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告られ彼女の守り方 ~偽装から始まる、距離感ゼロの恋物語~  作者: よるひ
6章 夏休み後半

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第242話 姉さんの優しさ

「週末はテスト合宿……なんだか青春してるわね……」


 放課後、帰路につく俺と遥さん。週末の予定を聞かれ、今朝のことを話した。


「羽依と真桜には一位を目指すって言ってしまったので。ちょっと失敗したかも」


「ふふ、勉強できる子は負けず嫌いな子が多いもの。あの二人もきっとそうなのよ」


「あ~……やっぱそうなのかも。妙に気合入っちゃってたし……」


「じゃあ余計に頑張らないとね!」


 遥さんは握りこぶしをぐっと前に出す。その仕草で何となく俺も気合が入った気がした。


「遥さんは週末どうするんですか?」


 俺の言葉に、遥さんがわずかに表情を曇らせた。


「祖父に会いに行くの。すっごく憂鬱……」


「あらら……折り合い悪かったりするんですか?」


「悪いというより……時代錯誤な人なのよ。家柄ばかり重んじてね」


 ため息混じりに遥さんがそうつぶやく。


「なかなか偏屈そうなおじいさんですね」


「それとね……人を思い通りに動かしたがるの。……まあ、ちょっとした暴君よ」


「えー……それは……関わり合いたくないですね」


「そうなのよ……きっと急な留学の話も、父と祖父の間で何かあったからだと思うの」


 声のトーンも落ち込んで、すっかり憂鬱モードに入ってしまった遥さん。無理もないと思った。


「留学は社長からのお達しだったんですよね。社長とおじいさんの間柄は良好なんですか?」


「パパは表向きは祖父のイエスマンだけど緩衝役になってくれてるの。みんな助かってると思うわ」


「そっかあ、社長って物腰柔らかそうでしたものね」


「ええ、尊敬もしてたわ。隠し子が発覚するまでは――」


 言ってから、はっと口を塞ぐ遥さん。


「ご、ごめんなさいっ! 違うの、そんなつもりじゃ……!」


 途端に狼狽した遥さん。――うっかり口を滑らせたんだ。

 安心させるようにギュッと手を繋ぐ。


「あ……」


 俺がそっと微笑むと、彼女はバツが悪そうに横を向いた。


「だめね……やっぱり私は失敗するの……」


「気にしないでください。でも、社長の男気はすごいと思いますよ。別にバラさなくてもよかった話だったのに」


 俺が実の子ということは、知らぬ存ぜぬでもまかり通った話だ。自分の行いを認めるのは勇気のいることだと思う。


「そうかしらね……よくわからないわ……」


 それ以上は語る気になれないようだ。口で失敗するのを恐れているように思えた。

 口数は少なく、でも握った手はそのまま離さずに帰宅した。



 ――夜、一日の仕事を終え、寝る前に少し勉強をする。さっきまで遥さんに教わっていたところを復習するために。

 一位を取るためには今まで通りでは駄目だろう。もっと頑張らなくては。


 時刻は23時を回ったところ。俺にしては相当の夜ふかしだ。明日も早いので寝ようとしたところ、ノックの音が。


「どうぞ」 


 ドアがカチャリと開き、マグカップを持った遥さんが部屋に入ってきた。


「遅くまで頑張ってるみたいだから。これ、ホットミルクにはちみつを入れたの。寝る前にどうかなって」


「うわっ嬉しい! ありがとう。じゃあ、いただきます」


 遥さんがそっと机にマグカップを置く。ほんのり湯気が立ちのぼり、甘い香りが漂う。そっと一口飲むと、体中に彼女の優しさが染み渡っていくようだった。


「美味しい……」


「カフェインなしで正解だったかしらね。もう寝るんでしょ?」


「うん。一段落ついたとこ。これ飲んだら寝ようかな」


 少しフランクさを意識する。ここは自室で彼女は姉なのだから。

 そんな俺の言葉に気を良くしたのか、ベッドに腰掛けた遥さん。


「さっきは……その……ごめんなさい……」


「え? さっきって――ああ、帰りのときの話?」


「うん、やっぱり最悪な一言だったなって……ずっと頭に残っちゃってて……」


「……気にしてないって言ったでしょ?」


 実際、すっかり忘れていたぐらいの話だ。もっとも、こういうことは言った本人のほうが傷つくんだろうな。

 項垂れる遥さんが妙に小さく見えた。

 なんだか可哀想に思い、隣に腰掛け慰めるようにそっと頭を撫でた。くすぐったそうにするものの、されるがままの姉さん。


「もう……気安く女性の頭に触るものじゃないわよ」


「嫌だった?」


「嫌じゃないから困るの……ばか……蒼真、生意気」


 そんな可愛い言葉に思わず抱きしめたい衝動に駆られるが、それは姉に対してすることではない。禁忌であり浮気で大罪だ。

 そんな俺の葛藤を見透かしたように、遥さんは可笑しげに笑った


「もう……この部屋に来た理由、忘れるところだったじゃない」


「ああ、何か用があったの?」


「週末のテスト合宿の場所が決まらないって言ってたわよね?」


「うん、今のところはまだ未定だけど……」


「葉山に会員制のリゾートマンションがあるの。週末キープしておいたけどどうかしら?」


 遥さんが人差し指を立てて提案してきた。


「マンション? それってホテルとは違うの?」


「似たようなものだけど、受付がなくて料理も出ないわ。ただ、施設は立派でロケーションが素晴らしいの」


「そりゃよさそうだけど、高校生が使って良いものなの?」


「大丈夫よ、私もたまに使ってるし。出張扱いにするからタクシーを使ってね」


「え……そんなのあり?」


「目的が学習だからよ。私が許可するから問題ないわ」


「姉さんすげえ……。じゃあお願いします!」


「ふふ、そのかわり結果が出せなかったら自腹ね。給料から引いておくから」


「ええっ! そんなあ……」


 俺の情けない声に遥さんは堪えきれずに吹き出した。


「冗談に決まってるじゃない。本当に蒼真は可愛いわね」


 そう言って俺をぎゅっと抱きしめた姉さん。柔らかい感触、甘い香りに心臓が跳ねる。


 ――人が必死に我慢してたことを軽々とやってのけるとは。まったく……しょうがない姉さんだ……。

 

「ちなみに雪代さんと……真桜も一緒よね」


 その一言で一気に冷静になる。真桜とわだかまりをなくした姉さんだけど、俺との関係は言えるはずもなかった。


 ――以前だったら相当ヒステリックになっていただろうけど、今はどうなんだろう。

 でも、俺はもう真桜のことは隠したくなかった。大事な人になら尚更。

 

「うん、真桜も俺の大事な人だから……」


 それとなく本当の気持ちを打ち明ける。

 少し間を置き、遥さんは反芻するように、うんうんと頷いた。


「やっぱり蒼真は普通じゃないわね。さすがはパパの息子ってところかしらね」


「……それっていい意味?」


 じっと俺を見つめる遥さんの瞳。怖くて逸らしたいが、ぐっと堪える。やがてため息混じりに口を開いた。


「悪い意味ね。一度に複数の女性を愛することができるのも稀有な才能だと思うわよ」


「それって、才能って言えるのかな。悪徳にしか思えないけど」


 きょとんと目を見開く遥さん。


「ふふ、貴方が悪いことをしているって実感してるなら悪徳なんでしょうね」


「申し訳ないとは思うけど、悪いこととは思えないんだ。やっぱ俺は異常なのかな……」


「異常よ。でも、二人を真剣に愛してるのなら、そして二人が理解しているなら、その関係は成立してるんじゃないかしらね」


 遥さんは責めつつ肯定するという難しい返事をしてくる。

 理解しようと頑張ってくれている。そんな気がした。


「今は子供で許される歳なんだし、まだ好きにするといいわね。この先が辛くなるとしてもそれは自己責任よ」


「……三人の関係を否定しないんだ」


「ええ、だって蒼真は遊びで付き合うことなんてできないでしょ?」


姉さんの言葉から感じるのは俺への厚い信頼だった。


「そうだね……俺はそこまで器用じゃないし」


「まったく……不器用なくせに難しいことしてるのね」


 遥さんはくすくすと笑った。


「いいわ。お姉ちゃんが全面的に許してあげる。三人で葉山で楽しんできてね」


「ありがとう姉さん!」


「その代わり!」


 ピシャっと掌を前に突き出す姉さん。


「はいっ! なんでしょう!」


「旅行の後は私の相手を頼んだわよ。きっと鬱モードに入っているから……」


「もちろんです、お嬢様。至れり尽くせりをモットーに頑張る所存です!」


「よろしい。じゃあ、おやすみ蒼真」


 そう言って、そっと俺の頬に唇を触れさせる遥さん。日課になりつつある触れ合いだった。


「おやすみ姉さん」


 こうして週末の予定が決まった。

 羽依と真桜、三人で一緒にテスト勉強をして、美味しいものを食べてそれから……。

 考えたら眠れなくなりそうなので無心に務める。


 ありがとう。おやすみ姉さん――。

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