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告られ彼女の守り方 ~偽装から始まる、距離感ゼロの恋物語~  作者: 鶴時舞
6章 夏休み後半

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第207話 主夫系男子の本領発揮

「蒼真、朝はごめんね。ちょっと意地悪言っちゃったかも」


 放課後、羽依が気まずそうな表情を浮かべて俺にぺこりと頭を下げた。

 その素直さは俺の抱えていたモヤモヤをスッと晴れやかにした。我ながら単純だなって思う。


「あはは、じゃあ志保さんの怪我が治らなくても帰っていいんだね」


「……ばか、意地悪」


 ぷいと俺に背を向ける羽依を今すぐ後ろから抱きしめたい。

 でも残念ながらここは教室内でクラスメイトが俺たちの様子を見ている。


「ぎゅってするのかな」「バックハグだよ」「ほらっ押し倒せ!」


 ……無責任なノイズを無視し、衝動をぐっと堪える。


「今日はバイト休んでごめんね。真桜にも謝りたかったけどすぐに教室を出て行っちゃったね」


「うん、さっさと生徒会の仕事終わらせてくるってさ。真面目だよね~」


「真桜らしいよね。今日は泊まっていくのかな?」


 俺の問いに羽依は笑顔で頷いた。


「泊まっていくって言ってたよ。楽しい週末になりそうだね~。蒼真は何時ぐらいに帰れるかな?」


「ん~……志保さんのリクエストでハンバーグを作るって話になってるんだ。一緒に食べてから帰るとしたら十九時ぐらいかな?」


「だったら自転車は蒼真が使ってね。このまま行くんでしょ?」


「そのつもりだったからありがたい! このお返しは近い内にね」


「んふ、楽しみにしてるね。志保さんによろしくね!」


 羽依の優しい言葉と厚い信頼が胸に刺さる。いい彼女だよな……。

 真桜も俺のバイト代行のために生徒会の仕事を頑張ってくれるんだな。

 二人の思いに感謝しつつ志保さんの家に向かう。


 ――その前に買い出ししないとだな。そういや志保さんの家には何があるんだろうか。米とかあるのかな?


 志保さんにLINEを入れてみよう。


 蒼真「学校終わりました。食材を買ってから向かおうと思います。おコメとか調味料はありますか?」


 送信後にすぐに既読がついた。退屈してたのかな?


 志保「蒼真くんお疲れ様! 調味料だけはあるの。ほかはごめん……宅配ピザでもいいよ」


 蒼真「リクエストには応えたいのです。では適当に買ってから行きますね」


 志保さんからありがとうと流行りのゆるキャラのスタンプが返ってきた。


 そんなわけでマンションそばのセレブ御用達の高級スーパーにやってきた。どの品も普段行ってるスーパーの倍はする気が……。でも売っているものは見るからに良いものだ。早く怪我が治るようにこの際だから奮発しよう。

 米もパックご飯よりも炊きたてのが確実に美味い。


 ――少し多めに炊いて明日の朝食のおにぎりと冷凍ストックも作っておけば便利かもな。


 必要なものを買い揃えてマンションへ向かう。

 受付のコンシェルジュさんは今朝の方だった。

 俺を見てニコッと微笑んでくれた。


「こんにちは。◯◯号室の御影さんのところに行きたいんですが」


「はい、伺っていますよ。連絡を入れますので少々お待ち下さい」


 丁寧な対応に背筋が伸びる思いがした。

 ――こういう接客業ってのも色んな人と会えそうで楽しそうかもしれないな。セレブの相手は大変そうだけど。


 そんな考えを巡らしている間に連絡を終えたようだ。


「藤崎様でいらっしゃいますね。確認が取れましたのでどうぞ」


 軽く会釈をして受付を後にする。

 エレベーターはダークな木目調の装飾で格式の高さを感じる。セレブなマンションはところどころで庶民を威嚇してくる。


 部屋の前に着きインターホンを鳴らす。

 すぐに鍵の開く音が聞こえた。


「どうぞ、入ってね~」


 ドアを開け室内に入ると志保さんが出迎えてくれた。可愛らしいキャラものの部屋着がとても良く似合ってる。デコルテが見える緩めのトレーナーにハーフ丈のパンツ姿。

 スレンダーなスタイルがとても素敵だけど、足首は痛々しく包帯が巻かれていた。


「あれ、動いて大丈夫なんですか? まだ安静にしてないと……」


「大丈夫、美樹ちゃんとお医者さんに行ってきたんだ。やっぱり捻挫だね。骨は異常ないって。だからほら、何とも……痛っ」


 志保さんは足をとんと床に突いて痛そうに顔をしかめた。


「……だめですよ。ほら、ソファーに座るかベッドで寝ててくださいね」


「はーい」


 苦笑いを浮かべながら志保さんは素直にソファーへ座った。


 リビングは今朝来た時と同じ乱雑さだけど何となく違いを感じた。


「志保さんもしかして片付けしてました?」


「あー……うん。でもあんまり変わってないよね……」


 物が右から左に移動しているだけだ。典型的な片付けの苦手な人だな。


「無理しちゃだめでしょ。少し片付けてからご飯の支度しますね。それでいいですか?」


 志保さんはこくこくと首を縦に振る。


 さて片付けの開始だ。

 正直、この惨状を片付けるのはけっこう楽しみだった。

 作業時間は大体一時間程度。果たしてどれだけ綺麗になるかな。


「ゴミはちゃんと分けて捨てましょうね。分別表を壁に貼っておくと迷わないですよ。雑誌は気になる記事だけスクラップしてあとは思い切って処分。脱いだ服は一旦ストッカーへ入れましょう。踏んだら怪我の元ですからね」


 なんて言いながら手と足をフル稼働。最後に掃除機をかけて汚部屋からある程度見られる部屋に生まれ変わった。


 志保さんはぽかーんと見ていた。


「すごい……魔法みたい。蒼真くんって何でも出来るんだね!」


 目を輝かせて俺を褒め倒す志保さん。さすがにその反応は照れくさい。


「いやいや、コツを知っているだけです。志保さんも生ゴミの処分とかはちゃんと出来てたんだから、やり方さえ覚えれば大丈夫ですよ」


「うん、そうだね。一人暮らしなんだもの、出来るようにならないとね。よし、頑張ってみる!」


 何やらやる気をだした志保さんだけど、今は怪我を治すことに専念してもらいたい。


 さあ次は晩御飯の支度だ。

 キッチンに向かい機材と食材を確認する。必要なものはすべて揃っていた。

 あとは俺のハンバーグを気に入ってくれたらいいけどな。


 ――自信? もちろんある。


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