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告られ彼女の守り方 ~偽装から始まる、距離感ゼロの恋物語~  作者: 鶴時舞
6章 夏休み後半

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205/262

第205話 志保さんの部屋は……

 早朝、運動公園でジョギングの最中に捻挫した志保さんをタクシーに乗せて家まで送ることになった。


 助手席で同行している飯野さんが振り向いてニヤニヤしている。きっといやらしいこと考えてるんだろうけど、今更なので無視しておこう。


「蒼真くんさ、何か失礼なこと考えてない?」


「いえまったく」


 むくれたような顔で飯野さんがタクシーの運転手さんに道案内をする。

 目的地はそれほど遠くはなさそうだ。


 到着したのは見覚えのあるマンション。つい最近来たな……。


「ここって燕さんが住んでいるマンションですよね? 」


「そうだよ~。今年から住み始めたんだ」


 アパートに引っ越したぐらいのノリで語る志保さん。

 ――俺の知り合いはセレブだらけだな。


 足をかばいながらタクシー降りて俺の肩につかまる志保さん。まだ痛みはありそうだ。


「大丈夫ですか? また抱っこしますよ」


「え~……これ以上は悪いからいいよ~」


 遠慮する志保さんだけど、まだ辛そうな表情を浮かべている。


「全然かまいませんよ。無理して悪化したら大変ですし」


 そう言ってまた彼女をお姫様抱っこする。


「うう……恥ずかしいよ……」


「志保、これでも顔にかけておきな。一応芸能人なんだから身バレしたら面倒でしょ」


 そういって飯野さんは白いハンカチを顔にかける。


「あ~このハンカチすっごい美樹ちゃん臭がする……すーはー」


「なっ! ……ホント志保ってばもう」


 ――この二人の間柄もなかなか濃そうだな。


 そんなことを考えつつエントランスホールに入る。

 俺たちをみた受付のコンシェルジュさんが驚きの顔を浮かべた。


「おかえりなさいませ。一体どうなさったんですか?」


 不審者と思われては厄介なので状況を説明する。受付の女性はすぐに納得してくれて最寄りの病院の紹介もしてくれた。


「お大事になさってくださいね。ではお気をつけて」


「はい、ありがとうございました」


 タワマンの高階層辺りに志保さんの住んでいる部屋がある。


「両親が投資目的で買ってあったんだけどね。大学卒業まで使っていいって。仕事の兼ね合いもあるからセキュリティー高いほうがいいだろうってね」


「あ~なるほど。確かにここなら安全そうですよね」


「まあ大学入ったら私と一緒に住むって条件もついたんだけどね~。志保一人じゃ危なっかしいって」


 そう言って苦笑する飯野さん。二人でルームシェアか。上の階には燕さんも住んでいるし、なんだか楽しそうだな。


 エレベーターを降りて志保さんの住む部屋の前まで来た。幸い誰かに見られることはなかった。

 飯野さんは志保さんの顔にかけたハンカチを取る。その瞬間、ばっちり目が合ってしまった。

 志保さんが顔を真っ赤にするけど、多分俺も真っ赤になったと思う。顔が熱い……。


 ここまで来ればあとは飯野さんに任せてもかまわないかな。一応俺の役目は終わったようだし。


「さすがに部屋に入るのは悪いし、俺は学校行きますね」


「え、あ……うん、ありがとう……蒼真くん」


「ちょっとまって! 蒼真くん、ここまで来て帰っちゃ逆に失礼よっ! もうちょっと介添えしてあげないとだよ!」


 なぜか怒り出す飯野さん。

 まあ言われてみれば確かに薄情だったのかも。家の中まで送り届けるか。


「じゃあすみませんが志保さん、お邪魔しても良いでしょうか」


 志保さんはこくこくと首を縦に振った。


「ちょっと散らかってて恥ずかしいけど、どうぞ……」


 緊張しつつ、入口のドアを開ける。


「お邪魔します~」


 部屋の作りは燕さんの部屋と似てはいるけど、全体的にコンパクトにした感じだ。間取りに違いがあるんだろうな。


 ただ、それよりも目に付いたのは部屋の惨状だった。


 脱ぎ散らかした服や雑誌類。溜まったゴミ袋。

 キッチン周りも使った食器がそのままで置いてある。


 ――ちょっととは?


「志保さん、今年から住み始めたんですよね……」


「ごめんね、引いたよね……。片付け苦手なの」


 おっといけない。つい気持ちが顔にでてしまったようだ。

 きっと忙しくて片付けまで手が回らないんだろうな。そんな彼女を傷つけてしまっただろうか……。


「……志保って、ここまで片付けできない子だったっけ? 」


 飯野さんも予想外だったらしく、目を丸くして固まっている。


「だってママがいないんだもん」


 すねたように口をとがらせてつぶやく志保さんがやけに子供っぽかった。

 ――そうだよなあ。ママが居ないなら仕方がないよな。


 ソファーまでどうにか辿り着き、志保さんを横に寝かせた。

 テーブルの上に救急箱が置いてあったので中を確認すると湿布が入っていた。


「湿布とテーピングをしておきましょう。後で病院に行って診察してもらいましょうね」


「うん、ホントありがとうね……」


「いえ、誘った俺の責任もありますから。……仕事に影響しなければいいですけど」


「それは大丈夫だよ。大学入学まで仕事はお休みさせてもらってるの」


「それならまだよかったのかな。とりあえず一旦これで帰ります」


「ありがとう蒼真くん。何もお構いできなくてごめんなさい。羽依ちゃんによろしくね」


 少ししょげた顔がやけに胸に刺さった。

 ――もう少しだけ手助けしようかな。


「放課後にまた来てもいいですか? 部屋の片付けをしないと足元危なそうだから」


 俺の言葉に志保さんがぱっと花が咲いたように明るい表情を浮かべた。


「ごめんね、じゃあお言葉に甘えても……良いかな」


「はい。ついでに何かご飯も作りましょうか。ある程度のリクエストには答えられると思いますよ」


「じゃあハンバーグ! 私ハンバーグ大好きなの!」


 大きな目をキラキラさせて志保さんが言った。よっぽど好きなんだな。――よし、決まりだ。


「ふふ、任してください。とびっきりのハンバーグを提供しましょう」


 こうして志保さんの家にまた来ることになった。

 本気ダッシュをすれば学校にはまだギリギリ間に合いそうだ。

 後はみんなに状況を説明して、協力を得られるか確認しないとだな。

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