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告られ彼女の守り方 ~偽装から始まる、距離感ゼロの恋物語~  作者: よるひ
6章 夏休み後半

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第244話 砂浜の少女たち

 眼前に海岸が広がってきた。車は高速を降り、一般道を走っていく。きらめく波に反射する光は、まるで宝石を散りばめたようだった。

 タクシーでの旅はとても快適で、なんとも贅沢だ。こんな経験をさせてくれた姉さんには感謝しかない。


「うわー! 海だー! きれいだねー!」


 羽依がはしゃいで海を指さす。シンプルな言葉が、感動の大きさを物語っていた。


「いやあ……すごいな……水平線がくっきり見える」


 負けじと語彙のない感想がこぼれる。俺もこの景観にすっかり心を奪われていた。海のない町で育った身としては、テンションが上がらないわけがない。


「ほんと! いい天気でよかったねー!」


 羽依は満面の笑みでずっと海を眺めていた。冬の澄んだ空気に遠くの船がよく見えた。――あの船はどこへ行くんだろう。


 真桜ともこの感動を分かち合いたいが、あれからずっと寝ていた。

 そっと桜色の髪を撫でてみる。うっすらと、そしてはっきりと目を開いた。


「はあ~……すっかり寝ちゃった。今どの辺り?」


「まもなく到着ですよ。ここは景観の良さで有名なんです。リゾートマンションのすぐ下が海岸なので、散策もできますよ」


 寝ている真桜に気を使ってくれてたのだろうか。今までずっと黙っていた運転手さんが口を開く。


「海岸歩けるんだ! 蒼真、羽依! 私、行ってみたい!」


 起きて早々、海を眺めた途端にはしゃいだ真桜。いつもはクールなだけにギャップがとても可愛らしい。


「んふ、真桜もテンション高いね! もちろん行くよ!」


 信号で停止し、運転手のお姉さんが振り返って俺に笑顔を向ける。


「お客さん、とっても可愛い子に挟まれて両手に花ですね! 二人はモデルとかアイドルだったり?」


「いやあ……普通の高校生なんですけど……あはは……」


 やっぱり、この二人は他人の目にも特別に映るんだろう。

 誇らしさと気恥ずかしさが入り混じり、胸の奥がむずがゆくなる。うまい返事ができず、愛想笑いしか返せなかった。


 ほどなくしてリゾートマンションに到着した。

 白を基調とした低層の建物で、海に向かって大きなガラスが開いたように連なっている。ホテルとマンションの間のような、上品で静かな佇まいだ。


「到着です。長旅お疲れ様でした。明日、お迎えに来ますね!」


「はい、ありがとうございました!」


 女性ドライバーはにこやかに手を降って走り去っていった。


「すごいね~! タクシーで旅行だなんて! 九条さんってやっぱりものすごいお嬢様なんだね~」


「そうなんだよね。俺も感覚がおかしくなりそう」


 真桜は軽く俺の脇腹を肘で突く。


「蒼真、だめよ。清貧こそ武の真髄なんだから、贅沢はほどほどにしておきなさい」


「あ、はい……」


 浮かれ気味な俺をピシャっと締める真桜。なんとも彼女らしい言い分に思わず苦笑してしまう。


「なんだか上品な佇まいだね~。セレブな感じだけど派手じゃなくて、それがまた高級感あるっていうか」


「ああ、ほんとそんな感じ。さて、確かエントランスでスマホをかざす……と」


 無人のエントランスは静まり返っていて、黒い端末が俺たちを出迎えていた。

 画面に向かってQRコードをかざすと、入口の自動ドアが開いた。


「へえ~……なんだかすごいわね……もうポチポチなしでは生きていけないわね……」


「ポチポチって……」


 妙に感心する真桜が、どこかおばさん臭い。


「さあ! 荷物置いたらすぐ海行くよ!」


 先陣切って羽依がどんどん進んでいく。よっぽど楽しみにしてるんだろうけど、本来の目的はみんな忘れてそうだった。


 ――まあ、今勉強の話をするのも不粋か。


 一位を取るために、ここしばらく本当に頑張ってきた。姉さんとしーちゃんが俺の弱点を重点的に叩き込んでくれた。


 ふと思い出す――あの日、羽依を助けた瞬間。

 あれから俺の運命は一気に動き出した気がする。


 一人だったら留年、そして中退……そんな未来もあり得たはずだったのに。

 今は一位を狙っているとは――人生はわからないものだ。

 

「蒼真、なにぼーっとしてるの? 早く海行くよ!」


 羽依が俺の手を引く。部屋の中もろくに見ず、まっすぐ海へ向かって走っていく。


 リゾートマンションのすぐ正面に下る階段があった。そこを降りると砂浜が広がっていた。二人はすぐにブーツを脱ぎ、さらさらな砂の感触を楽しんでいた。


「すごーい! 水がいっぱい!」


「ほんとね! いっぱいだわっ!」


「おいおい……語彙が死にすぎだろ……」


 まったく、いったい言葉を落としてきたんだか。これが学年一、二を争う秀才たちの会話なのだから呆れてしまう。

 ――きっと俺にも勝ち目はあるんじゃないか。なんて思ってしまった。


 ただ、波打ち際をはしゃいで歩く二人の姿はとても絵になっている。思わずスマホを取りだし何枚も写真に収めた。


「うん。いいな、これ……」


 スマホを眺めてほくそ笑む。お宝がたっぷり増えて満足した。

 テスト前だというのにこんなに楽しんで本当にいいのだろうか。


 ――でも、今という時間は、今しか楽しめないのだから。この瞬間を大事にしたいって……願わくばずっと続いて欲しい。心からそう思った。

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