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告られ彼女の守り方 ~偽装から始まる、距離感ゼロの恋物語~  作者: よるひ
6章 夏休み後半

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第227話 トレーニングルーム

「そういや遥さん、ゲストルームをトレーニングルームにするって話はどうなりました?」


 よくぞ聞いてくれたと言わんばかりに口角を上げ、斜め下から見上げてきた遥さん。その芝居がかった様はちょっと悪役っぽいなと思ったがそんなことは絶対言えない。


 以前、志保さんが来たときに思いつきで決めたことだった。お嬢様的決断力にひたすら驚いたがその後どうなったのか。


「ふふ、もう完成してるわよ。見に行く?」


「はい! 是非!」


 ジムには興味があった。けど、そんなの贅沢だと自分に言い聞かせていた。それが家にあるなんて最高だ。胸の高鳴りを抑えるのに一苦労だった。


 彼女の話では、単に機材を置いただけでないらしい。二階のゲストルーム一室を、まるっと改造したそうだ。一体部屋の状況はどうなっているのだろうか。勿体ぶるように遥さんが扉の前で立ちふさがる。


「初めては蒼真くんと一緒にって思ってね。まだ何も手を付けていなかったの。さあ、どうぞー!」


 やたらとテンションの高い遥さんがなんとも可愛らしい。俺への気遣いにも嬉しさと気恥ずかしさで顔がやたらと熱くなってきた。


 期待に胸を躍らせ部屋に入る――。


「うわあ……やっば……ホントにジムじゃないですかこれ……」


 部屋全体は鏡張りになっている。設備はパワーラック、ランニングマシン、スピンバイク、ケーブルマシン、ヨガマット、バランスボール、さらにウォーターサーバーに大きいテレビまで備わっている。涼やかな観葉植物まで飾ってあり、それはまさにイメージしていたトレーニングジムだった。


「せっかくだから少しトレーニングしてみる? 私もまだ使ってなかったから楽しみだわ!」


「あー、そうしたいけど、この格好じゃ……」


 白いシャツに厚手のデニムを履いていた。さすがにスポーツをする格好ではないよな。


「私がそんなの準備してないって思ってる?」


 そう言って破顔する遥さん。小走りに自室に戻り大きな紙袋を持ってきた。中にはジャージとタオルが入っていた。

 早速中を取り出しジャージを掲げてみる。どこかで見覚えのあるロゴだ……。


「うわっ、かっこよ……って、このジャージ、めっちゃ高かったでしょ……」


 普通のスポーツブランドではなくストリートブランドだと言うことは知っている。そして俺だったらまず選択肢には入らない。そんな値段だったはず。


「よく分からないけど、デパートで目に止まったの。蒼真くんに似合いそうだなって!」


 とても嬉しいし感謝しかない。けど、値段を考えると身が竦む。――だめだ……このままでは俺の感覚も麻痺してしまう。


「こんな良いもの……本当にありがとうございます。 でも、次は俺と一緒に買いに行きましょうね……」


「ええ、一緒に買い物に行くのもとても楽しみだわ」


 溢れんばかりの笑顔を浮かべ、さらにご機嫌になった遥さん。

 そんな彼女を見てるとこっちまで幸せな気分になる。

 でも、庶民的金銭感覚も覚えてもらわないと先々苦労しそうだ。


 それにしても、こんなの着て筋トレって……果たして許されるのだろうか。

 そう思いながらもせっかく用意してくれたものだ。裸でするわけにもいかないので恐る恐る高級ジャージに袖を通す。

 鏡を見てクルッと回る。白く大きなロゴがとても格好良いが、どうしても身の丈にあってない気がしてしまう。

 でも正直言えば、やはり嬉しい。――なんとも複雑な思いだ。


 遥さんも運動できる格好に着替えに自室へ向かった。


 ほどなくして戻ってきたが、そのウェア姿に目が釘付けとなった。


「どうかな? あまりこういうのを着て運動したことないんだけど、体のラインが見え過ぎちゃうわね……少し恥ずかしいわ」


 少し頬を赤らめる遥さん。ピンクの薄手のパーカーの下にタイトな白いウェア、グレーのタイトなレギンス姿がなんとも艶めかしい。


「いやあ……とっても似合ってます。まあ俺にとっては目の保養になりますね……」


 そんな俺の言葉に彼女の頬の赤みがぐっと増した。


「喜んでくれたなら嬉しいけど……その、あまり見ないで……」


 恥じらう姿がまたとても可愛い。可愛すぎる。


 ――もし遥さんが実の姉じゃなかったら、俺はこの環境で我慢し続けられたのだろうか。

 自分の意思の弱さを感じつつ、肉親であることに感謝もした。


 少し妙な空気を纏いつつ、トレーニングを開始することに。とは言っても運動器具の使い方が分からなかった。


「駿兄さんからこれを見て使い方を覚えろって言われてるの。まずは座学ね」


 持っていたDVDをデッキにセットし、ヨガマットに座り鑑賞する。――少し距離が近すぎるので妙に意識してしまう。

 なにげなくテレビを見つめる横顔に、思わず視線が吸い寄せられた。


 涼し気な目元に筋の通った鼻梁。髪はヘアバンドで纏めてある。白い首筋から普段見えないうなじがなんとも色っぽい。スレンダーかつ女性らしくもある体型。そしてパーカーの隙間からわずかに見える胸の谷間――思わず視線を逸らす。

 とにかく美人すぎる姉だった。

 ……いかん、DVDに集中しなくては。


 内容は器具の取り扱い方と負荷の目安、効果的なトレーニング方法、あとは講師の筋肉自慢だ。痩せ体型の俺にはなんとも羨ましいため息の出るような筋肉美だった。


 講師の男性に比べたら、俺の体はまだまだ貧弱だ。夏の旅行のときには『発展途上』なんてあだ名で揶揄われたことを思い出す。あれはちょっと悔しかった……。


「すごいわね……あれだけの筋肉をこの器具でつけられるのかしら……」


 感心した様子の遥さんが俺に聞いてきた。


「どうでしょう、まあ頑張り次第でしょうね。遥さんはマッチョな男性が好きなんですか?」


 俺のつまらない質問に遥さんはスッと目を細める。


「私の好みかあ……こっちのほうが好みかな」


 そう言って俺のジャージのはだけた胸元にそっと指先をあてる。

 急な接触に体がビクッと硬直した。


「蒼真くんもしっかり鍛えてるわ。私はこの飾らない筋肉のほうが好き」


 指先から指の腹に替わり、胸元の筋肉を確認するように押して触る。その感触がくすぐったく、ぞくっとしてしまう。


「遥姉さん、そんな触り方したらだめです……くすぐったくて鳥肌立っちゃいました……」


「あっごめんなさい……ちょっと夢中になっちゃった……」


 顔を真っ赤にして手を引っ込めた遥さん。


 ――もしかして遥さんは天然? はたまた無自覚小悪魔属性だとか。

 しっかりものの完璧お姉さんなイメージだったけど、妙な疑惑が沸いてきた。

 そういや自分のこと“迂闊”だとよく言ってたっけ……。



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