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告られ彼女の守り方 ~偽装から始まる、距離感ゼロの恋物語~  作者: よるひ
6章 夏休み後半

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第230話 肉じゃが

 九条邸での住み込みバイトが始まったが、まだ仕事らしいことはしていない。時刻は十六時を回った。ようやく夕飯づくりという出番がきて、少しほっとした。得意分野なので遥さんを唸らせる料理を作りたいところだ。

 さて、何を作れば喜んでもらえるか……。


 冷蔵庫を確認すると根菜は揃っている。肉は豚バラ肉がチルドルームに入っていたので、これは使いたいところだ。

 後はしらたきが入っていた。


(肉じゃが……普通かな? ここはカレー風味で……いや、初日から変化球は逃げだな。ここは王道で行こう)


 頭の中にメニューが出来上がった。シンプルに和食で勝負だ。


 三回目の訪問で九条邸のキッチンも慣れたものだ。早速、根菜の皮を剥き水に浸す。豚バラ肉を鍋で軽く炒めてる辺りで遥さんがやってきた。

 さっき風呂場でやらかしてしまったので気まずさが残っていたが、遥さんは恥ずかしがる素振りもなく、こちらを見て感慨深げに微笑んだ。


「蒼真くんがキッチンで料理している姿が……なんだか不思議ね」


 まだ湿っている髪をバスタオルで拭いながら遥さんが言う。


「はは、これから毎日ですからね。すぐに見慣れますよ」


 風呂上がりの火照った肌に、部屋着らしい白いスウェットの上着とハーフパンツを履いている。露出が多いわけではないのに、どこか艶っぽく見えた。

 ――そのスウェットの下にはさっき見た肌色が……いかん、そういう目で見ては駄目だ。


「その……さっきはごめんなさい。これからは……気をつけます」


 俺の謝罪に遥さんは恥ずかしそうに視線を逸らしながらも笑顔を向けてくれる。


「一緒に住むんだもの、それぐらいのことはあるわ。私の方こそ、大きな声を出してごめんなさい」


「いえ、悪いのは全面的に俺なんで、謝らないでください……」


「ふふ、もうこの話はお終いにしましょう。研修中は……ほら、一緒にお風呂にも……入ったじゃない」


 そう言って頭を拭いていたバスタオルで顔を隠す遥さん。


「ああ、あのときは本当に緊張しました……お互い水着だったけど、遥さんの肌がすごく綺麗で……」


 俺の言葉に遥さんは照れを隠すように睨んできた。


「もう、蒼真くんはたまに悪い男になるのね。ホント注意しないといけないわ……」


 ため息混じりに俺のそばまで来た。キッチンの様子を確認し、鍋と根菜を見てうんうんと頷いた。


「何作るのかなって楽しみにしてたけど、私が作ろうとしてたものと一緒みたいね。ふふ、気が合ったみたいで嬉しいわ」


 肉じゃがなのは一目でバレてしまったようだ。もっとも奇を衒うつもりもない。


「まあ初日なんで、正攻法でいかせてもらいました。お口に合えばいいですけどね」


「きっと蒼真くんなら大丈夫よ。じゃあ部屋に戻ってるわね」


 そう言って二階に上がっていった遥さん。期待に応えられたらいいのだが。



 炊飯器からふわっと優しい香りが漂う。炊き上がりのメロディーが流れたところで料理が完成した。タイミングは完璧だ。


 テーブルに湯気を立てながら並ぶ品々。今日のメニューは肉じゃが、だし巻き卵、ほうれん草のおひたし、豆腐と油揚げとネギのお味噌汁。和食の基本みたいなメニューだ。ある意味これはテストみたいなものだ。雇い主に気に入ってもらえるかドキドキする。

 ふと、足元に擦り寄る黒い影が。


「にゃあ!」


「あっと、ごめんごめん、きみのご飯もあげないとね」


 クロちゃんには高そうなキャットフードの缶詰を皿に盛る。


「クロちゃんは幸せだね。あんなに綺麗な御主人様に可愛がられて美味しいご飯を毎日食べれて」


 そんな俺のつぶやきにクロちゃんは、「にゃっ!」と相槌を打った。


「はは、お利口さんだね。さあ俺たちもご飯だ。せっかくの料理が冷めちゃう」


 遥さんを呼びに行こうと思ったところで階段を降りてきた。


「いい香りに我慢できなくて降りてきちゃった。ちょうどいいタイミングみたいね。あら、クロもご飯貰ったのね。ありがとう蒼真くん」


「いえいえ、では、ご飯をよそりますね。お席にどうぞ」


 遥さんは、「はーい」と嬉しそうに席につく。彼女のご飯茶碗は可愛い黒猫のイラストが入ってるのですぐにわかった。


「さあ召し上がってください。お口に合えばいいですが」


「ふふ、楽しみだなー。ではいただきます!」


 遥さんは嬉しそうにほうれん草のおひたしから手につける。口に入れて納得したように頷く。

 その様子にホッとしたところでお味噌汁をテーブルに並べる。

 俺もご相伴に預かることに。


「いただきます」


 まずは肉じゃが。この料理はじゃがいものコンディション次第なところもある。緊張しつつ、じゃがいもを一口大にわけて口に運ぶ。ほどよいホクホク感があり、しっかり染み込んでいる。俺としては納得の仕上がりだが、遥さんの反応はいかに。


「うん、美味しく出来てるわ。やっぱり蒼真くんは上手ね。面取りも丁寧だし、味付けも私好みで嬉しい」

 

「よしっ! ありがとうございます!」


 思わず小さくガッツポーズをとってしまった。それを見た遥さんがクスクスと笑った。


「やだ、蒼真くんったら、そんなに気にしてたの? 私はきみが作ったものならなんでも美味しいって思えたよ。でもこれは本当に美味しく出来てる。合格よ」


 芝居がかった仕草で人差し指をピンと立てる遥さん。そのお茶目なリアクションに俺も頬が緩んだ。


「よし、じゃあ毎日合格を貰えるように頑張りますね!」


「うんうん、ていうかこのだし巻き卵が……ちょっとすごすぎ……なにこれ、とっても美味しい……」


「ふふ、ちょっとした技を使ったんです。コツは……」


 俺と遥さんは料理が趣味なところも話が合う。

 そんな話や学校の話など、話題が尽きないまま食事を終えた。


 今頃、羽依と美咲さんもご飯を食べてるかな。俺がいなくて寂しくないかな。ふとそんな考えが頭によぎる。


(そういや自分の両親のことはまったく思い出してなかったな……。俺の家族はあの人達のほうが今はしっくりくる)


 自分の思いに苦笑いがこぼれた。

 今は本当の姉と雇われの立場ではあるけど二人暮らしだ。我ながら、ずいぶん不思議な人生を歩いてるなと思った。



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