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告られ彼女の守り方 ~偽装から始まる、距離感ゼロの恋物語~  作者: 鶴時舞
6章 夏休み後半

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第203話 因果応報

 月曜日の昼下がり。教室でのんびり過ごしていたらLINEの着信が。

 またもや飯野さんからの呼び出しだ。

 無視しようかと思ったけど、それが出来ないのが俺なんだよな……。

 先週は酷く慌ただしかったから今週は穏やかに過ごしたいと思っていた。そんな矢先の事だった。


 仕方なく。本当に仕方なく談話室までやってきた。

 長テーブルと椅子が4つあるだけの殺風景な狭い部屋の中には飯野さんと一緒に志保さんも居た。

 あまり見ないような神経質そうな志保さんの表情に、ただ事ではなさそうだと息を呑む。


「こんにちは先輩方。今日はどうされました?」


「……美樹ちゃん、ほら謝って」


 険しい表情を浮かべ、冷酷に言い放つカリスマモデルで元生徒会長の志保さん。


「ごめんね……」


 頼りなく、か細い声をしぼる飯野さん。


「聞こえないよ! もっとはっきりと大きな声で!」


「あう、蒼真くん、カラオケボックスではごめんなさい! 反省してます!」


 聞いたことのない志保さんの叱咤に俺が面食らってしまった。


 美人が怒ると怖いと言うのを体現してらっしゃる……。


「飯野さん、志保さんに言っちゃったの?」


「いやあ、うちらがカラオケから出るところを志保にバッチリ見られちゃった」


「あちゃあ……」


 なんともバツの悪そうな表情を浮かべ、しゅんと項垂れる飯野さん。それを見て、ずっと反省していて欲しいなと思ってしまった俺は意地悪だろうか。


「蒼真くんに色々無茶なこと言ったみたいだし。ホント美樹ちゃんが迷惑かけてごめんね……」


「あはは、もう済んだことですから……。俺も触られたお返しをしちゃったし。お互い様ですよ」


「あ、バカっ!」


 慌てた飯野さんをじっと真顔で見つめる志保さん。こころなしか瞳孔が開いているようにも見えた。


「さわ……られた? 美樹ちゃん。まだ私に言ってないことあるんだね。もう怒らないから全部話して」


「もう怒ってるよ! 完全に切れてるよ志保! ごめん、もう許して!」


 飯野さんは正しい。志保さんは怒髪天を衝くってぐらいにキレまくってる。怒りのあまり飯野さんの両肩を掴んでガクガクいわせてる。


 諦め顔で飯野さんはぽつりぽつりとカラオケボックスの出来事を語った。

 結局志保さんに話したのは、俺を呼び出して質問攻めをしたことぐらいで、センシティブないたずらには言及していなかったようだ。


 志保さんは顔を真っ赤にして話を聞いている。恥ずかしそうに両手で顔を隠しながらちらっと俺を覗き見る。

 それがまたなんとも気まずい。

 

「えっと、つまりその、蒼真くんのソーマくんをどうにかしようと……直接触ったの?」


 飯野さんも顔を真っ赤にして頷いた。


 あーもう教室に帰りたい……。何この羞恥プレイ……。


「もう、美樹ちゃんがそんな大暴走するなんて……ホントびっくりだよ! コンプライアンス違反だよ!」


「おっしゃるとおりです。面目ないです……」


 すっかり罪人扱いになってしまった飯野さんが不憫に思えてきた。


「もう、蒼真くんに訴えられても仕方ないんだよ! 」


 志保さんは泣きそうな表情を浮かべている。この辺が潮時だろうな。


「ああ、いえ。もう済んだことだし怒ってませんって。そんな訴えるなんてありえないですよ」


 俺の言葉に上級生二人はほっとした面持ちで深々と頭を下げられてしまった。

 ホントにもう気にしてないのに。


「でも、飯野さんは志保さんには弱いんですね。今度何かあったらすぐ志保さんに相談しますね」


「あまり人を問題児みたいにいわないで……」


 酷く落ち込んだ様子の飯野さん。さすがに少し可哀想に思えてきた。


「ごめんね蒼真くん……」


 志保さんまで項垂れてしまった。彼女はとても落ち込んでるように見える。

 このまま教室に戻ってしまったら気まずいままになってしまいそうだ。せめて仲良しな二人の間が気まずくなるのだけは避けたい。

 どうしたものか……。

 ふと思いついたことがある。即効性があるし、今すぐこれ以上いい案も思い浮かばない。


 「じゃあこうしましょう。みんなで遊びに行きましょうか」


「え~、もういいって。あまり無理しないで……」

「うん……正直そんな気分になれないし……」


 その返事は想定内だ。


「先輩たち何いってんすかあ? 俺に迷惑かけたんだから接待しないとだめでしょ?」

 

 少し生意気かつ乱暴な口調で言ってみる。

 豹変した俺の態度に固まる二人。


「えっと、まあ……そうなんだけど……」

「接待って……何したらいいの?」


 少し悪そうに口角を上げてみる。


「ん~、三人で、思いっきり汗をかくってのはどうですか?」


「え……」

「ちょっと……蒼真くん……」


 頬を赤らめてもじもじする二人。

 どうやら俺の意図が伝わったようだ。

 ふふ、二人をヒイヒイ言わせてやろう……。


 無理に上げた口角がだんだんと引きつってきた。

 悪役ムーブは結構大変だなあ……。



 ――――――


 次の日の早朝。

 総合運動公園に先輩たちを呼びつけた。

 目的は二人の体をいじめ抜くこと。


「ひいっひいっ」


「だめー……もう無理!」


 ジャージ姿の志保さんと飯野さんが地面にへたり込んだ。

 すでに大量の汗をかいていて普段の運動不足が垣間見えた。


「ほら頑張りましょ! まだ一キロしか走ってないですよ! 」


「蒼真くん酷い! こんなの遊びじゃないって!」

「もーっ! 騙したわね! 」


 いい感じにヘイトが俺に向いている。狙い通りだ。


 勉強漬けの先輩たちの運動不足を解消してスッキリさせる。

 俺は誰も裏切ることなく先輩たちと学校外で会える。

 憎まれ役が一人いることで二人の仲も元通り。


 ふふ、まるで現代の諸葛亮孔明じゃないか。

 自分の策略が怖い。

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