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告られ彼女の守り方 ~偽装から始まる、距離感ゼロの恋物語~  作者: よるひ
6章 夏休み後半

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第261話 勝者不在の夜

 俺の姉と幼馴染という檻の中に自ら入った隼。逃げ場はどこにもなかった。思わず憐れんでしまう。


 二人からの「なぜ恋人を奪った相手の家に泊めてもらうか?」というシンプルな問いかけに渋面を浮かべる隼。


「それをここで言えって? よりによって蒼真がいる前で……はあ……」


 隼のぼやきに、イラッとした。

 けど、まあ分からなくもない。状況だけを見れば、これはほとんど公開処刑だ。


「……深い意味はないんじゃないですかね。こいつ脳筋ですし。たまたま近かったとか、その程度でしょ」


「確かにここはマンションから近いけど、あのマンションから通ってる子、何人もいるよ? 確かサッカー部の子も他にいたはず。ねえ? どうして?」


 しーちゃんの相手のすべてを見透かす眼差しが隼を射抜く。

 観念したように、視線を逸らして唇をきゅっと結んだ。


「蒼真と……気まずいままなのが……嫌だったから……」


 ――キモ。可愛い女の子に言われるならまだしも、隼に言われたところで……。


「ふうん……そう……続けて?」


 姉さんの口角が少し上がった。横目でちらちらとしーちゃんとアイコンタクトを取っている。


「その前に、二人は知ってるんすよね? 蒼真が羽依ちゃんと付き合ってるの」


「ええ」

「もちろん」


 即答する姉と幼馴染。


「じゃあ、真桜とのことは? 蒼真は真桜とも付き合ってたって知ってました?」


 そう言って俺を睨む隼。


 ――こいつは俺と仲良くしたいのか責めたいのか……ああ、自分でもわからないのか……。


「ええ、知ってるわ。でもそれだけ聞くと蒼真くんの二股よね。――厳密には全員が二股。要はポリアモリーな関係って聞いてるわ」


 隼はぽかんと口を開け唖然とした表情を浮かべる。そして俺をまじまじと見た。


「蒼真……まじ?」


「ああ、俺と羽依、俺と真桜、そして羽依と真桜も愛し合ってた」


「くうっ~~!」


 両手でパンと頬を叩いてそのままテーブルに突っ伏してしまった隼。


「そっかあ……隼くんはただの二股だと思ってたと。不憫な真桜ちゃんを救ってあげようってことだった。で、合ってる?」


 淡々と確認するしーちゃん。ただ、その言葉にはトゲが含まれるように聞こえた。隼は顔を赤くして彼女を見る。


「いや、俺は真桜のことが好きだ! あいつなら……俺は……」


「あいつなら? 姉さんよりも好きになれそう?」


 迷いなく隼を追い込んでいくしーちゃん。有無を言わせぬ迫力があった。


「姉さん? 姉さんって燕さんのことよね? どうして燕さんが話にでてくるの?」


 ガタッ、と椅子が鳴った。

 姉さんは前のめりになって、しーちゃんを見る。


「隼くんと燕さんは恋仲なんだよね~」


 ここでしーちゃんが爆弾発言を投下した。


「まあ! 姉弟でそんなことってありなの!? まあ! まあ!」


 案の定姉さんは大興奮で、俺と隼に視線を行ったり来たり。


「志保さん……マジ勘弁してくださいよ……」


 隼もしーちゃんにはめっぽう弱いらしい。さすがは元生徒会長だ。


「いいじゃない。別に隠してなかったでしょ?」


「いや、俺は姉さんとはもう別れる。そう決めたんだ」


「へえ……それで手頃な子を見つけて燕さんの代わりにしようとしたんだ?」


 姉さんの声には、隠す気すらない毒があった。

 その一言で、隼の反論は息を失う。


「違う! ――違うんだ……でも……」


 隼は肩を落とし、視線を床へ落とす。

 その姿は、普段よりもずっと小さく見えた。


「自分ではこれしかないって思った。けど、姉さんには見透かされてたみたいっす……」


「燕さんは何て言って隼くんを追い出したの?」


「真桜が可哀想すぎるだろ、女の子の気持ちをもっと大事にしろと……」


 テーブルをじっと見つめる隼。すっかり意気消沈していた。

 そして深い溜め息をつく姉さん。


「燕さんに完全に同意だわ。高峰くんは真桜を救うつもりで自分が逃げたかっただけね」


「……逃げっすか……かもしんねえっす」


「……随分中途半端な想いで告ったもんだな。真桜はただの代わりか?」


 隼が俺を睨む。


「代わりなんかじゃねえ! 真桜はいい女だ! 絶対姉さんより好きになれる!」


 隼が言い終えたあと、いきなり姉さんが席を立った。


「ああ、可哀想な真桜。蒼真くんとの間でも二番目、高峰くんからも二番目。おまけに選挙でも私に負けて」


 胸の前で手を組み、天井を仰ぎながら嘆いてみせる姉さん。

 祈りのポーズとは裏腹に、その言葉は毒そのものだ。俺と隼の心を容赦なく抉っていく。


「……遥さんには言っておきたいけど、俺は真桜を二番目になんて思ってなかった。羽依も真桜も愛してる」


「でも大っぴらにしてるのは雪代さんだけよね。真桜は常に日陰の女」


「くっ……」


 痛いところを的確に突いてくる姉さん。単純に俺の味方ではないのが彼女らしい。


 隼が頷きながら口を開く――。


「それが可哀想だから俺は真桜に告ったんだ!」


「同情? 余計にたちが悪いわね。それも燕さんの代理。やっぱり二番目」


「いや、ちがっ! ……くぅ……」


 鋭利なナイフのような言葉でずたずたにされ、隼と俺は項垂れた。

 勝者不在のまま姉さんは続ける――。


「それに彼女、不幸に見えた? 正直言えば真桜の気持ちなんて蒼真くんに向いてるって誰が見てもわかってたわよ?」


「真桜ちゃんわかりやすいもんね~。だからそーちゃんにヘイトが集まってたわけだし」


「うそ……そうなの?」


「蒼真くんは女子の人気は高いけど、男子生徒からはいつ刺されてもおかしくないわね。学年一,二を争う才色兼備な二人を独り占めしてるんだし」


 そう言っておかしそうに笑う姉さん。いや全然笑えない。


 ――俺に対する隠し撮りや嫌がらせも、真桜に誰も告白しなかったのも、もしかしたらそれが原因なのか? だとしたら……わからなくはない……か。


「隼くん。悪いことは言わないからさ。もう一度しっかりと燕さんと話したほうがいいと思うの」


 しーちゃんは優しく諭すように隼にそう告げた。


「もう……話すことなんて……」


「難しく考えすぎてるんだよ! 好きなら好きでいいじゃん」


「だって! 俺と姉さんは姉弟で……!」


「いいじゃん別に。お互い好き同士で何が悪いのよ。隼くんだってそう思ってたんじゃないの?」


「そう思ってた! でも、このままでいいのかって一度考えだしたら止まらなくて……」


「だからこそだよ。ちゃんと話し合って。ね?」


「……うっす」


 隼は小さく相槌を打った。

 しーちゃんの暴論にも聞こえたが、隼の知らない真実――隼と燕さんの間が本当の姉弟ではないことを知っているからこそ出る言葉なのだろう。


 尋問の時間はそのままお開きになった。

 隼を俺の部屋に連れていき、客用の布団を床に敷いた。


「わりいな蒼真……」


「……合宿の件はこれでチャラってことで」


 隼は小さく「おう」とだけ言った。


 俺は洗い物を済ませ、風呂に入り、寝支度を済ませた。

 リビングに戻ると寝間着姿のしーちゃんと姉さんが談笑していた。


「二人ともまだ寝ないの?」


「興奮して眠くないんだよね。生で“隼×蒼”見ちゃったからさ!」


「ふふ、御影さんも“あの本”を読んだのですね」


 ――あの本ってなんだよ。禁書だそんなもん。


「うひ、今から一緒に寝るんだよね。そーちゃん詳細教えてね!」


「期待するようなことはない。絶対」


 ぶーぶー言う二人を無視して部屋に戻る。


 ――しーちゃんはともかく、まさか姉さんまでとは……。女子ってBL話がほんとに好きなんだな。


 部屋に戻ると布団の中で隼がスマホをいじってた。


「まだ寝てなかったのか」


「蒼真……悪かったな」


「何が?」


「……ポリアモリーって言葉を調べてたんだよ。複数の恋愛だってな。自分たちだけじゃなくて、他人からも認められることが重要だって。こんなの無理じゃね?」


「無理を押し通す。今だけじゃなくてこの先もな」


「はは。お前、強えな」


「まあ誰かさんの横やりで崩れ去りそうだけどな」


「……羽依ちゃんにまで恨まれるのは……結構キツイな」


「俺ならいいのかよ……つーか、 真桜への気持ちはそんなもんなのか?」


「……俺は真桜のことがやっぱり好きだ。この気持ちは嘘じゃないと思う」


「俺だって真桜のことは好きだ。羽依にだって引けを取らないほどに」


「……そっか。まだ諦めないんだな」


「当たり前だろ? 今は弱いところを突かれて足元がぐらついただけだ。どっちが真桜を想ってるか思い知らせてやる」


「なんだかいちいち言い草がおっかねえな、お前は」


「……だから素になると駄目なんだろうな」


「俺には遠慮がないもんな。他のやつじゃすぐに衝突するだろう」


「性格悪いんだよ。きっと俺は……」


「俺は嫌いじゃねえぜ? 物腰が柔らかいお前が俺にだけ見せる素ってのはな」


「きも……さっさと寝るぞ。俺は明日も早いんだ」


「休みだぞ。何時に起きるんだ?」


「五時だ。この家にトレーニングルームがあるんだよ。そこで鍛えてる」


「うっそ! まじで!? 俺にもやらせろ!」


「……じゃあ明日五時に起きろよ? 寝てたらほっとくからな」


「ああ、おやすみ、親友」


「……ふん、おやすみ……親友」




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