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第193話 一難去ってまた一難

「蒼真。なんだか真桜のやつ、やけにエロくね?冬休みに何かあったんかな」


 昼飯時、隼が突然そんな野暮なことを言ってきた。

 新学期早々、何サカってんだこいつは。


「真桜は前からエロいだろ。知らなかったのか?」


「え? そうだったか? いや、髪染める前までは野武士みたいだったからな。寄らば切るみたいな」


 真桜の印象ってやっぱりそんな感じなんだな。分かる分かる。


「でも仲良くなってからはイメージ変わったんじゃない? 女の子らしいところだって結構あったろ」


「そりゃな、夏だって一緒に旅行に行って水着姿も見たんだし。――どんな水着だったっけ?」


 隼の言葉にとことん呆れる。


「自分の姉さん以外にホント眼中ないのな……。真桜の水着は可愛いふんどしだったよ」


「おう、そうだったな! ふんどし……って、んなわけねえだろ!」


 一瞬でも納得してる隼が可愛かった。

 

「羽依ちゃんもすっかり雰囲気変わったよな~。少し大人っぽくなったよな。前から可愛かったけど、なんつうか艶やか? ――あっ! 蒼真もしかして……ヤッたろ?」


 隼がいやらしい目をして俺を覗き込む。箸で突いてやろうか。


「そういうの聞くか? 俺は何も言わないぞ。まあ想像に任せるよ」


「なんだよ、乗ってこねえな。まあ蒼真らしいよな。そういうのべらべら喋らないのは良いと思うぜ」


 つまらなそうにしながらも、信頼度はプラスのようだ。


「だったら聞くんじゃねえよ。お前だって燕さんのこと色々聞かれるのは嫌だろ?」


「うん? 聞きてえのか? 蒼真になら教えてやろうか。実はあのクリパの後な――」


「あーあー聞こえなーい! 」


 咄嗟に耳を塞いで、強引に話を遮った。知らないほうが良いことは世の中たくさんある。これもその一つだと思った。


「隼くん、それからどうしたの!?」


「うおっ! 羽依ちゃんいつの間に!?」


 びっくりして椅子から転げそうになる隼。振り返ると羽依がすぐそばにいた。


「あれ、向こうのグループでご飯食べてたのに……」


「センシティブな話をするにはちょーっと声が大きかったね!」


「隼、私がエロくなったらしいわね。どの辺りがそう思うのかしら?」


 真桜もいつの間にかこちらに。顔を引きつらせながら隼に詰め寄る。今までの話が全部筒抜け!?

 俺たち絶体絶命のピンチだ。


 と、その時スマホが鳴動する。


「お、ちょっと呼ばれた。隼、後は頼んだ!」


「隼くん、燕さんとの話教えてよ!」

「私のエロいところってどこなのよ!?」


「おい、蒼真! この裏切り者!――」



 隼の断末魔の叫び声を心地よく聞き流し、廊下に出た。

 スマホを確認すると飯野さんからだった。

 至急図書室に来いとのこと。

 命令口調だ。俺、飯野さんに何かしたっけ……?


 この学校の図書室はとても広く、蔵書も充実している。新刊も多く、売れ筋のラノベなどもある。もっともその多くは貸出中でなかなか借りることは難しい。


 図書室に入ると飯野さん一人窓辺で佇んでいた。

 俺の姿を見つけると、険しい表情で手招きする。どうやら奥にある談話室に入るようだ。

 俺に先に入るよう促して、後から飯野さんが入る。

 そして鍵をカチャリとかける音がした。


 ……え? 俺、もしかしてピンチ?


 飯野美樹いいのみきさん。肉食系オボコギャルで小説家という一面を持っている。

 彼女のセンシティブな悪戯には俺も何度か被害を受けている。

 でも、今この瞬間が過去一の悪戯だ。そのぐらい俺の心臓は大きく跳ねた。


「先輩からの急な呼び出し。そして真剣な表情の先輩に密室へと連れ込まれて鍵をかけられた。今の主人公の心情を述べよ――」


「は? えっと……すごく、ドキドキしてます」


 真剣な表情の飯野さんが途端に呆れ顔へと変化する。


「なにそれ~、そんなつまらない感想いらないの~! もっと深層心理を、空気感を、五感を私に伝えるの!」


「それって……もしかして、小説のネタのために呼ばれた?」


「YES! 次の賞まで締め切りが近いのに全然筆が進まないの~! だからさ、主人公属性の君にネタを提供してもらうの。ねえ、ドキドキした? もっと具体的に教えて?」


 俺にそんな属性があったとは驚きだ。でも、もっとふさわしいのがいると思うけど。

 仕方ないので付き合うか……。


「そうですね、まずこの狭い空間で二人きりになると飯野さんの香りが充満します。なんだかとても良い匂いです。ムスク系の強めな香水と飯野さん自身の体臭が混ざり合い、一緒にいるだけで抑えられない衝動を感じます」


 とりあえず彼女の喜びそうな言葉を並べてみた。俺の感想に飯野さんは次第に顔を赤らめる。


「お、おう、良いね。でも、匂いの感想はちょっと恥ずかしいね……」


 肉食系オボコのウブな反応がちょっと楽しい。よし、興が乗ってきた。


「俺の心臓は今かなり高鳴ってます。ほら、触ってみてください」


 そう言って彼女の手を取り俺の胸に押し当てる。


「え、蒼真くんの胸板ってすごく厚くて硬いんだね……もっと華奢だと思ってたのに……心臓、すごく早い……」


「飯野さんに触れられてドキドキがとまりません。これから俺は何をされてしまうんだろう……と、思いました」


「えっと、そ、そうね。なんだか私もドキドキしてきちゃった……」


 もじもじしている飯野さん可愛すぎる。どれ、もうちょっとだけ……。


「飯野さんは大胆だから、このまま服を脱ぎだして全裸になったらどうしよう、なんて思ったりしてます」


「ぜ、全裸!? ってそんなことするはずないじゃない! あー、ひょっとしてからかってる?」


「ソンナコトナイデスヨー」


 俺のすっとぼけた声に、飯野さんの顔が真っ赤に染まっていく。


「あったまきた! ちょっと蒼真くん! 私をからかうなんて生意気! 百年早いわっ!」


 突然むきになった飯野さん。俺に詰め寄り壁に手を当てる。いわゆる壁ドンの体制になった。顔の近さに改めて心臓が跳ねる。

 やばい、からかい過ぎたか……。


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