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告られ彼女の守り方 ~偽装から始まる、距離感ゼロの恋物語~  作者: 鶴時舞
2章 穏やかな日常へ

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第24話 噛んじゃ駄目

 柔らか感触だ……。ずっと触っていたい。

 ぐみぃ、ぐみぃー。


「ん、蒼真……」


「うん……」


 ――意識が覚醒する。


 !!


 ああ、またやっちゃった……。

 無意識の俺どうなってんだ……。


 俺が手を離そうとすると、両肘をぐっと押さえて逃すまいとする羽依。ジトッとした目で睨んでくる。


「おはよう蒼真……。現行犯逮捕です」


「おはよう羽依、昨日はごめん……そして今もごめん……ゆるして?」


 片方の手だけ許してくれたが、もう片方の手は許してくれず、自分の胸に押し付けた。


「別に触っても良いんだよ。蒼真に触られるの……嫌じゃ……ないし……」


 完全に意識が覚醒してからの手から伝わる柔らかさは格別だった。直に触れる肌が火傷しそうなほど熱く感じる。


「ん……。許してあげる。私の気持ち、蒼真に言ってなかったのも本当だしね。――でもさ、わかるよね? 好きじゃない人と一緒にお風呂入らないよね?」


 ああ、言いながら怒って行くタイプの子なのか……。だんだん顔が赤くなって目つきが怖くなってる。


 俺はさらにヒートアップしそうな羽依を抱き寄せ、口付けをする。


「ん……。ばか、蒼真、――そんなずるい技使うんだね」


「ごめんて。でも、いつから好きだったのかって気になるじゃない」


 まだ言うか、なんて呆れた目をする羽依、でも少し考える素振りをしている。


「一目惚れだったのかも。でも、私から告白することはなかっただろうし、すぐ告白されても付き合わなかったと思う」


 ちょっと、いや、かなり驚いた。俺のどこをそんなに好きになったのか。

 でも、告白しても引かれるだけだったと思えば、言わずに正解だったのかな。


「蒼真は私のことどう思ってるの?」


 まだ少し憮然とした表情を浮かべる羽依。ここは素直な気持ちを伝えるべきだろう。


「好き。めっちゃ好き。愛してる」


 我ながらずるいと思った。羽依の気持ちを聞いてから自分の気持ちを打ち明けるのだから。


 羽依は俺の言葉に、にへらーっと締まらない笑顔を浮かべる。飾らないその顔が、なんともいえず無防備で可愛らしかった。


「ねえ、いつから? いつから好きだったの?」


「一目惚れだったよ。桜の木の下で初めて羽依をみた時のこと、今でも覚えてる」


 羽依はもう俺の顔を見られずに、俯いて胸にしがみついてきた。

 俺の肩をぽこぽこ叩いてる。


「さっさと告白してよぉ~。ずっと待ってたのにぃ~」


「いや、さっき告白しても断るっていってたじゃない!?」


「言った! けどそれは別!」


 別ってなんだ? 女の子は難しいなあ……。


 ――その時!


 ガチャ!


「朝ご飯できたよ! イチャイチャタイムは終了だよ!」


「「ひゃああああ」」


 慌ててベッドを飛び降りる俺と羽依。ドアの方を見ると美咲さんがニヤニヤしてこっちを見ている。


「昨夜はお楽しみだったようだね! ちゃんと付けるものは付けたんだろうね?」


「してません!」

「できなかったよぅ~」


 それを聞いた美咲さんは「へ?」と気の抜けた返事を返してきた。



 パンの焼けた、芳ばしい香りがただよっている。朝食は食パンとベーコンエッグとサラダ。ヨーグルトも用意してあった。女子の家っぽい朝食だな。


「あっはっは!そりゃタイミング悪かったね! まあそんなに焦ることもないよ」


 美咲さんはあけすけだなあ。娘のそういうのは全く気にしない。親子っていうより仲の良い友だちや姉妹みたいな感じだ。


「彼氏好みのチャイナ服を着るぐらいだ。もう付き合ったんだろ? で、どっちから告白したんだい?」


 美咲さんがニヤニヤしながら聞いてくる。


 俺と羽依は顔を見合わせる。そういや、まだ正式にお付き合いって話はしてなかった……。


「蒼真……」


 羽依と美咲さんが俺をじっと見ている。ここは俺がビシッと告白をしよう。


「う、ういぃー、俺と付き合ってれれ……ごめん。今のなし」


「蒼真……そこで噛む?」


 ジト目で人を殺せそうな、そんな眼差しで俺を睨む羽依。


「あっはっは! まあ良いよ、二人が好き合ってるのは十分伝わってるよ」


 美咲さんが涙を流しながら笑ってる。羽依はぶすっとした表情のままだったけど、どこかしら楽しそうでもあった。


 一世一代の告白を、噛み噛みで終えてしまった……。

 ぐすん。



 朝食を食べながら、バイトの話をする。昨日は忙しすぎて細かい話ができていなかったのだ。


「バイトは毎日できそうかい?」


「はい、できるだけ毎日やりたいです。やっぱりお金も欲しいし、まかないもありがたいですし」


「正直だねえ。何か欲しい物でもあるのかい?」


「いえ、できるだけ親に頼らずにいられたらって思うんです。あまりその、折り合い良くないので……」


 美咲さんが、ほう、と神妙な表情を浮かべる。


「まあ、色々あるんだろうね。いいさ、親に頼りたくないってのは自立したいってことだろうからね、悪いことじゃないさ」


 そう言って美咲さんはニコッと微笑む。すべてを理解し、包み込んでくれるような、そんな笑顔だった。


 羽依が過去に嫌なことがあっても真っすぐでいられるのは、きっと美咲さんの影響が大きいんだろうな。


「親に頼りたくないならうちに住むかい? 丁度、蒼真の部屋作ったことだし」


「えー! いやさすがにそれは悪いです、そこまで甘えられません!」


 何でもないような事のように美咲さんが軽く言ってきたので、激しく動揺してしまった。


「そうかい? うちは女しか居ないからね。男手はあったほうが助かるんだよ。それに羽依も喜ぶだろうし」


 羽依は激しく頷いている。首折れちゃうよ?


「蒼真、一緒に住もう?」


「えーいや、あー、そのー。すぐには決められないです……」


 どうにか絞り出した答えがそれだった。


「あはは! 無理になんて言わないよ。でも、金曜日だけは泊まっていくんだよ。昨日も言ったけど、この辺はお世辞にも治安が良いとは言えないんだ。蒼真だって変な男の慰み者になんてなりたくないだろう?」


 それは絶対嫌だ!


「はい、じゃあ金曜日だけお願いします……」


 美咲さんと羽依は仲良くハイタッチしていた。

 ――なんか俺、雪代家のおもちゃにされそうだな……

 でも、羽依が笑ってくれるなら、それでいいよね。









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