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第190話 研修の成果

 遥さんと過ごす冬休み最後の日。

 丁度お昼になったので一緒にキッチンで昼食を作ろうとした時だった。


 遥さんのスマホに着信音が鳴る。

 彼女は手早く確認して返信した。


「蒼真くん、お客さん来るけど良いかな。御影さんよ」


 前生徒会長で、カリスマモデルの御影志保さんだ。遥さんに何の御用だろうか。


「ああ、全然かまわないですよ。個人的な付き合いがあったんですか?」


「ええ、とても仲良くしてくれてるわ。だからこそ生徒会長選挙の推薦を頼んだんだけどね。――誰かさんのせいで断られちゃったけど」


 そう言ってジトッとした目で俺を見る遥さん。なんともバツが悪い……。


「あう……すみません……」


 遥さんは志保さんに生徒会長選挙の推薦人を頼みに行ったけど、断られた上に、志保さんは真桜の推薦人になった。

 二人の仲を知らなかったとは言え、俺が志保さんに無理なお願いをしたからだ。真桜のためとはいえ、二人には悪い事しちゃったかな……。


「ふふっ、冗談。気にしてないわよ。御影さんも気にしてたけど、神凪学院のカリスマである彼女に貸しがあるのは悪くないわ。このカードは大切に使わせてもらうの」


 そう言って妖しく微笑む遥さん。ここ最近は可愛いところばかり見てきたけど、やっぱこういう強かな人でもあるんだよな。

 油断したらパクっとやられてしまいそうだ。


「せっかくだからお昼をご一緒しましょう。蒼真くんが居るって知ったらきっとびっくりするわよ。彼女、貴方のこと大分ご執心のようだし」


 からかうように言ってくる遥さん。でも、志保さんが俺のこと気に入ってるってのは本人が公言してるのか?


「そんなことないでしょ。あんなに綺麗な人じゃ、俺なんて釣り合わないですよ」


 俺の言葉に遥さんがムッとした表情を浮かべるが、すぐにへにゃっと眉を下げ、困り顔を見せる。


「学校一の美人と付き合っているのにつまらない謙遜するのね。まあ、それも貴方の良さなのかしらね……」


 妙に気分を害してしまったのか、少し不機嫌になる遥さん。言葉選びってなんとも難しいな……。


 特に引きずることもなく、その後は姉弟で楽しく昼食を作り始めた。

 今日は日差しが暖かく風もないので、ウッドデッキで昼食の予定だ。


「蒼真くん、御影さんにちょっと悪戯しちゃおうか」


 少し悪そうな表情をして、遥さんが俺に悪戯の計画を話す――。


「悪い人だなあ……でも、面白そうですね。乗った!」


 早速計画を実行するために、着替えをして志保さんを迎える準備をする。


 支度を終え、昼食も準備ができた頃に遥さんのスマホが鳴動した。


「蒼真、御影さんが到着よ。出迎えをよろしく」


 早速、役に入る遥お嬢様。彼女からの優しくも冷徹な命令口調で自然と背筋が伸びる。


「かしこまりました。お嬢様」


 さあ、今こそ研修の成果を見せる時。完璧なバトラーを演じよう。


 重厚な門が自動で開く。


「相変わらずすごい家ね~。あ、すみませんこんにちは、御影です。遥さんは――」


「いらっしゃいませ、御影様。お嬢様があちらでお待ちしております。さあ、お足元にお気をつけてお入りください」


 唖然とした表情で俺を見る志保さん。


「あ、はい、すみません……って……貴方、いえ、まさか……」


 だめだ……笑いをこらえるのが辛い、辛すぎる……。


 このポンコツさん、俺の顔をじっと見るけど他人の空似と思っているのだろうか。まあ確信がもてないんだろうな。


 今の俺は執事服姿で少し伸びた髪を無理やりオールバックにしてる。

 フォーマルな装いのおかげで別人に見えないこともないかもな。


「お嬢様、御影様をお連れしました」


「そう、下がっていいわよ蒼真」


「かしこまりました」


 満足気に微笑む遥さんに恭しく傅き、そっと遥さんの背後に着く。


「え!? やっぱり蒼真くん? どうして? ねえ、遥ちゃん! どういうことなの!?」


 大きな目をさらにまん丸にして驚いている志保さん。心の中で爆笑しています。ごめんなさい。


「ふふ、そんなに驚かないでください。――市場で買ったんです」


 遥お嬢様、お戯れが過ぎますよ……市場ってなに!?


「え!? 買ったってなに!? 人身売買? そんな、遥ちゃん! お金持ちだからってそんなのだめでしょ!」


「お嬢様、聞こえが悪すぎます。もうちょっとオブラートに包まないと……」


「ぷぷっ……あはは、そうね。ごめんなさい御影さん。実は……」


 わりとあっさりネタをバラした遥さん。多分もうちょっと引っ張りたかったんだろうけど、志保さんテンパリすぎちゃったからな……。

 俺が住み込みでバイトをすることまでは話したけど、さすがに姉弟関係にまでは触れなかった。


「ぶう……、二人で私をからかったんだ。酷いなあ」


「俺も悪ノリしました。ごめんなさい……」


 すっかり拗ねてしまった志保さん。美味しいお昼ご飯でどうにか機嫌を直してくれないかな。


 せっかくなので執事をそのまま継続し、お嬢様方に給仕をする。


「本日のメニューは、パエリアとシーフードピザ、スープはじゃがいものポタージュでございます」


「わお! すごく美味しそう! 蒼真くんがこれ作ったの?」


「はい。正確にはお嬢様と一緒にですね」


「ええ~、良いなあ遥ちゃん。来月から毎日蒼真くんの手料理食べられるんだよね? 良いなあ良いなあ!」


「ふふ、いつでも遊びにきてください。御影さんなら歓迎しますよ」


 人嫌いって話だった遥さんだけど、志保さんには心を許してるようだった。そういや学校の友達も遊びに来るって言ってたっけ。上級生を相手にするのはなかなか大変そうだな。


 執事モードは終了し、一緒に食事をいただく。

 志保さんはとても美味しそうにパエリアを頬張るが、ピザには慎重になっているようだ。


「うん、パエリア美味しい! 魚介の良いお出汁がでてるね。ピザも美味しそうだけどなあ……カロリーがなあ……」


「御影さん、そんなに細いのに気にしすぎでは? 美味しいものを食べられないなんてモデルって大変ですね」


 他人事のように言う遥さんを恨めしそうに見つめる志保さん。


「うう……油断するとね、お腹がぽこって出ちゃうの。でもインスタとかでは『痩せ体質で何食べても太らないの!』とか言っちゃうの……」


 優雅に見える水鳥が、水面下では必死に足で漕いでいる。女子あるあるなんだろうな。承認欲求って怖いなあ。


「それはまた厄介な……まあ、今日はチートデイってことで。さあ、ピザも美味しいですよ。まだありますからどんどん食べてください!」


「蒼真くんの鬼! でもせっかくだから食べちゃう!――お、美味しい……カロリーが沁みる……」


「そうね、カロリー消費できるようにトレーニングルームを作ろうか。無駄に空き部屋があるし、有効活用したいわね」


 スマホを取りだし何処かに電話を掛ける。


「もしもし、私よ。うちのゲストルームの一室をトレーニングルームにしたいの。機材はおまかせするわ。ええ、そう。蒼真くんも使うし私も。じゃあ頼んだわね」


 そう言って電話を切る遥さん。俺と志保さんは呆気にとられ、顔を見合わせる。


「次来た時にはゲストルームがジムっぽくなってるわ。ふふ、楽しみね」


 予算が無限に近いお嬢様的な決断の速さに本気でビビる。

 それにしても遥さんの多趣味に、さらにフィットネスも追加されるのか。


「遥さんって、結構多趣味ですよね。ゴルフやサーフィンや楽器類とか。あんなに色々やる時間あるんですか?」


「ああ、あれね。まだ使ってないけど、やりたくなった時のために準備してあるの。あれば安心するでしょ?」


「ですよねー」


 すごく納得ができた。

 俺と姉さんは間違いなく血が繋がっている。


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