第23話 雪代羽依
――ばか、本当にばか。蒼真なんて嫌い。
隣でぐうぐう寝ている蒼真の顔をじっと見る。
「なんで好きになっちゃったのかな……」
――もちろん理由はある。
お父さんに似ていた藤崎蒼真くん。
初めてみた時ホント驚いた。
入学式の日に初めて会ったんだ。
お父さんに似ていたうえに、どことなく可愛かった。
同じクラスになった。
隣の席だって。
ちょっと顔がニヤけちゃう。
これって運命かなって。
でも、男の人は怖かった。中学の時にあった、男の人の付きまといとか本当に怖かった。私の噂を聞きつけて、家の前で私を連れ去ろうと待ち構えていた男たちがいた時もあった。大人だったと思う。
お母さんが店からすぐに飛び出して、一瞬で制圧してたっけ。
どこかに電話したら、すぐに黒いワゴン車が来て、その男たちは連れて行かれてた。どうなったかは判らない。
元々苦手だった男の人がさらに苦手に。
高校に入ってからも、うまく話すことはできなかった。
でも、藤崎くんだけは何故か怖くなかった。
お父さんに似てるってのもあるけど、なんか可愛い。
自己紹介のとき噛み噛みだったのも可愛かった。
授業中にぼーっとしてる姿も可愛かった。
前の席の子と楽しそうに話している姿も可愛かった。
――気がつけば、ずっと目で追っていた。
ちょっと勇気を出して話しかけてみよう。
――それから藤崎くんとは仲良くなれたんだ。男の人は相変わらず、苦手なまま。でも、藤崎くんだけは大丈夫。
好きってことなのかな……なんてずっと考えてた。
たまに一緒に帰ったりするのがすごく楽しかった。
藤崎くんは私のこと、どう思ってるんだろう。
嫌われてはいないと思う。だってすごく楽しそうに話してくれるし。
好きなラノベの話をよくしてくる。私はあまり興味ないけど、とても楽しそうに、早口でしゃべってくる。
たまに気持ち悪いことも言ってくる。その度に私は一歩引いて薄い笑みを浮かべる。その顔をすると藤崎くんはシュンとなってしまう。可愛すぎる……。
――私が高校に入学して、度々行われた告白まがいのセクハラ。その度に男の人に嫌気がさすけど、校舎裏で捕まったときは本当に身の危険を感じた。無理やり膝の間に入り込んできて、キス顔でぐっと迫ってきた時、私は絶望を感じた。
その後ろで藤崎くんが近づいてきた時、私を助け出した時、こんなに嬉しいことは今までなかった!
こんなの好きになっちゃうに決まってる!
家まで送ってくれたっけ。お母さんが町内会の旅行に行ってるのをすっかり忘れて途方に暮れた私に、うちに泊まっても良いよだって。
んふ、これはチャンスじゃない!?
一人でいるのが怖いのは本当だった。連れ去られそうになったこともある身としては、今の精神状態で一人でいるのは辛すぎた。
でも、私の大好きな子が泊まりにおいでだって。
気合い入れておめかしして、絶対告白してもらうんだ!
一緒にご飯食べたりゲームしたり。すっごい楽しかった!
名前で呼びあえるようになった。一気に距離が近づいた気がした。
「一緒に寝ようか」だって。私のこと好きなのかな? でなければそんなこと言わないよね……?
いいよ、蒼真なら……。
――「俺と付き合わない?」
そう言ってくれた蒼真。嬉しい……。
――でも、そうじゃない。
そんな告白嫌すぎる……。
なんで!?
なんで私が、好きな人に、憐れみなんかで付き合ってもらわなきゃいけないの!?
偽装だなんて……そんなの、私が欲しかった関係じゃないのに!
ねえ……酷いよ……。
悔しくて、情けなくて、悲しすぎて――泣いた。止まらないほどに。
全ては私に変な噂を鵜呑みにして迫ってくる、馬鹿な男たちのせいだ!
悔しすぎる……。学校で勉強するのが好きなのに、行きたくなくなるのが本当にいやだった。
――もう私のことは放っておいてほしかった……。
……。
――気がつけば蒼真もボロボロ泣いてた。
私はちょっと可笑しくなっちゃった。
……。
私のこと、大事にしたい。守りたい。その温かい気持ちが痛いほど伝わってくる……。
どうしてこんなに優しいんだろう。
愛しい思いで胸が張り裂けそう。
ああ、やっぱり私は蒼真が好き。愛してる。
どんな形でもいい。ずっと一緒に居たいよ……。
私は蒼真の提案に乗ることにした。
……私の初めてあげようか?
そんな恥ずかしい事言ってみたけど、食いついてこない。
このへたれめ! 絶対私に振り向いてもらうんだから!
――夜中、私は蒼真にちょっとだけ悪戯してすっきりした。
……。
――いま、こうして隣でぐうぐう寝てる蒼真を見て思うのは、やっぱり好きだなあってこと。
また今夜もいっぱい悪戯してから寝ようっと。
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