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告られ彼女の守り方 ~偽装から始まる、距離感ゼロの恋物語~  作者: 鶴時舞
6章 夏休み後半

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第200話 下着売り場での苦悩

 渋谷の街を、ばっちりメイクの羽依と歩く。

 その完成されたビジュアルは、人混みの中でも一瞬で目を引く。

 彼女と一緒にいることに優越感を覚えつつも、同時に心臓がバクバクだ。

 注がれる視線の量が洒落にならないほどで、落ち着く暇もない。


「蒼真、なんだか顔が怖いよ。私は大丈夫だからさ、もうちょっとリラックスしなよ~」


「え? そんな顔してた?」


「してたしてた。眉毛なんてこんなに吊り上がってた!」


 そうして俺の顔真似をする。端正な顔が思いっきり変顔になるのが羽依らしくて面白いけど、完璧な化粧でそれをやるのはいかがなものか。


「その化粧って自分でもできそう?」


「うん、覚えた。でも完璧に再現するのは難しいかな。普段使わないコスメが多かったからね~」


 ある程度は再現できそうなところが羽依らしいと思った。でも、あまりに綺麗なままだと俺の気が休まりそうにない。


「可愛すぎるって怖いね。俺は普段の羽依がやっぱり良いかな」


「普段の羽依ちゃんだって可愛すぎるでしょ! ――まあ冗談はともかく、こんなばっちりメイクはする機会ないって。それこそモデルや芸能人にでもならない限りね。そうだ、あともう一つあった」


「ほうほう、その一つとは?」


「結婚式。ウェディングドレスを着たら完璧に仕上げないとね~」


 ニマーっとしながら可愛らしいことを言う。そんな彼女のウェディングドレス姿を想像すると、つい俺もニヤけてしまう。


「そっかあ、結婚式か。羽依はそういう願望あるんだ?」


「もっちろん! 蒼真と結婚するのがこの先の目標なの」


 全くブレずに言い切る羽依。その言葉は確実に俺の心臓を捉え、嬉し恥ずかしで一気に鼓動が煩く感じてきた。

 でも、結婚するってことは色々考えなくてはならないことも当然あるわけで。


「その頃ってさ、うちら三人の関係はどうなってるんだろうね」


「ん~わかんない。なるようになるんじゃない?」


 想像以上に投げやりな答えが返ってきた。

 未だに最適解が見つからないこの問題は、この先の俺たちに対処してもらおう。すまない、未来の俺たち。



 デパートに入り目的の下着売り場へ向かう。


 男子禁制と思いきや、わりと彼氏連れも多いのは都会ならではだろうか。地元のショッピングモールよりはまだ入りやすかった。


「サイズが大きくなると可愛いのが途端になくなるの。そういえば蒼真はお母さんのバストサイズ知ってる?」


「あーわからないな……」


 触ったことはあるんだけどな。なんてことは口が裂けても言えない。


「んふ、美咲ちゃんはアイちゃんで~す!」


 Iカップ……だと……。

 なんたる、なんたる……。


「おお、なるほど。愛がいっぱい詰まってそうだね」


 何言ってんだ俺。


「お母さんはやんちゃなところあるけどさ、やっぱ母性がすごいよね。私もたまにぎゅってしてもらうけど、あの感触はすごいって思うもん」


 毎日ぎゅってしてもらってるくせに、たまにと言う羽依。

 それは見栄なのかな。


「ほうほう……まあ、それよりも下着を選んじゃおう。あまり居心地のいい空間じゃないからさ」


 困り顔の俺をニヤけ顔で見つめる羽依。ようやく色々見て回りはじめた。


「これとこれとこれ。ちょっと試着してくるね~」


 買い物かごにポイポイと入れて、そそくさと試着室に入る。

 何を取ったかは見せてくれなかった。


 試着室の横でしばらくぼーっと過ごす。

 スマホとか見たいけど、そんなもの迂闊に出せないよな。

 試着を終えた羽依が出てきた。当たり前だけど下着姿ではない。


「おまたせ~。試着してるところ見たかった?」


「いや……そんなことより早く出たい……」


 羽依はくすくすと笑ってお会計に向かう。

 支払いだけ俺が済ませたけど、何を買ったかは分からない。

 後でのお楽しみってことなんだろう。


 逃げるように店を出た俺に、羽依は可笑しくてたまらないような表情を浮かべながら後を追う。

 そっと手を差し伸べるとぎゅっと繋ぎ返してきた。

 彼女は頬を赤らめながら俺を覗き見る。


「ありがとうね蒼真。ねえ、どんなの買ったか気になる? 見たい?」


 そう言ってニヤニヤがとまらない羽依。今日はずっと楽しそうだな。


「そりゃ気になるし、見たいよ。――見せてくれるの?」


「ん~、そのうちね。乞うご期待!」


 からかうような笑みを浮かべた羽依に、俺は苦笑いするしかなかった。

 気を取り直して、次の目的地を決める。


「はいはい。じゃあ次はどこに行く?」


「蒼真の服かな。デパートは高いからさ、良いお店知ってるから行ってみよう!」


 ここはもう都会っ子の羽依の独擅場だろうな。後は彼女に任せよう。


 デパートから表参道まで徒歩で向かう。そこそこ歩いたけど目的の店はまだ先のようだ。


 途中スカウトらしき人が声をかけようとするがすべて俺が遮断した。それも三回。

 彼氏がいようがお構いなしなのは、それだけ羽依が魅力的に見えるせいなのだろうか。


「やっぱ蒼真と一緒なら繁華街も怖くないね! さすがは私の彼ピッピ」


 一緒にいることを心強く思ってくれるなら彼ピッピとしての面目躍如だな。

 彼女が安心出来るならスカウトに舌打ちされても全然耐えられるってもんだ。


「この街にも少し慣れたかな。混んでなければさらに良いんだけどねえ」


「それは仕方ないよ。混雑にも慣れておかないとね。 都内で通勤するなら避けて通れないわけだし」


「まあそうだね。通勤――就職かあ。羽依は学校の先生になりたいって言ってたけど、まだ変わらない?」


「今のところはね。蒼真は将来の夢って何かある?」


「やりたいことは色々あるよ。学校の先生も魅力的だよね。調理師は俺向きだと思うし、パティシエも面白そうだね。色々あってまだ絞りきれないな~」


 漠然としすぎている将来像を語る俺に、羽依は目を細める。


「蒼真なら何にでもなれるよ。お母さんと一緒にキッチン雪代を三人で切り盛りなんてのも良いかもね。ずっとみんなで仲良く暮らすの」


「あ~すっごい楽しそう! 案外それが一番幸せだったりして」


 そんな楽しい未来を語っているうちに目的の店に着いたようだ。あっという間だったな。


 どんなに遠い場所でも、そしてどんな未来でも、羽依と一緒ならきっと楽しいんだろうなと思った。




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