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告られ彼女の守り方 ~偽装から始まる、距離感ゼロの恋物語~  作者: よるひ
6章 夏休み後半

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第255話 明日のために

「遥さん……お加減は大丈夫ですか?」


 遥さんは俺の声を手を上げて遮る。


「……パパ。縁談の話、だけど……私、受けようと思います」


 一瞬、胸がひやっと冷たくなる。


 震える声が、その決意が脆く崩れそうであることを示していた。本意ではないのは十分に理解できる。


「遥っ! そんな必要はない! その話はもう忘れるんだ!」

 

 社長の怒鳴り声が空気を震わせ、心臓が跳ね上がった。

 それでも遥さんは、まるで何も聞こえなかったかのように動じない。

 ただ、今にも崩れ落ちそうなほど儚い表情で、どこか遠くを見つめていた。


「話は……すみません、全部聞いてました。――私、蒼真くんにこれ以上迷惑かけられない……」


 大粒の涙をぽろぽろとこぼす遥さん。

 その姿はあまりに儚げで、見てるだけで胸が締め付けられるように苦しくなった。

 慌てて近寄り、そっとハンカチを差し出した。


「遥さん、泣かないでください。迷惑なんて思ってないですから……」


「だって……蒼真くんが九条家に入ったら……絶対後悔するわ……」


 泣きながら俺の胸に顔を埋める遥さん。

 服越しに伝わる震えが、胸の奥をざわつかせる。


 その震える肩を抱く資格が、果たして俺にあるのだろうか。


「九条家は魔窟よ。表だけは綺麗でも、中身は腐ってるの。私が一人暮らししてるのだって、そのせいなの……パパだってわかってるでしょ……?」


「……遥が言うのは九条家の一部の話だよ。全部が悪いということでもない」


 そう言いつつも、その表情はとても硬く見えた。否定しきれないってところか……。


「パパならそう言うでしょうね。でも、他所者扱いされる蒼真くんがどんな目に遭うのか……本当の……子供なのに……」


 今にも崩れそうな遥さんの体をそっと抱きしめた。

 暖かく柔らかい感触が胸に伝わる。


 思えば姉さんは、いつも俺のために気遣ってくれた。

 一緒にすごした時間はまだ短いけど、姉弟としての絆を強く感じられた。もう他人ではない、かけがえのない存在だ。


 愛らしくて、ときに怖くて――大事な、大事な俺の姉さん。


 ――きっと今度は、俺の番だ。


「姉さん。大丈夫ですよ。こう見えて、俺は結構強いんです」


 姉さんの手を取ってぎゅっと握りしめる。

 つめたく震える手に、俺の熱がじんわり伝わっていく。


「ばか……何強がってるのよ……姉より強い弟なんていないんだから……」


 そう言いながら、俺の手を両手で包み込み、無理やり笑顔を作ろうとする姉さん。


 その顔を見た瞬間、決心が固まった。俺はこの人を守る。


「社長。養子の話、受けさせてもらえますか」


「ちょっ……蒼真くん!? どうして……そんな……!」


 涙声の遥さんをあえて振り返らない。


「……男に二言はないよ?」


 社長は眼光鋭く俺を見据える。

 だが、俺はもう目を逸らさない。


「はい。もう決めました。それに、姉さんのためだけじゃない。俺は力が欲しいんです。大事な人を守れる男になるためにも」


 すべての道理をひっくり返せるような――そんな男に俺はなる。


「はは! いいな、その真っ直ぐさ! やっぱお前は最高だ!」


 豪快に笑う黒川さんの声がリビングに響いた。


 もう後戻りはできない。

 前へ進むだけだ。


 姉さんの笑顔のために。そして――俺自身の明日のために。


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