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告られ彼女の守り方 ~偽装から始まる、距離感ゼロの恋物語~  作者: よるひ
6章 夏休み後半

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第235話 誤解を解くのは難しい

 サッカー部キャプテンの伊達先輩が突然因縁をつけてきた。険しい表情を浮かべる遥さんと、茫然自失の俺。

 周囲の視線を感じながら、何を言うべきか必死に頭を巡らせていた――。

 と、その時。


「伊達さん、部活サボってなにやってんすか。俺の親友をあまりいじめないでくださいよ」


 ジャージ姿の隼がギャラリーを掻き分けてやってきた。


「隼……いや、お前には関係ないだろ……」


 バツの悪そうな伊達先輩に、やれやれとため息をつく隼。


「伊達さんがグループで回ってきた写真を見て一人で熱くなってたって聞いたから。来てみたら案の定じゃねえっすか」


 隼の言葉に合点がいった。今朝の写真が伊達先輩のところにまで回り、それで妙な勘違いをしてしまったと。


「いや、だってお前もあの写真見ただろ? 嫌がる九条に怪しい目で擦り寄る藤崎を!」


「ぶっ!」

「ちょっ!」

「ええええ!?」


 隼、遥さん、俺の三人が一斉に声を上げた。――いや、正確には隼だけ笑っていた。


「伊達くん。貴方の言い分はわかったわ。でも違うの。聞いて」


「いいやっ! 九条! お前は騙されてるんだ! 藤崎の悪行は有名だからな!」


「……隼、そうなの?」


「……ん~。やっかみ半分かな」


 もう半分はなんだよ。


 伊達先輩はとても熱い人のようだけど、その思いの強さが厄介な方に向いてしまっているようだ。

 人の話を聞く気がない人にどう説明をすればいいのか。

 とにかくこのままでは駄目だと意を決したそのとき――。


「伊達ちゃん。人の話はちゃんと聞かなきゃだめでしょ!」


 その突然の凛とした声に、大勢のギャラリーが一気に道を開けた。


「はうっ! み、御影先輩っ!」


 その人物はしーちゃんだった。

 ギャラリーの間を悠々と通り過ぎ、腰に手を当てて伊達先輩に向き合う。伊達先輩は一気に縮こまった。そこには絶対的な上下関係があるようだった。


「藤崎くんは家の都合で大変な状況なの。そこで知人である遥ちゃんのお父様の御縁で九条邸の使用人として勤めることになったの」


「え、あ……そうなのか? 藤崎……」


「……はい。間違いないです」


「じゃあ今朝のストーカーまがいの写真は?」


「……九条さんの護衛です」


 その一言でギャラリーが静まり返る。そして次の瞬間、爆笑した。


「護衛って、漫画かよ!」「用心棒! 用心棒!」「自意識過剰だろ、だっさ……」


 嘲笑と罵倒が耳に刺さる。俺はこんなにも嫌われていたのかと悲しくなってきた。

 ……ああ……このまま消え去りたい……。


 ――パンッ!

 

 大きな破裂音がしたと思ったら、遥さんが手を打ち合わせた音だった。


「何が可笑しいのかしら。一生懸命頑張る姿をみんなで嘲笑うの?」


 ギャラリーはしんと静まり返った。

 遥さんの眼差しはギャラリー一人一人を見つめる。その直視出来ないほどの威圧にすすり泣く声も出始めた。

 ――ああ、これこそ俺の恐れていた九条遥さん……。


 せっかく最近明るくなってきたのに、また怖い人とレッテルを貼られてしまう。それはだめだ。


 意を決して、捨て身の一発逆転を放つ——。


「な、なーんちゃって!」


 ギャラリーがじっと俺を見つめる。だめか――。


「なんちゃってかあ……」「なら仕方ないな」「まったく藤崎は人騒がせだなあ!」


 ……どうにかごまかせた。きっとみんな落とし所が欲しかったんだろう。ここの生徒のノリの良さに救われた思いがした。

 


「伊達ちゃん。藤崎くんに何か言うことは?」


 しーちゃんは眉間にシワを寄せて先輩に詰め寄る。

 ビクッとした伊達先輩。


「藤崎、すまなかった。勝手に決めつけた俺がバカだった」


「蒼真、伊達さんは思い込みが激しいけどさ、いい人なんだ。俺に免じて水に流してくれ」


 隼が俺に両手を合わせてお願いする。今朝の気まずさもあったけど、さっきは俺も隼に救われた。一件落着で異論はなかった。


「伊達先輩。隼もああ言ってるし、オフサイドってことにしましょう」


「は?」


 ぽかんと口を開ける伊達先輩。なぜそんな顔をする?


「蒼真、そりゃ誤用だ。お前意味わかってないだろ」


 隼は顔を引きつらせる。だからなぜそんな顔をする?


「え? 間違えた? ああ、ハットトリックだったな。どうよ」


「ぜんぜんちげえよ、バカ……」


 サッカー部の二人は腹を抱えて笑っている。

 謝罪されたはずなのに、なぜこんな屈辱を味わうんだろう……。


「藤崎、お前って結構面白いんだな。いや、笑ってすまなかった。今回の件はすべて俺に非があった。改めて詫びさせてくれ。――ごめんなさい!」


 後輩相手に深々と頭を下げる伊達先輩。その様子に隼も驚いていた。

 非を認めて謝ることの難しさ、それを実行できる男気は確かに立派だと思った。


「それと……九条!」


「……なにかしら」


 遥さんの表情はまだ頑なで、そう簡単に許すわけにはいかない。そう顔に書いてあるようだった。


「俺はまだ諦めない。何度でも言う。お前のことが好きだ!」


 遥さんはまたかと言わんばかりに深い溜息をついた。


「今それを言う貴方の神経も疑うけど。――でも、そうね。その思いに免じて今回だけは許してあげる」


 遥さんの表情から緊張がほぐれ、穏やかな表情に変わった。それを見て俺もほっとした。


「ほんとかっ! じゃあ、今週末デートにっ!」


「……なんでそうなるのよ。調子に乗らないで」


 ピシャリと言い放つ遥さん。ああ、また眉間に深いシワが……。


「伊達さん、ほら部活行きますよ。皆待ってるんすから! ――ったく、諦めが悪いったらありゃしない……まあ、見習うところもあるかもな……」


 隼は伊達先輩の腕を掴み、ぐいぐいと引っ張って正門に入っていった。


「隼! ありがとなー!」


 俺の声に、隼は手を上げて応えた。


 残されたのは俺と遥さんとしーちゃん。いつの間にかギャラリーも蜘蛛の子を散らすように去って行った。


「じゃあ遥ちゃん、またあとでね!」


 しーちゃんもそう言って手を振って帰っていった。

 ――またね、ではなく、またあとでね?


「遥さん、俺たちも帰りましょう。――ちなみに家庭教師の方ってどんな方ですか?」


 俺の質問に遥さんは楽しそうに目元を緩ませる。


「とても優秀な方よ。TOEICは脅威の960点なの」


「うわっ、そんな点数取れる人なんているんだ!?」


「おまけにとても綺麗でモデルもやっているの。才色兼備って羨ましいわね」


「はあ……遥さんがそれを言うのも変ですがね……でも、それってもしかして」


「ふふ、そう。御影志保さんよ。生徒会選挙の借りを返してくれるんだって」


 悪戯に笑う遥さん。まさかのしーちゃんが家庭教師かあ……。

 ――どう考えても、平穏では終わらなさそうだ。

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