第26話 告白
日曜日。昨日は真桜にしごかれて、体がバキバキだ。なんだこの筋肉痛。
普段使わない筋肉を思いっきり使った感覚。普段やらないスポーツをやった後のような全身の痛み。
今日はゆっくり休養するかあ……。
ぴろぴろぴ~♪
羽依から電話だ。
「あ、蒼真? 今日用事なかったらそっちに行っても良い? 昨日のお土産あるんだ」
鈴の音のような可愛らしい声。愛しい彼女からのお誘いだ。俺はもちろんオッケー。
「うん、じゃあ待ってるね。お昼どうする? 一緒に食べるなら作るよ」
「じゃあお願いします! 昼前にそっち行くね~」
昨日は恥ずかしい告白になったからな。今日は、ばっちり告白成功させたい。いや、今更感半端ないけど、こういうのはしっかり言葉にしないと駄目だ。曖昧なままでは、また羽依が不安になってしまう。
昼前までは時間がある。体を起こして少し動いたら、筋肉痛はそれほど感じなくもなった。真桜が入念にケアしてくれたのも大きかったかな。
軽くジョギングをしながらスーパーに寄っていくことにした。
今日のお昼はタンパク質メニューにしよう。鶏の胸肉とブロッコリー、チーズを買ってスーパーを後にする。
家に帰ってからシャワーを浴び、お昼ご飯の支度を始める。
メイン:鶏むね肉のチーズピカタ
副菜:半熟ゆで卵とブロッコリーのサラダ
ごはん:玄米ごはん
スープ:豆腐とわかめの味噌汁
今日のメニューはこんなところだ。作り始めたところで羽依がやってきた。
「おじゃまします~。はい、お土産! あると嬉しい、ほりにちスパイス!」
「おお! 買おうと思うとちょっとお高い、ほりにちスパイス! めっちゃ嬉しい。 羽依、ありがとうね! そうだ、お返しって理由じゃないけど羽依にこれ渡しておくね」
俺はアパートの鍵を渡した。
「持っておいてもらったほうが便利かなって。一応ね」
羽依はにへら~っと顔をだらしなく蕩けさせる。油断しすぎだぞ、彼女ちゃん。
「これが、あこがれの彼ピの部屋鍵! ありがとう!大切にするね!」
羽依は嬉しさを隠しきれず、小さく弾むような足取りで部屋へと上がり込んだ。
「ご飯の準備中だね。手伝うよ!」
「じゃあ、ご飯の準備と、そうだ、包丁の練習してみようか。ブロッコリと鶏むね肉を切り分けてもらおう」
羽依は一瞬固まったが、「そうだよね、逃げてても駄目だよね」と、ぶつぶつ言いながら頷いた。
ブロッコリを洗い、手頃な大きさに切っていく。
「そう、包丁は猫の手でね。うん、上手だよ」
俺は羽依の背後にまわり、両手を羽依に添えて包丁を教える。
「できたー!」
切り分けるだけというのもあり、さほど手こずることもなく包丁を使えた。苦手意識さえなければ、わりと何でもこなせる子だった。
「鶏むね肉はどうかな?」
「大丈夫、やってみる。――手をすべらせた時はね、鶏肉を切り分けてた時だったんだ。手が脂で滑ってたんだけど、ちゃんと拭かないでね。たまたま虫が目の前飛んで追い払った時に、お母さんめがけてビュンって」
「――それは危なかったね。美咲さんよく避けられたね……」
思い出してシュンってしてる羽依が可愛すぎた。頭を撫でたいが、今撫でたら鶏肉の脂でベタベタになる。
「お母さんね『命の危険感じたの初めてだった』って。修羅場いっぱいくぐってるお母さんに、そう言われちゃってね。私、包丁持ったら駄目なんだなって思ったの」
美咲さんの修羅場話、とても興味あるけど……怖そうだな。
「でも、蒼真が教えてくれるって言ってくれて嬉しかった! 蒼真と一緒に居ると私、変われる気がする!」
なんて可愛いこと言うんだろう。俺は羽依を後ろからぎゅっと抱きしめた。彼女の甘い香りに胸が締め付けるような気がした。
鶏むね肉も無事に切り分けられ、調理を始める。
味噌汁を準備し、肉に火を入れる。肉とチーズの焼ける香りがたまらない。仕上げにお土産のほりにちスパイスを、ぱぱっとかけてみる。
「できたー! さあ食べよう!」
テーブルに並べられるタンパク質メニュー。高校生カップルにぴったりだ。
「「いただきまーす!」」
羽依がピカタを口に運ぶ。大きい目がさらに大きくなる。確実に美味しいって思っている顔だ。
「美味しいね~!」
……ほんと、ずるいくらい可愛い。
幸せそうに食べるその表情は、俺を何度好きと思わせるのか。
この子の笑顔に触れて、俺の世界が静かに満たされていく――
……好きだ。どうしようもなく、好きだ。俺は本当にこの子が好きなんだと実感した。
「羽依」
「なあに?もぐもぐ」
「好きだ。俺と付き合って」
「ぶふぉっ! ゲホォッ!! 」
ああ、テーブルの上でちょっとした惨事が発生した……。
めっちゃ睨んでる……失敗したかな。
「今言う!? もう、ばかぁ……」
そう言って羽依は俺の胸元に飛び込んでくる。ついでに口を服で拭いてるけど文句言えない。
「これって蒼真の復讐なのかな……、でも、ちゃんと言ってくれたのは嬉しいよ。私も蒼真のこと好き、大好き! 愛してる!」
羽依は抑えていた感情が決壊したように、強くしがみつく。
細い肩が震えていて、目元には光るものが滲んでいる。
それでも彼女は笑っていた。好きだと、何度も伝えるように。
やっぱり言葉にして正解だったと確信した。お互いの気持が、今確実に重なり合っているのを感じる。
こんなに可愛くて愛おしい子に愛してると言われた俺は、世界一幸せだと思う。――そう思わずにはいられなかった。
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