第259話 優しい言葉は期待してはいけない
傷心だろうがなんだろうが、とりあえず自分の仕事を全うする。その方が楽になれるとも思った。
生徒会室まで姉さんを迎えに行った。
俺に気づいた姉さんが、驚いたように瞬きをする。
――そんなに酷い顔をしてるんだろうか。確かに弱っていた。誰かにぶちまけたかった。事情を知っている姉さんになら――。
「や~い振られ虫」
そう言って頬をつっつく姉さん。
慰めの言葉を期待していたわけではないが、姉さんは妙に楽しそうだった。
「そうやって人の不幸を笑ってるといいよ……」
「いいじゃないの。まだかわいい彼女が残ってるんだから」
呆れたように姉さんは言うが、そういう問題ではない。
帰り道の足取りは重く、まるで足かせをはめられたような感覚だ。
もし姉さんを襲う暴漢が現れたらかなりやばい。きっと今の俺は小学生にも負けると思う。
――ちびっこ達。うちの姉さんを狙うなら今だ。
悪者は現れることなく家に着いた。
「ただいま。さあ、振られ虫の蒼真くん。今日も勉強頑張ってね。私がご飯を作るから」
「姉さんさあ、煽るか慰めるか、どっちかにしてよ……」
「じゃあ煽る。振られ虫~」
姉さんはけらけらと笑ってキッチンに向かった。
――まったく、やれやれだ。
最近姉さんのキャラが変わってきた気もする。明るくなったというか影が取れたというか。
そんな姉さんに戸惑いつつも、どこか救われた思いもあった。
姉さんの好意に甘え、勉強に勤しむ。今はとにかく何かに集中していたかった。でないと辛い。
勉強中、突然スマホの着信音が鳴った。隼からだ。
(何考えてんだあいつ。出たくねえんだけど……)
放置していてもしつこく続く。切れてもまたすぐにかけてくる。
――文句でも言っとくか。
「なんだよ……」
「なんだよじゃねえよ! さっさと出ろよ! 話があるんだよ」
「そっか。俺からはない。切るぞ」
「待てって! 大事な話なんだからよ」
「……手短にな」
「わりいんだけどよ、お前んちに泊めてくれね?」
一瞬耳を疑った。こいつ何言ってんだ?
「お前さあ……どんだけメンタル強えのよ。――真桜んちでも泊めてもらえば……いいだろ」
自分で言って自分で傷ついてしまった。情けない……。
「――真桜とはまだ付き合ってねえよ。保留にされちまったからな」
「はあ? 何かあったのか?」
「真桜、あのあとずっと泣いててな。とりあえずうちのマンションに連れてきたんだよ」
真桜が隼のマンションに行った。その事実が俺をさらに抉る。
「んだよ……早速おのろけかよ。ぶっころすぞ?」
自分でも驚くほど心がやさぐれていた。
「なんだよおっかねえな……うっかり姉さんと鉢合わせちゃったんだよ」
「え? 燕さんと?」
「ああ、泣きじゃくってる真桜から話を聞いてな。姉さんの怒りがなぜか俺に向いたのよ」
「ほうほう。ちょっと興味わいてきた。続けろ」
「んだお前……人の不幸を笑ってるだろ?」
「うっせ! はよ続き!」
「ったく……真桜と話するから俺は野宿でもしてろって追い出されたんだよ」
「野宿って……このクソ寒い中? 燕さん怒ると怖いんだな……それで隼は外にいるんだ?」
「ああ、今、九条さんちの前だ」
「はあ?」
窓を開けると隼が手を振ってきた。
「寒いんだよ、二月に野宿って姉さん何考えてんだよ……」
「しらねーよ、ったく……ちょっと待ってろ」
さすがに家の前で凍死してたら洒落にならない。
リビングに向かうと、いつの間にか来ていたしーちゃんと姉さんが、英語の勉強をしていた。
「遥さん、あの、大変申し訳ないんだけど、実はご相談が」
「うん? どうしたの? 振られ虫くん?」
相変わらず煽る姉さん。これがシスハラというやつか。
「そーちゃん、真桜ちゃんに振られちゃったんだって!?」
二人はキャッキャウフフってノリではしゃいでる。誰も同情なんてしてくれない。
ああ、もうやだ……。
「それは置いといてください。隼がすぐ外にいて、今晩泊めてほしいと言ってるんですが……」
「え……隼って燕さんの弟の?」
「えー!? そーちゃんの恋敵がなんでまた!?」
「実はー……」
電話の内容を説明する。
二人の目は好奇に輝いていた。
「蒼真くん。今日だけよ」
「そーちゃん! 私も泊まるけど、部屋はどうするの?」
「あー……俺の部屋で寝かせます」
二人はさらに盛り上がった。
手を繋いでキャーキャー言ってるし……。
みんなおかしいって。何考えてんだよホント……。




