお前にも」


 挑発的に俺を見つめる隼。


「へえ。それで俺と勝負なのか? 勝ったほうが真桜と付き合うとか言ってこねえよな?」


 隼は肩をすくめる。


「ばーか、そんなもん真桜に知られたらどうなるか。考えただけでも怖えわ」


「はは、真桜のことよくわかってるじゃないか」


「別に何も賭けねえよ。単純にお前には負けない宣言だ」


 そう言って俺を指差す隼。


「いいなそれ。さすがは俺の親友だ。――叩きのめしてやる」


「はは、そんな生意気言うのはデッドリフト140kg超えてからにしとけよ、この貧弱」


「くっそ! ぜってえ超えてやるからな!」


 バカな親友は俺のやる気をさらに漲らせてくれた。

 俺は絶対誰にも負けない。


 学年末テストがいよいよ始まった――。



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