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告られ彼女の守り方 ~偽装から始まる、距離感ゼロの恋物語~  作者: 鶴時舞
6章 夏休み後半

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第204話 アクシデント発生

 金曜日の早朝。

 まだ外は薄暗く、底冷えする寒さの中、俺と先輩たちは運動公園に集まり準備体操をしていた。


「さーむーいー! もう走ろうよ!」


 飯野さんがガタガタ震えながら不満をもらす。


「だめですよ。ちゃんとストレッチして筋肉ほぐさないと怪我しますよ。真面目に準備体操すれば十分にあったまりますから。ほら、志保さんを見習って」


 志保さんは息を切らせながらしっかりと屈伸運動をしていた。

 彼女のモデルならではのスラッとした脚線美に思わず目を奪われた。


「ふふ、美樹ちゃんらしいね~。私はたまに走ってたからね。この時期はまだ外は暗いから怖いけどさ、蒼真くんと一緒なら安心して走れるね」


 そう言いながらストレッチを一生懸命する志保さん。頬がほんのり桜色に色づいて息遣いがなんとも艶っぽい。ホント綺麗な人だなって思う。


「正直一週間ジョギングに付き合ってくれるなんて思わなかったですよ。誰かと走るのって楽しいですね」


「それなら羽依ちゃん誘えばいいじゃん。あれだけ運動神経良いんだからさ、走るのも得意じゃないの?」


 飯野さんは何気なく言うけど、確かにそうなんだよな。でも……


「俺も何度か誘ったんですけどね。『寒いからヤダ』って。無理強いすることでもないですし……」


「私たちには無理強いじゃなかったの?」


 口をとがらせ不満そうに飯野さんがぼやく。


「飯野さんはともかく、志保さんは純粋に走りたいようですね」


「そうだね~、私は運動好きだし。美樹ちゃんは活発そうに見えて文学少女。ギャップすごいよね~」


 楽しそうに笑う志保さんを恨めしそうに見つめる飯野さん。

 まったく……誰のせいで走ることになったのか、もう忘れてそうだ。


「さあ、体があったまったところで走りましょうか。いつもみたいに俺はロングコース。二人はショートコースで。じゃあ途中まで一緒に走りましょう」


 普段は街中を走るけど、先輩たちと一緒に走るなら大きな公園のほうが安全だし都合がいい。


 この運動公園はジョギングに最適で、ロングコースは一周6km、ショートコースは3kmと走りやすい距離設定になっている。


「3kmってさ、全然楽じゃないよっ!」


 走り始めはまだ余裕そうな飯野さん。今のうちにボヤきまくるようだ。


「はあっ、はあっ、美樹ちゃん、呼吸乱れると辛くなるよ! がんばろっ!」


 飯野さんを励ましながら走る志保さん。

 二人の様子を見る限り、妙に拗れることもなく仲良しなままなようだ。

 ――俺が心配するまでもなかったかな?


 でも、こうして毎日一緒に走ることで先輩たちともより仲良くなれた気がする。運動ってやっぱ良いな。


 途中の分岐でルートが変わる。二人がゴールしたあとに俺も6kmを走り終えるので時間的にもちょうどいい。


 いつもより距離も短いのでトレーニング強度をあげるために少しだけペースアップをする。


 冬の朝の公園はまだ暗いにも拘らず、俺たちと同じようにジョギングをする人たちが結構いる。みんな健康意識が高いんだろうな。


 しばらく走ると合流地点についた。ショートコース側から飯野さんが走ってきた。

 ――女子のほうが早いはずだけど、何かあったのかな?


 志保さんがいないのと、飯野さんの必死な表情で実際に何かあったことがすぐ分かった。


「蒼真くん、ちょっときて! 志保が転んじゃって足くじいちゃったみたいなの!」


「ええ!? わかりました! すぐ行きます!」


 合流地点から200mほど戻った辺りのベンチで志保さんが座っていた。


「あ、蒼真くん。ごめん、大した事ないの。ちょっと休めば大丈夫だからさ」


 そう言いつつも表情は痛そうに顔をしかめている。


「志保さん、痛むのは右足首ですね。靴脱げそうですか?」


「うん、脱いだほうが良いよね……痛っ」


 自分ではかなり難しそうだ。腫れてるせいだな……。


「すみません志保さん。ちょっとごめんなさい」


一言謝ってから靴紐をほどき、できるだけ緩める。患部に刺激を与えないようにそっと優しく靴を脱がした。


 「え、ちょっと、蒼真くん! 恥ずかしいってば……」


緊急事態なので許してほしいけど、デリカシーがなかったかもしれないと反省する。


「ああ、ごめんなさい……。結構腫れてますね。ちょっとまっててください」


 水飲み場でタオルを濡らしてくる。冬の水のなんと冷たいことか。ただ、患部を冷やすにはちょうどいい温度だ。


「足はベンチの上においてくださいね。高い位置のほうがいいですから」


 いざという時のためのテーピングが役立ちそうだ。

 タオルを患部にあてがいテーピングを軽くまく。


「ひゃっ! 冷たい! でも、気持ちいいね……」


 痛いだろうに無理に笑顔を作る志保さんがとても健気だ。

 人の良さから一週間もジョギングに付き合って、それで痛い思いをしたんだからなんとも可哀想だな……。


「災難でしたね……。骨は大丈夫だと思いますけど、医者には行ったほうが良いですね」


「うん、今日は学校休むね。美樹ちゃんと蒼真くんは学校行って良いよ。もう大丈夫だからさ」


いやいや、どう見ても大丈夫には見えない。飯野さんも首を横に振った。


「志保、今日は私も休むから一緒に病院行こう。蒼真くんはテストが近いんだから学校に行ってね。タクシー呼んだから後は大丈夫だよ」


飯野さんの気遣いが身に沁みるけど、放ってはおけないし男手はあったほうがいいだろう。


「いえ、時間はまだあるから大丈夫ですよ」


 羽依がもう起きてる時間だ。学校には先に行ってもらおう。

 彼女にLINEで事の顛末を伝えた。


 羽依「OK! 志保さんの介護はまかせた! 自転車はもらってくよ!」


 メッセージの後にヘルメットを被った猫が自転車で走り去るというシュールなスタンプを送ってきた。色んなスタンプもってるよな……。


「羽依には伝えておいたから少しぐらい遅れても大丈夫です。それに飯野さん一人じゃおんぶも出来ないでしょ」


「おんぶ!?」


 志保さんが素っ頓狂な声を出して驚いた。


「ああ、ごめんなさい。おんぶは嫌ですよね……それならお姫様抱っこのほうが足に負担はかからないかも」


「おひめっ!? じゃ、じゃあそれでおねがいします!」


 おんぶよりも足が上に来る分患部に優しそうだからな。


 志保さんをそっと抱きかかえてみる。しっとりとした汗ばんだ体に心臓が跳ねる。

 彼女の甘酸っぱい汗と柔軟剤の良い香りが混ざって頭がくらくらしてくる。良い匂いだなあ……。

 それにあまりの軽さに驚いた。一体体重何キロなんだろう……。


「あばば……蒼真くんにお姫様抱っこされちゃった……羽依ちゃんごめん……」


「別にこのぐらいで羽依は怒らないでしょ。このまま志保さんを放っておいて学校に行くほうがきっと怒りますよ」


 羽依は志保さんの大ファンだからな。

 これからもずっと仲良くいてほしいと思ってる。


 それにタクシーに乗せた後、降ろす時も助けが必要だろう。やっぱり俺が行かなくては。


 「自宅まで付き添いしても大丈夫ですか?」


 とても近い顔に戸惑いつつも囁くように問いかけると、志保さんは顔を真っ赤にして首を縦に振る。


「もう、どこへでもお願いします……。美樹ちゃん、ありがとう……」


 なぜ飯野さんにお礼を?

 飯野さんは謎に親指を立ててるし。


 そういった理由で志保さんのお家にお邪魔することになってしまったけど、よく考えれば芸能人のお宅か。一体どんな家なんだろう。

 ――ああ、なんだかやけに緊張してきた。



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