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告られ彼女の守り方 ~偽装から始まる、距離感ゼロの恋物語~  作者: 鶴時舞
2章 穏やかな日常へ

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第21話 可愛い看板娘

 今日からバイトだ。

 キッチン雪代の営業時間は、平日は昼と夜の二部制。

 夜は開店17時、ラストオーダーが20時。

 バイトの終了時間は20時半だ。


 ただし金曜日だけは例外で、22時まで営業している。

 この時間帯は、お酒目当ての大人たちが集まってくる時間だ。


 とはいえ、俺たち高校生は20時半までの勤務。

「お酒を出す時間に、高校生を働かせるわけにはいかない」

 というのが、美咲さんのポリシーらしい。


「ただいま~」


 週末の夜は早い時間から大混みだ。さすが人気店。


「おかえり! 早速だけど、まかない食べたら手伝っておくれ。蒼真、今日から従業員だからね、名前で呼ばせてもらうよ」


「はい、お願いします!」


 美咲さんはニコッと笑ってウィンクしてくる。ああ、美人すぎる。


「今日はまだ仕事覚えてないからね、皿洗いから頑張ってもらうよ」


「わかりました!」


 まかないは厚切りカツサンド。さっと食べられてボリューム満点な一品だ。めちゃくちゃうまい!


 ゆっくり味わいたかったが、急いでまかないを食べ終えた。

 厨房に入り、皿を洗い始める。油をよく落としてよく濯ぎ、拭き上げる。


「丁寧だね、なかなかやるじゃないか!」


 美咲さんが、ぽんと肩を叩いて褒めてくれる。振り返ると、はち切れそうな笑顔を俺に向けてくれる。やっぱり親子。似てるなって思った。


 羽依も将来美咲さんみたいな、とてつもない美人になるんだろうな。今も美人だけど。


 羽依が着替えて姿を見せた瞬間、俺の心臓がドクンと跳ねた。


「羽依、似合うじゃないか、私が昔着てたチャイナ服」


 美咲さんはニヤッと笑い、羽依のおしりをぽんぽんと叩く。


「どう、かな? 蒼真」


 羽依は顔を真っ赤にして、俯き加減に俺に聞いてくる。


 露出が特に多いわけじゃないけど、ノースリーブにスリットの深いドレスで、妙に艶めかしい。頭もお団子2つ作って可愛らしいチャイナ娘に変身していた。


「うん、すっごく似合ってる。好き」


 俺の言葉に羽依はさらに顔を赤らめた。

 その姿があまりにも可愛くて、思わず見惚れてしまう。

 その様子を見ていた美咲さんが「ふふん」とニヤニヤしながら眺めてくる。


 常連のお客さんらしき人たちも、羽依の姿を見て「羽依ちゃん可愛いね!」とか、みんな褒めてくれている。


 その言葉に羽依は恥ずかしがりながらも、「ありがとう! チャイナ羽依ちゃんは本日限定だよ~」なんてポーズを取ったりして愛想を振りまいていた。まさに看板娘だった。


 学校では男の子と話すことはあまりないが、お店では、気心の知れた常連さんたちや、美咲さんが一緒ということもあり、にこやかに接客していた。その様子は見習うところがとても多く、優秀なバイトの先輩だった。



 時間はあっという間に過ぎ、バイト終了時間になった。めっちゃ忙しいなこれ。皿洗い以外も手を出したかったが、まだ不慣れな俺には厳しかった。


「十分だよ蒼真、すごく頑張ってるじゃないか。今日はもうちょっと残ってほしいんだけど、店が終わるまで大丈夫かい?」


「はい、明日は休みですし、何時でも大丈夫です!」


「じゃあ上で羽依の相手してあげておくれ、蒼真の部屋も作ってあるから見てくると良いよ」


 へ? 俺の部屋?


「蒼真、こっちきてね」


 羽依は俺の手を引っ張り3階へ上がる。


 羽依の家は1階が店舗で2階3階が住居スペースになっている。結構広い家だった。2階はリビング、キッチン、風呂と美咲さんの部屋がある。3階は羽依の部屋と俺の部屋?


「羽依、俺の部屋ってなに?」


 羽依は悪戯な顔をして俺にくっついてくる。


「元々はお父さんの部屋だったんだけどね、蒼真に使ってもらうよう整理したんだよ。ベッドも新しく買ってあるの。いつでも泊まれるよ」


「へ? 泊まる前提なの?」


「そうだよ?」


 きょとんとした顔の羽依。いやいや、え? おかしくない?


 俺の部屋? に通される。


 ちょっと広めな書斎のような部屋だ。本棚には難しそうな本が並んでいる。心理学や教育関連の本が多い。


 机の上には3つの写真立てがあった。老夫婦とお父さんらしき人の家族写真と、これは、小さい頃の羽依の写真か。小さい頃からめちゃくちゃ可愛いな。


 お父さんと美咲さんらしき人の写真も飾ってあった。お父さんは、とても誠実で優しそうな雰囲気だった。こっちは美咲さんだよな?……金髪で濃いめの化粧をしている。様子悪すぎ。元ヤン?


「あ、写真片付けてなかったね。お母さんすごいでしょ? 元ヤンなんだよ~」


 羽依はけらけら笑っている。その後、お父さんの写真を見てつぶやく。


「お父さんね、私が小さい頃に病気で死んじゃったんだ……。すごく優しかったんだよ」


 少し寂しそうな表情をする羽依の頭を、ぽんと撫でた。俺のその手を取り、頬にあてがう。


「――蒼真ね、お父さんに似てるんだよ。初めて蒼真を見た時、驚いちゃったんだから」


 大好きなお父さんの話は何度か聞いたけど、似ているという話は初めて聞いた。写真を見ると、うーん。似てるかなあ? というのが正直な感想だった。


「なんとなくね。よく見ればそりゃ違うんだけど、なんだろう。空気感とかかな。お母さんも最初に見た時びっくりしてたんだよ」


 美咲さんと初めて会った時のことを思い出す。『羽依、この子もらっていい?』とか言ってたの。そういうことだったのか……。


「蒼真、この部屋気に入った?」


「うん、でも俺にはもったいないっていうか、この部屋使う機会あるのかな?」


 ふと微笑んだ羽依。その表情は妖しくも艶めかしい、捕食者のようだった。

 羽依は俺の首に手を回し抱きついてくる。


「今日泊まっていこ? 一緒にお風呂はいって、いっぱいキスして、一緒に寝よ?」


 羽依の言葉に――頭が真っ白になった。

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